73話 仲間が入ったらガチャをするのは自然の理
━━━ソロジャがカステランで会議をする1日前のことである。
マノミ・ピスケス公爵令嬢は護衛をつけずに、こっそりと外出をしていた。お忍びで買い物を楽しむだけではない。ある目的があったからだ。
大通りを外れて陽射しの入りにくい狭い裏道を進む。以前なら怖くてそんなところを歩くことはできなかったが、鍛えた心は自信に満ちており、油断せずに堂々と歩けていた。きっと以前のマノミを知る者は驚くに違いない。
一見すると優しい笑みの少女は僅かに目を細めると目の前の店を見て、袋から取り出した手紙と照らし合わせる。
「ここがロデーちゃんの手紙に書いてあった場所に間違いないようですね」
流行っていなさそうな、少し薄汚れた店には小さな看板があり『営業中』とある。窓ガラスは曇っており、中の様子は見えないが雑貨屋だろう。
マノミはロデーと名乗る差出人からの手紙を先日受け取っており、仲間になるなら、周囲には全て秘密で今日のこの日に訪れるようにと書いてあったので、半信半疑ながらも訪れたのだ。
そっとドアを開けると、チリンチリンとドアベルが音を鳴らす。思わずビクリとしてしまうが、特になにも起きないため、中に入る。中は店構えにふさわしく、古ぼけた本から、怪しげなポーション、適当に並べられた剣や杖の横に鍋が置かれていたりと、やる気を感じさせない品揃えであった。
小さな店内だ。すぐにマノミは店内の奥のカウンターにローブを羽織った人が座っていることに気づき安心する。
「こんにちは、ロデーちゃん。ここがロデーちゃんの秘密の拠点なのですか?」
声を掛けるとローブを着た人はガーンとお口を開けて、悲しげに涙目になる。
「そこはこの手紙をもらったのですけど知ってますか、でしょ! いきなり見破るの禁止! どーしてすぐにわかっちゃったの! ワンモア、もう一回、はい、リテイクお願いしましゅ」
ペチンペチンとカウンターを叩いて文句をいうのは、白髪のカツラを被った幼女であった。ちっこいおててとぱちくりおめめ、プルプルお肌は隠していなかったので、バレバレであった。たぶん怪しげな老婆になりたかったのだろうが、ドッキリを企む幼女にしか見えなかったのである。そして、幼女である以上、ロデー姫であることもマノミの中では確定であった。幼女という時点でロデーちゃんはバレるのは確定していたのだ。
とは言え、悲しげなのでマノミはもう一回やり直そうと声を掛ける。アホな幼女に付き合う優しい少女である。
「あのおばあちゃん、この手紙を貰ったのですが、ロデー姫のことを知ってますか?」
「はいはい、知ってますよ。ロデー姫のことはよ~くね。ふえふえふえ、ふえふえましゅたーあ~ちゃんだから、ふえふえわらってあげ、ゲフンゲフン、さぁ、奥についてきなされ」
なにか謎のやり取りがあったようだが気にせずにロデーちゃんが手招きするので奥についていく。奥は店と比べて意外と広く、倉庫代わりに使っているようで木箱が積んである。
奥に進むと卓が用意してあり、その手前でロデーちゃんはピタリと止まる。
「ふふふ、マノミ、あたちが幼女だからこそわかったと思ってまつね?」
「は、はい。拙い変装でしたのですぐに分かりました」
「だよね。あれはわざとでしゅ」
振り返るその顔は悪戯そうだ。なるほど、わざとであればわかる。が、悪戯そうな顔が真面目な顔に変わるので、本題はこれからだとも悟る。
「その先を見せるのは、マノミがあたちたち、『名も無い組織』に入ると答えてくれてからでしゅ」
「『名も無い組織』ですか? 名前をつけないんですか?」
「うん、少数精鋭の組織作りを目指すから。お互いに知っている者たちだけで作るから組織に名前をつける必要はないの」
「たしかに名前をつけなければ、敵に調べられる可能性も低くなります。名も無い組織を調べよと言われても困るでしょうし。ですがそれだとたいした活動はできないのではないでしょうか?」
「その理由は組織に入ると誓ってくれるなら教えてあげるよ」
いつもと違うロデーちゃんの態度に本気であることを感じ取る。ここで断れば………。
(口封じに殺されるかもしれません。ですが、ロデーちゃんが歩む辛い道を考えれば当然。私もその道を共に歩むと決めているのです!)
「分かりました。私マノミ・ピスケスは家との繋がりを捨てて、ロデーちゃんの組織に入ることを誓います」
強き決意でマノミは言葉を口にするのであった。果たしてロデーちゃんの道が辛い道なのかは不明であるが、マノミは辛い道だと考えていた。甘い道の可能性もあるのだが。
「グッド! そしたらマノミはあたちたちの同志となりまちた。だから教えましょー。組織の人数は少なくとも、問題がないことを!」
ロデーちゃんが指をスカッと鳴らすと、その姿が変わる。そこにはアカデミーで見た少年の姿があったことに驚いてしまう。
「!? その姿はアキ・アスクレピオスさん?」
またスカッと鳴らす幼女。今度は先日会ったアムネジアに変わる。さらにスカッと指を鳴らす。
「ふふふ、驚きまちたか? あたちは幻の術でコブターンに変装できて、変身で人魚にもなれるんでちたー! ピチピチ」
最後の人魚の姿は、陸に打ち上げられた魚のように尻尾を床にピチピチ跳ねさせているので少し可哀想であった。ピチピチ跳ねて死んじゃいそうだった。
とはいえ、驚くマノミにロデーちゃんはなぜこの力が手に入ったのかを説明してくれるのであった。それは『アスクレピオスの短剣』という呪われた短剣の力であり、哀れなる幼女の人生でもあり、マノミは再び涙するのであった。
◇
「というわけで、マノミちゃんが仲間になりました〜。拍手〜ぱちぱち〜」
「おめでとうございます、マノミさん。これからは一緒に王都で買い物とかしましょうね!」
「これからは共に戦うお嬢の部下と言うことで、なにか面白そうなことがあったら教えてくだせえ」
「姫のご友人が仲間になってくれるとは心強い限りです。アカデミーとやらで、姫を害しようとする輩を排除してください」
ケイを始めとする面々がマノミを歓迎してくれて、アキは一安心だ。
「良いお酒を売ってる場所を教えてくださいね〜。安い酒場でも良いです」
「マモはペット枠まきゅ。美味しい餌を求めてるので何時でもくれていいでまきゅ。最近は発酵したぶどうジュースとか好きまきゅよ」
一人と一匹は駄目なところを見せていたが。
「まぁ、面子はこのメンバーでいくつもり。後はあたちたちが裏から気づかれないように操れば良いと思うんだ」
ケイがテーブルにお茶を置いてくれるのを見ながら、アキはご機嫌に足をパタパタ振る。アスクレピオス侯爵家とピスケス公爵家の子供が組めば、かなりのことを知られずにできるだろうからね。
「明日の冒険者ギルドでの話し合いですか。たしかに先ほどの内容ですと、国王派の勢力拡大とピスケス公爵家とアスクレピオス侯爵家の勢力拡大を狙うものだと誰もが思うはずです。プトレマイオスに打撃を与えるのが目的だとは思いもしないでしょう。さすがはロデーちゃんです!」
尊敬の面持ちで見てくるマノミに、むふんむふんと機嫌よくアキはぐいっとお茶を飲み干すと、部屋の真ん中へと移動だ。
「でしょー! あたちの計画は完璧なのでしゅ。そして、これに天の配剤が加われば間違いなし!」
「天の配剤?」
「うん、天の配剤」
天の配剤、またの名を『ガチャ』といいます。最近やってなかったから、ガチャ不足だったんだよ。ガチャポイントは現在36500。たっぷりあるから問題ない!
「まずはカステラの茶色ところを食べて、2に踊りを見せて、3に天へとお願いをする!」
幼女流ガチャ拝礼の儀式ナンバー8だ。数はもちろん意味はない。気分の問題です。
とはいえ、冷静だ。なぜならばあ~ちゃんがガチャへ介入できることを知ったからだ!
『あ~ちゃん、スペシャルガチャやるからゴッドカード出せる?』
『うん! あ~ちゃんできるよ! でも、ガチャポイント10000になりゅよ?』
『問題ない! ゴッドカード確定ならばお釣りが出るよ。ふははは、買った!』
ためらいなく八百長をする悪役令息ルックスYだ。ポチリとガチャを押すとあ~ちゃんの言う通り虹色となった。
『おぉぉぉぉ、こんな簡単な方法があったなんて………?』
『GR:至高のカステラの茶色いとこ:使い切り』
うん、……うん?
『あ~ちゃん、装備ガチャをやるからゴッドカードよろちく!』
『あい! これはあ~ちゃんがたべておくね!』
めげない幼女、その名はアキ・アスクレピオスなのだ。オールなのがいけなかったのだ。ここは絞るべきだったのだ。反省、反省。
精神世界にて器用にカードを出現させて、まぐまぐと至高のカステラの茶色いとこを食べるあ~ちゃんを横目にふんぬと気合いを入れてガチャボタンを押下する。
BGMが鳴り響き、虹色へと光が昇華する。
『GR:至高のチョコのバット:装備』
20000ポイントが無駄になりました。
『うぐぐぐ、あ~ちゃんのおやつのためだったから! おやつカードを欲しかっただけだから! あ~ちゃん、もう介入無しで良いよ』
血の涙を流しつつ、まぐまぐとチョコのバットを食べるあ~ちゃんへとお願いする。やはり八百長は駄目だよな、うん。正々堂々とガチャをするべき!
『とりあえず、スペシャル装備ガチャ!』
『R:鋼の剣:攻撃力+200:装備』
なんか見たことがあるのが出たよ? なんだっけこれ? たしかに記憶にあるな、このカード。
「なんだよ、もぉ~! どうして! どうして運営はこういう意地悪を幼女にするわけ!? レア確定でだぶりを出すなよなぁ〜、ちくしょー!」
あれはなんですかとマノミがケイたちに聞いて、いつもの病気ですと話しているが気にする余裕はない。
『残り10000あるもんね! 連続でスペシャル装備ガチャだ!』
もはやカードの限度額まで使おうとする廃課金者のように幼女はやけになって、ポチポチ連打だ。一度課金沼に入り込んだ者は底なし沼まで突き進むのである。
『R:鋼の槍:攻撃力+200:装備』
『ら、ラストぉぉぉ!』
最後のスペシャルガチャを押下して━━━。
『SR:怪盗の腕輪:盗術6、影術6:装備』
「きちゃあー! キタキタキター! これで勝つる! 冒険者ギルドなんかポポイのポーイだ!」
幼女は喜び踊り狂い、マノミは組織に入ってよかったのかしらと、若干不安になるのであった。




