88話 噂っていうのは誇張されてるもんだよ
「なんであたちがロデー・ポセイドンだと知ってるのでしゅか?」
「殺戮の幼女などポセイドン王国の英雄ロデー・ポセイドン王女以外知らないからだな! 貿易に訪れていた人魚が盛大に説明していたピヨ?」
天井に突き刺さったままの雛子はプルンプルンと胸を揺らして返答してくる。その内容は思った以上に酷い! そして、話を広げた人魚たちを怒りたい!
酷い噂だ! 冤罪、冤罪、風評被害。アキ・アスクレピオスはか弱い幼女なんだぞ?
「ポセイドン王国の王女でありましたか! このキーナ・ルプス。命を助けられた貴女に剣を捧げます! 是非騎士として仕えさせてください!」
「俺っちもお願いするっす! うへへ、国は違えど仕えられれば、伯爵家の復興の足がかりができたと自慢できるっす」
王女と聞いてスライディング土下座を見せる二人。息の合ったコンビだこと。
「…………」
まぁ、キーナは別に良い。ころっと態度を変えたのとか、前にアキ・アスクレピオスと名乗ったことを忘れたのかよとツッコミたいし、後でアキだと吹聴されると困るけど、そこはいくらでも誤魔化せる。
しかし、カストールはさっきまでアキを奴隷として売ろうとしていたのだ。なのに手のひら返しで仕えたいとはよく言えたものである。カスなトール、略してカストールという名前なわけ?
しかし、カストールは殺すことはできない。世界を守るためにはカストールのスキルが必要なのだ。……そういえば、妹がいたか。同じスキル持ちだから、もしやカストールはいらない子かも?
(うう~ん、駄目だ。とりあえずキープはしておかないと、ストーリーにどんな変化があるかはわからないからな)
迷うアキ。あ~ちゃんをちらりと見るが、天井にめり込んだ鳥さんに興味津々のため、今のところは捕食対象外らしいし、やはり殺すわけにはいかない。
「キーナ・ルプス令嬢。あたちに仕えたら、裏切りは許さないでしゅよ? 裏切ったりしたら、物理的にクビでしゅ。それにあたちはアスクレピオス家とも関わりがありましゅ。復讐相手でもあるんでしゅよ?」
首をかっ切るふりをして、幼女はむふーと頬をふくらませる。そのふりがあまりにも可愛くて、まったく凄みがないため、キーナの瞳はハテナマークだったが、なんとか理解できた模様。
「はっ、このキーナは忠誠を誓います。我ら一族は馬鹿なことをした父上を恨みこそすれ、アスクレピオス家には含むことはありませぬ。是非に姫に仕えさせてください!」
ゴンと痛そうな音を立てて頭を床に打ち付ける少女。
(この子は高慢な性格なので部下にすると厄介事がバーゲンセールで来そうだな。きっと大変なことになるだろう)
だが、少し話しただけでも問題点が山積みの娘だ。普通の企業なら、ご活躍をお祈りしますと告げて終わりなのは間違ない。
「わかりまちた。貴女は見習い騎士として雇おうと思うので、よろしくでしゅ」
なので、幼女会社は雇うのだった。色々とイベントを起こしそうな人は確保しておくのはゲームとしては当たり前です。
「ありがとうございます! このキーナ、粉骨砕身の思いで仕えたいと思います!」
感涙しながら額を赤くしたキーナ。まぁ、キーナはよい。さて、カストールは——
「カストール。なんで幼女拉致をしていたわけ? 家族に顔を見せられなくなる所業だよ?」
これはガチなので真面目な顔でカストールに問う。
「それはその者が我らと同じく捕まっていたからだ。ずっと雑用をしていたと聞いている。今日が誘拐デビュー日だな。いや、2カ月前にはデビューしていたが成功したのは今日が初めてと聞いていたピヨ」
ピヨピヨと手を振って、突き刺さった天井から抜け出そうとする雛子だが、面白い事を言うね?
「今日が成功したのが初めて?」
「あぁ、二枚目だが、どことなく軽薄で怪しすぎて、こんな裏路地についてくる者はハイハイをし始めた赤ん坊ですらいない。雑用ばかりをしていて、あと数日拉致に失敗してたら、砂漠で囮に使われていたか、男しょ、いや、それは幼女の教育に悪いか。あだだだ、もう少し優しく引っ張ってくださいピヨ」
「とれないピヨ」
「姫はアホピヨ」
雛子の足を、仲間がピヨピヨと鳴きながら引っ張るのを見ながら、アキは考え込む。そして、揉み手をして媚びるカストールをちらりと見る。顔立ちは二枚目だ。髪はこの暑さで傷んでいるのかカサついてはいるが、服装も普通だしおかしなところはない。と思ったが、よくよく見ると卑屈な笑みと揉み手をする腰の低さ、そして醸し出すチンピラ臭がとても怪しかった。その醸し出す態度は知り合いでもついていかないかもしれない。
「本当にあたちが初めての被害者? 奴隷にしようとしてた?」
カストールを疑わしげに睨みながらこてりと小首を傾げて尋ねる幼女だ。水飲み鳥のようにコクコクと頷くカストール。
「へい、そのとおりっす。それまでは酒場の掃除や、市井の情報集めに使われてました。俺っちって、南大陸では珍しい白い肌っすから顔立ちも良いので結構情報集めに使えるんですよ。でも、最近は不景気で、誘拐をしてこなければ、俺っちを売ると脅されて仕方なかったんです」
「情報収集って、情報を集めてたんだろ? それにやれと言われて子供を拉致しようとする時点でアウトだよ。あたちが澄んだ泉のように心が美しくて素直で正直者だから、拉致できたんだ。あたちが最初の被害者で良かったでしゅ」
両手を合わせてうるうると潤んだ瞳で、心が純粋な幼女は拉致被害者はあたち以外いなかったんだと一安心する。知らない人について行ってはいけませんといつも言われてたけどカストールはゲームの中で知っていたからノーカウントと自分のアホさを誤魔化す知力1の幼女である。
「被害者……?」
酒場に転がる死体をチラ見して顔を引き攣らせるカストールだけど、被害者だよ? 幼女が被害者だったよ? ぷにぷにほっぺにぱっちりおめめ、ぬいぐるみのように愛らしく、小柄な幼女なのだ。
「うん、最初の被害者。なんか異議があるなら辞世の句を用意して手を挙げてね。あたちは優しいから、チンピラには発言を許さないとか言わないから」
「いえ、ありませんっす。へへへ、俺っちは忠実なる姫の家臣っすよ」
ニコリと微笑んだら、カストールは反論はしなかった。良かった良かった。これで解決だね。
「これが、これこそが高位貴族のやり方……勉強になります、ロデー姫。私も同様の時に使いたいと思います」
腕組みをして、なぜかキーナが感心してるけど普通だから。拉致されそうになったから少し反撃しただけだから。
「ふむ……シーウィードに聞いた通りの幼女らしいな。話を盛りすぎだと思っていたが、あれは今思えば控えめに言ってたんだな」
ようやく突き刺さった頭を抜いた雛子が呆れながら言ってくる。
「あたちが心優しくって控えめな弱気な幼女っていう意味だよね。というか、シーウィードと知り合いだったんだ?」
「あ、あぁ、人魚たちが交易する際に知り合いとなったのだ。その際に教えてもらった。見た目は可愛いのに、中身は」
「中身は子猫のように少し悪戯なんだよね」
子猫大好きです。ニコニコと話をかぶせると、嘆息しつつ雛子は肩を竦める。
「そういうことにしておこう。さて、改めて助けてくれて感謝をする。ここは血の臭いが酷い。場所を移して話し合おうではないか」
たしかにちょっと幼女教育に悪い光景が広がってるから場所を移動しますか。
◇
酒場の奥、うらぶれた酒場には似つかわしくない豪華な内装の執務室に移動して、ふかふかのソファに座り、対面の雛子と話を再開する。
「まずは私がこのような場所に捕まっていた理由を説明せねばなるまい」
雛子は厳しい顔で髪をかき上げて、その細い首に嵌っている首輪を見せてくる。
「もしかして隷属の首輪? 嵌められたらその者の奴隷になっちゃうやつ!」
むふーと興奮する幼女だ。隷属の首輪。昔のファンタジー小説で流行ったお手軽魔道具だ。一般の奴隷にも使われる安価なチートアイテム。現実でそんなんあったら、確実に悪用されるどんな人間でも奴隷にするものだ。俺も手に入れたら王様たちに嵌めてみたい。お手軽に世界支配するのだ。最強の王はこっそりと相手に首輪をつけることができる盗賊とかになりそう。
「隷属させる魔道具か? そんなものがあるわけないであろう。あったとしても禁制となってすぐに廃棄されるだろうよ」
「常識的な反論ありあと〜。ファンタジーな世界でそういう夢のない反論はいらないのに。なら、その首輪はなんなの? アクセサリーではないよね?」
雛子を含めて、他のヒヨコッコやキーナも付けているが、奴隷の証なのかな? 尋ねると雛子らは苦い顔となる。どうやらアクセサリーではなさそうだ。
「これは我らが土地の争いで敗れた時に嵌められたのだ。この首輪をつけていると力が入れにくく疲れやすくなる。魔法やスキルも使えなくなるのだピヨ。ゆえに、ヒヨコッコ族1の戦士である私も力弱い者となってしまった……」
ヒヨコッコ族1の戦士は悔しそうにするが、ヒヨコッコという名前がなぁ……。でも、そんな魔道具あんの!?
「封印の力を持ってるの? え、そんなに強力な首輪がこんなところで使われるほどに普及してるの?」
「あぁ、使われ始めたのは1年前からだ。この地を支配する領主が作り始めたものでな。逆らう者は皆がこの首輪を嵌められた。実質奴隷みたいなものだピヨ」
「ロデー姫。私も嵌められました。ゆえに得意の剣も使えずに囚われていたのです」
「俺っちはつけるまでもないと使われてなかったっす」
なるほど、キーナはそこそこ強かったのだろう、悔しそうだ。カストールは殴っても良いだろう。もう少し努力してくれ主人公。
「この首輪は強力な呪いもかかっており、一度嵌められたら外すことができないのだピヨ! そのため、伏してお願いする。どうか、この首輪を作っている領主を共に倒してくれないだろうか!」
頭を下げる雛子と仲間たち。その様子を見て感動しちゃう。テンプレ、テンプレ王道ストーリーが始まったよ!
南大陸に来たんだ。ゲームストーリーに縛られることなく、王道の正義の主人公をやっちゃうもんね! ワクワクする悪役令息ルックスYだ!
「でも、とりあえずその首輪は壊しておこっか」
『アイテム破壊』
カードをホルスターから引き抜き、エイヤと掲げる。以前は神器すらも破壊した性能を持つから、こんな首輪は簡単に破壊できるよ。カードマスターアキの力を見せたげる!
『あ、あきちゃん、それやるとたいへんなことになりゅかも』
『え?』
珍しくあ~ちゃんが声をかけてくれるけど、もう遅かった。カードが光り、その光が雛子の首輪に降り注ぎ、ガラスでも砕くかのようにあっさりと砕く。
やったね。チートなカードマスターアキに、皆は驚きの声を上げるよ!
褒めて良いよとワクワクした顔になる幼女の目に、パリンパリンと、なぜか他の人たちが嵌めた首輪も砕け散っていくのが映る。
そして、地面がゴゴゴと激しく揺れて、外からなにかが崩れる轟音が響いてくる。
『クエスト:キャンサーの祭壇を破壊しました:経験点5000取得』
なにかよくわからないけど、なにかが起こったらしい。あれれ、幼女の王道ストーリーは?
あたちってなにかしちゃったかな?




