81話 ガチャチケットって、響きが魅力的だよね
「頑張って! もっと頑張って! いける、いけるよ。生命の炎を燃えあがらせて、さん、はい。しょーかん!」
「うぅ………この悪逆非道のよ、幼女め………」
応援する幼女だけど、憎々しげに言う言葉を最後に、倒れ伏したズムは力なく手をパタリと下ろして息絶えた。
アキとズムの激闘。ズムは15体の光の戦士を召喚して対抗してきた。そのため、アキは生死の境目をダンスするように懸命に戦った。あ~ちゃんはまぐまぐ頑張った。今までの戦いで一番緊張した戦闘であったのだ。
「まだ死なないで。あと5体、あと5体は召喚できるって!」
なので、良きライバルになる可能性を感じ取り、幼女は懸命にズムを応援するが……残念ながらピクリとも動かない。
「御臨終です。老衰ですよ、お嬢」
タイチがアキの肩に手を置き告げてくるので、涙目になってしまう。
「こいつはライバルになるはじゅだった。きっと定期的に召喚戦士を生み出す強敵になると思ってたのに……」
悲しみの幼女だ。しょんぼり幼女だ。これから先も戦う運命と信じてたのに。
「たぶん、これ一体召喚するごとに寿命が5年減るタイプの魔道具ですよ。ほら、もう皺くちゃで百年生きてきた老人みたいに老いてるでないですか」
魔法使いのウイの言う通り、中年男性だったズムは見る影もなく、皮膚は皺くちゃで痩せ細って白髪の老人となっていた。たしかに寿命を削るっぽい。でも、ライバルなら不死鳥のように復活すると信じてたんだよ。
「そっか……強敵だったよ、ズム・セイレン。それじゃ、タイチ使ってみて。何体召喚できるか試してみようよ」
なのでライバルに敬意を示しつつ、キューブをポイとタイチに渡すとジト目で見返される。
「お嬢は悪魔ですか。でも無駄ですぜ。楽しそうではありますが、このキューブは帰属した所有者のみが使えるようです。もう使用不可になってます」
タイチも魔法を使えるため、キューブの力をすぐに見抜く。チェッ、やはりそういう制限が仕掛けてあったか。
「そっか……。ガチャチケットは15枚しか手に入らなかったなぁ。キリの良い22枚が良かったのに。正義は勝つってやつだよね!」
「お嬢、文脈に繋がりが全く無いですぜ。せめて建前だけ口にしましょうよ。それになんで22枚が切りが良いんですかい?」
「10連ガチャにはボーナスとして一回オマケがつくもんなんだよ。もっとガチャチケット欲しかったなぁ」
「正義を建前にしようって意味だったんですが」
なんかうるさいので、口笛をフーフー吹いてアキは死んだズムの指を軽く切ると、テイッと振るう。血が床に少しだけばら撒かれて、霧で吹いたような光景になるのを見て、満足げに立ち上がる。これで仕込みは充分なはずだ。
「なんで血をばら撒いたんですか?」
「これはプトレマイオスを意味する星空を表しているんだ。分かりにくいから気づくかは不明だけど、鋭い人間ならズムが台所メッセージを残したと考えるはず。プトレマイオスが貴族派を裏切って、資金を奪い取ったと思う………といいなぁ。ダメ元だよ。鋭い人間しか気づかないから、気づかれたら貴族派はプトレマイオスと大きな溝ができるかもね」
肩を竦めると、クフフとちっこいお手々で口元を覆い笑う幼女。貴族派とプトレマイオスは同盟関係に近い。どちらが下部の組織というわけではなく、同列の組織なのだ。だからこそプトレマイオスが疑わしいと思ったら混乱が起こるだろう。
「わかりにくいダイイングメッセージだから信憑性があると。お嬢って本当にこういう悪魔的な謀略には天才的ですよね。ダイニングとダイイングは分かってないのに」
呆れた様子のタイチたちだけど、こっちは少数精鋭の組織なんだ。地味に混乱を広げて敵の勢力を削らないといけないから仕方ないんだよ。ダイニングとダイイングは似てるから仕方ないんだよ。
「あたちは悪役令息ルックスYだからね。それじゃ盗まれた証拠に少しだけ金貨を床にばら撒いたら撤収〜!」
「おー!」
そうして皆で迷い家に入り、宝物庫に残るのは老いて死んだズムだけとなるのであった。
『クエスト:冒険者ギルドを崩壊させた。経験値20000取得』
◇
『捕食』
『捕食により、イベントガチャチケットを3枚手に入れた』
迷い家の屋敷に戻り、すぐにキューブは破壊することとした。キューブもあ~ちゃんは捕食できたようで、捕食を使うとキューブが壊れてホタルのような淡い光があ~ちゃんのお口に入るのだった。あ~ちゃんは美味しそうに食べていた。
『あむあむ、こんぺいとうのおあじ』
捕食はスキルを手に入れられるはずなんだけど、ガチャチケットの方が嬉しいから許そう運営よ。スキルの場合、碌なスキルにはならない予感しかしないし。
「キューブを調べないで良かったんですか?」
「眼鏡で見たけど、『星の光を封印した魔道具』としか表記されなかったからね。それよりもガチャチケットに変換する方が大事でしょ?」
ウイが魔法使いらしく調べたさそうにして声をかけてきたが、どう見てもキューブを調べる方が重要なはずだが、ガチャ廃人にとってはガチャチケットの方が大事であった模様。
「合計18枚。ふふふ、どんなイベントなのかなぁ、楽しみだなぁ」
ステータスボードを開いては閉じてを繰り返し、イベント通知を待つ幼女だ。ワクワクとして、瞳を輝かせていた。なにせ、イベントもバグっぽい星座イベントを抜かせば、公式では初だ。これでテンション上がらなかったら、反対に変だよな?
後ろでは金貨の山を前に、他のヒャッハーたちは大騒ぎだ。
「ヒャッハー、金貨、金貨の山だ」
「うひょー、これだけあれば一生贅沢に暮らせますぜ」
「いくらでもお酒を飲めますね」
「シャンパンタワーやるまきゅよ」
「良いですね。芸術的なタワーを作ってみせますよぉ」
盗んだ、もとい、没収した金貨を前に大喜びだ。まぁ、物欲のない連中だからシチュエーションに酔って楽しんでるだけなんだけどさ。たしかに金貨の山の上でゴロゴロするのは楽しそうだ。
ヒャッハーたちの楽しそうな光景を見て、あ~ちゃんがソワソワし始めるので、ゴロゴロ大会かなと思っていたらピコンと待ち望んでいた音がする。
『星の光イベント! このイベントでしか出ない使い切りカード多数! ガチャチケットを使用する場合、ガチャ時にレア度アップ!』
「きょわーっ! きたきたきたー! このイベントだけだって! 絶対にやらないと!」
このイベントだけ。その言葉にガチャ廃人は酔ってしまうのだ。もちろんガチャ幼女も大興奮だ。興奮のあまり、てててと走って金貨の山にダイブする。
チャリンチャリンと金貨が舞って、コロコロ転がる幼女はキラリンと瞳を光らせると、ガチャコマンドを叩く。
「見えた! これなら行ける!」
なにが見えたかは不明だが、ガチャ廃人たちは時に幻想を見るのでスルーすることとして、いつも光の柱が落ちるエフェクトに、流星が落ちてくるエフェクトも加わった。
「これが星の光。こんなに優しい光なんだね。虹色なんだ流星って。虹色だよね、虹色に決まった」
その光を見て拳を握りしめて祈るように瞳を潤ませる幼女。その瞳には虹色が映っていた。
『R:チョコレートケーキ:使い切り』
気の所為だった。
そして、優しいあ~ちゃんがぴょこんとアキの前に顔を突き出す。
『あ~ちゃんがぱわーをおくろっか?』
『うん、気持ちだけ受け取って━━』
『え~い! あ~ちゃんぱわー。えいっ、えいっ』
アキの答えを待たずに、あ~ちゃんがふんすふんすと鼻息荒くほっぺを真っ赤にしてガチャコマンドをちっこいお手々で連打する。
『GR:究極のチョコレートパフェ:使い切り』
『GR:至高の干し柿:使い切り』
『GR:孤独のメロンフロート:使い切り』
『GR:勝利のどら焼き:使い切り』
『GR:敗北のたい焼き:使い切り』
『GR:幼女も飲める熱々のお茶:使い切り』
『のぉぉぉぉ、すとーっぷ! あ~ちゃん、ストップ!』
ひょえ~と悲鳴を上げて、叫ぶ幼女となって、あ~ちゃんを止めるが遅かった。ふんすと気合いを入れてあ~ちゃんがぱわーを注入した結果は全て虹色だった。でも、おかしいな、全然嬉しくないです。
『おおあたり! おおあたりだよね? あ~ちゃんがたべたげる。あきちゃん、これはあ~ちゃんにまかせて! きょーてきだけどたべたげるから!』
幽体でもカードを食べられるので、口元をチョコレートでベトベトにしながら、たい焼きを頬張り、メロンフロートのソフトクリームを食べてあ~ちゃんは笑顔で大忙しだ。俺は熱々のお茶を貰うよ………。
「ま、まぁ、あ~ちゃんにもチケット分けないといけないから、これは普通の分配だよな。残り11枚。ここからがあたちの真価だ! 10連ガチャゴーッ!」
10連ガチャだけど11回。ガチャ世界の常識だと咆哮し、アキはガチャコマンドを連打する。
『R:美味しいお米:使い切り』
『R:本物の醤油:使い切り』
『R:昔ながらの味噌:使い切り』
『R:高級食パン:使い切り』
『R:火球:使い切り』
『R:ルーンロープ:使い切り』
『SR:無限のポシェット(容量200キロ):使い切り』
『LR:メテオ:使い切り』
『SR:マーモットの群れ:攻撃力100、防御力100:使い切り』
『R:熱々のお茶:使い切り』
「ぐっ、オチにお茶を使うんじゃない、運営! う、ううん………ま、まぁまぁ良いドロップかな?」
結果は不満はあるけど、声に出すほどではない。なんというか使い切りと考えるとビミョー。レジェンドもあるし、予想を超えた結果ではないというところか。できれば、ゴッドレアが欲しかったけどな。
「最後の1枚も使い切っておこうっと」
メテオってかっこいいなと、カードをしげしげと眺めて、アキは天の配剤か、無欲な気持ちで最後のガチャチケットを使用した。奇跡的に無心となった。
『GR:世界樹の精霊:攻撃力3000、防御力6000:状態異常無効、移動不可:使い切り』
「ん?」
あれ、なにか虹色が見えるよ? これは気のせいかな?
コシコシと目を擦るが、カードには大きな樹が絵が描かれており、レア度にGRと書いてある。どうやら気の所為でも、幻でもないような!?
「や、やったぁぁぁぁ! ヒャッハー、あたちは遂にやりまちた。これぞ、あたちの実力でしゅ。いえーい! やはりイベントではレア度が高いカードがでるよね!」
大興奮で飛び上がり、悪役令息ルックスYは踊り狂うのであった。




