80話 悪の組織のせいにすれば全て解決
「よ、用無しだと、この私が?」
「そうでしゅ。もうお前は用済み。プトレマイオスが、この資金を回収しましゅ」
ホッカムリをした可愛らしい幼女がむふんと告げると、プトレマイオスから見捨てられたと身体を震わせてショックを受けるズム――
「嘘をつけ、このこそ泥たちが! どう見てもこそ泥だろうが!」
怒鳴ってきました。おかしいな? なんでバレたんだろ?
怪盗アキ・アスクレピオス。悪役令息ルックスYはなんでだろと小首を傾げちゃう。
「ヒャッハー、金だ、金だ!」
「うひょー、金貨の山だぜ」
「これでつけが支払えます」
「まきゅー、帰ったらシャンパンタワーやるまきゅよ」
アキの後ろで、迷い家につながる入り口に、ホッカムリをしてヒャッハー山賊団が宝物庫のお宝をエッサホイサと運び入れているけど、バレた理由が全然わからないや。
「ここは、わ、私は用済み? 少し任務を失敗しただけで、捨てる気なのかぁと怒鳴るところでしゅよ?」
テンプレだとそういうパターンだよね?
「黙れっ、幼女がプトレマイオスの使徒として姿を現すかっ! しかもホッカムリまでして!」
「むむむ、幼女のところが引っ掛かりまちたか。なかなかの名推理。やりまつね、ズム」
感心しちゃう幼女だ。まさか幼女の部分が足を引っ張るとはと驚くアキだが、さすがは知力1と言えよう。
「まぁ、結果は変わりましぇん。貴方はよく踊ってくれました。冒険者ギルドの資金を枯渇させないと頭を潰しても意味がない。薬草採取などでかなりの資金が冒険者に流れて、残りもあたちたちがいただきました。これで冒険者ギルドもおしまいでしゅ」
拉致した人たちを運び出す日が分からなかったから、マモと一緒にこっそりと牢屋に入ってタイミングを計っていたのだ。直ぐに運び出してくれて良かった。後はマノミを通してピスケス家が拉致被害者を救出。その裏で幼女も頑張ったご褒美をもらう作戦なわけ。
冒険者ギルドからプトレマイオスと貴族派に流れる金は巨額だ。しかも資金洗浄も冒険者ギルドは行っていたので、絶対につぶさないといけなかったんだよ。そのためにアキは依頼料を跳ね上げた。カステランならポーションなどに変えて資金を回収できる方法があるけど、錬金術師がろくにいない冒険者ギルドは膨大な資金を喪うだけとなった。
錬金術師を増やそうにも、あたちが錬金釜を買い占めたから不可能。これが錬金釜を買い占めた3つ目の理由だったんだ。
各地域にも冒険者ギルドはあるが、王都に資金を集約していたし、迷い家経由の資金移動が不可能となったので、冒険者ギルドには膨大な資金が貯まる一方だったのだ。その資金が失われれば、早晩冒険者ギルドは潰れる。
「……!? き、きさまら国王派か! こ、こんなことをして貴族派が黙っているとでも?」
「もちろん黙ってるさ。だって無能な使徒を殺して、プトレマイオスが残った資金を回収したというストーリーになるからね」
悪役令息ルックスYは冷酷そうに嗤う。拗ねてるんじゃないよ。冷酷そうな表情だよ。
『悪逆非道が発動しました』
「さて、そろそろ会話は終わりだ。マモ、扉を封印しゅて!」
「まきゅ!」
『石化』
アキの指示に従い、マモが扉に対して魔法を使う。生命体相手なら宝くじで2等を当てるほうが確率が高いと噂される石化魔法だが無機物相手には成功し、出口が石化されて出ることが不可能となった。
「タイチたちはそのまま宝物を運んでおいて。こいつはあたちが殺すから!」
ヒャッハーたちが頷くのを横目に、鋼の剣を手に持ちアキは床をステップするように踏みながら、瞬時にズムとの間合いを詰める。
「なにを生意気な。幼女が私を倒せるだと!」
ズムは腰に下げた短剣を引き抜くと、構えを取って迎え撃ってくる。
「倒せるかどうかは、あたちの腕を見ればわかると思うよ!」
間合いを詰めたアキは横薙ぎに剣を振るい先制攻撃を仕掛ける。今回の装備スロットは『怪盗の腕輪』と『鋼の剣』だ。剣術スキルは『剣豪の腕輪』よりも遥かに劣るが、それでもその振りは速く一般騎士を超えている。
「見た瞬間に殺してやる。後悔するぞ幼女よ!」
しかしながら、その剣撃はズムの短剣に刃を合わされて受け流されてしまった。続けての連続攻撃をアキは繰り出すが、その全てはズムの短剣に防がれる。
『パリィ』
単純な武技にして、最も使い勝手の良い武技だ。ズムはパリィを完全に使いこなしていた。
「どうだ? 貴様の剣など私には通じぬということが分かったかね?」
せせら笑うズムだが、冷静な表情でアキは動揺することはない。なぜならば予想通りだからだ。
(知ってるよ。ズム・セイレンのスキルは短剣術5、セージ3、詐欺3だ。そして、固有スキルに『受け流し系統の成功率50%アップ』を持つ冒険者ギルド編の中ボスだからな!)
このゲーム、どこの組織も腐っている。特に冒険者ギルドの崩壊クエストは出てくる幹部全てが敵という酷さだった。メノンが冒険者ギルドのボスだが、人身売買クエストではこのズムがボスだ。だがこいつは逃げるタイプのボスで、受け流しをしつつ、バトルフィールドから逃れるパターンのセコくて面倒なやつだった。
通常ならば、魔法で倒すのが正解だ。だが、アキは剣にて攻撃を続けていく。鋭い剣撃を繰り出し、対抗する短剣との打ち合いで、金属音が響き、火花が散っていく。
「通じぬのなら、通じるまで叩くのみ! ていていていてい」
「このガキ、諦めるということを知らないのですか!」
呆れた様子のズムだが、めげないアキは可愛らしくひよこのような雄叫びをあげて攻撃を続ける。
「冒険者ギルドは腐ってる。なんで依頼の仲介だけしかしてないのに、依頼料を勝手に決めてるんだ。武具も回復薬も冒険者持ち。そして、冒険者が依頼を失敗したらペナルティ。死んだら、なぜ不相応な依頼を受けるんだと悲しみもせずに怒る始末。それなのにギルド員は安定した職で高級とり。これだけブラックな組織もないぜ! せめて高給にしろよな!」
「冒険者を選んだ者が悪いのです。それを冒険者ギルドのせいにされても困ります。彼らは自ら底辺の仕事に就くことを選んだのですから」
打ち合いながら、ブラック企業大嫌いなアキが怒ると、ズムは冷笑で返す。その態度は冒険者ギルド全てのギルド員そのものだった。そのことが、アキはずっと不満だった。冒険者ギルドっておかしくない? とずっと思ってたのだ。
「村から捨てられた平凡な人間は良い職業に就くチャンスもないんだよ。だから、最低限の保証もない命懸けの仕事に就くしかないんだ。そして、挙げ句には冒険者を人身売買のために拉致する。この世界ではあたちがそれを変えてやる!」
正義の味方、アキ・アスクレピオスなのだ。たまには幼女も正義の味方をしてみたいのだ。
更に踏み込み、アキが攻撃をすると、遂にズムのパリィを通過して、その身体に傷をつける。いかにパリィに優れていても確率の問題だ。全てを防ぎ切ることなどできやしない。
「傷を負っていき、血だらけになりながら後悔しながら死んでゆけ、ズム!」
「くっ、このガキが。どれだけしつこいんだ。………ならば、切り札を切らせてもらおうか。後ろで金貨を運んでいる奴らも相手にせねばならないしな!」
痛みで顔を歪め、ズムは後ろへと飛び退くと、不敵な笑みで懐に手を入れて、鈍色のキューブを取り出す。
あれ、切り札なんてズムはなかったよ?
「これこそが、星座の光よ!」
『星座の戦士召喚』
キューブをズムが翳すと、光の粒子が放たれて、剣を持った戦士へと形成されていく。のっぺらぼうで、まるで戦士の影を光に染めて切り取ったかのような無機質な魔物に見える。なぜか不安を覚える不気味なる光の戦士だ。
「てい」
『不意打ち』
『だまし討ち』
『急所突き』
が、顕現するのを待つ義理もないので、アキはサクッと敵の背中に剣を突くのであった。顕現中に攻撃は常識だよね?
「っと、なぬ!?」
しかし、予想と違ってアキは目を剥いて驚く。
確実に致命傷を負わせたと思った一撃であったが、鋼の剣の先端は光の戦士の皮膚の手前で止められていた。なにか透明な障壁が発生しているのだ。
動揺するアキに光の戦士が振り向き様に剣を振るう。その剣撃はそこまで速くはなく、難なくアキは躱し様に、掌を向ける。
『水矢』
高圧の水が光の戦士に当たる。が、その水はやはり見えない障壁に防がれてしまう。
「物理も魔法も防がれる!? これはいったい?」
「ふははは、これこそがプトレマイオスの力の片鱗。その程度の攻撃は効かぬ。そして、さらに召喚!」
哄笑するズムがキューブを掲げると、新たに追加が2名。量産されたように最初の光の戦士と同じ姿だ。
(星座の力か! ここでもストーリーと齟齬が発生しているし、なによりも無敵なのか!? これ、召喚主を倒さないといけないイベント?)
「絶対無敵か、試してやる!」
『ファントムダンシング』
6体の分身を生み出すと、アキは先頭の光の戦士を切り刻む。躱すこともせずにマトモに受けるので、戦闘レベルはたいしたことはないと推測はするけど……。
「くっ、傷一つ負わないのか。どうなってるの、それ!?」
硬い反動が返ってきて、アキは腕が痺れて顔を顰めてしまう。まさかの階位9の武技も効かないとは思わなかった。
「私を甘く見たようだが、しっぺ返しを受けたようだな。まずはお前を捕まえて、今も金貨を運ぶ奴らの人質にしてあげましょう。というか、幼女が戦ってるのに、なんで後ろの奴らは気にせずに金貨を運べてるんだ!? お前らは大人のプライドとかないのか?」
アキの後ろで、エッサホイサと運ぶヒャッハーたちを怒鳴るけど、幼女は一人で敵を倒せるもん。だからヒャッハーたちへ怒るのは筋違いだ。
(とはいえ、ダメージを与えられないのは困ったな。低レベルの攻撃の無効化か? 高位の武器や魔法なら倒せるのかなぁ)
光の戦士の特殊能力にムゥと不満げな幼女はほっぺを膨らませるが
『アキちゃん。あのてきはパクパクできるよ。あたちがんばれる!』
『『捕食』が効くの? そうか、星座の光とか言ってたな。なら、あ~ちゃんに頼るよ!』
ふんすと鼻息荒くあ~ちゃんが声をかけてくれるので、バトンタッチ。
『捕食』
あ~んとあ~ちゃんがお口を開けると、光の戦士がその身体を砂糖のように崩して、光の粒子に変わるとあ~ちゃんのお口に吸い込まれるのであった。
「な、なに! 無敵の戦士を吸収するだと!?」
予想外の光景に、ズムが声を荒げるが、あ~ちゃんも大変だった。身体の主導権をアキに戻して、幽体となってモグモグしてる。食べるのに時間がかかるみたいだ。
「くっ、あたちの切り札でも全員は倒せましぇんでしたか」
そして、幼女の身体にも反動が来たようで、アキは片膝をついて呻いてしまう。
「ふ、フハハハ、そうだろう。どのような切り札かは分からないが、連発はできないと見た。しかし、こちらはまだまだ召喚できるのだ」
動揺していたズムだが、幼女が限界にきていそうな様子を見て冷静さを取り戻すと、新たに光の戦士を召喚してしまう。どうやら無限に光の戦士を召喚できるようだ。
「くっ、でも、あたちは負けない! 正義のために!」
顔を歪めて、アキは立ち上がると剣を構える。こいつらは捕食以外では倒せない。ならば最後まで戦い、決して逃げないと正義の幼女、アキは決意の表情となるのだった。
『捕食によりイベントガチャチケットを手に入れた』
ログの内容は関係ないよ。でも、召喚を限界までしてください。




