74話 悪役令息ルックスYは善良なスカウト幼女
冒険者ギルドは騒然としていた。当然であろう。なにせ、ライバルギルドが目の前に建てられたのだ。しかも相手はアカデミーと組み、ピスケス公爵家とアスクレピオス侯爵家の支援も受けて資金も潤沢だ。そのため、ライバルギルドに負けないように、冒険者ギルドでは決起集会が行われていた。
今日で18歳となる受付嬢は、受付ホールに集まっている冒険者たちへと、盛んに手をあげて演説をしている新しいギルド長を眺めていた。
「諸君、あの建物を見よ! あの建物は亡きギルド長の屋敷だった。しかしながら、今は敵の施設へと化している。ギルド長はその独裁ぶりと、資金の横領、そして王都へのゾンビラット襲撃を画策して殺された。それはいい!」
あまり良くないのではなかろうかと、受付嬢はジト目となる。
「だが、だからこそ、冒険者ギルドは組織として自浄能力を高めるときだ。ギルド長他幹部たちがいなくなった今、冒険者ギルドは腐った膿がなくなったのだ。これからは私たち新たなる世代で、良き冒険者ギルドを作るはずであった。しかるに!」
バッと手を振り、新ギルド長ズム・セイレンは憎々しげに対面の建物を睨む。歳は30代後半の若手として順調に出世をしてきた男であり、出世欲の高い人間だ。
「王国は別に『総合商社カステラン』などという、ちょっぴり美味しそうなギルドを創設した。カステランの業務内容の一つはなんと薬草採取から、魔物退治まで冒険者ギルドと被る業務があるのだ。これこそ王国が自由なる冒険者ギルドを滅ぼそうとする謀略である。諸君はそのようなことが許せるか? 伝統ある冒険者ギルドを潰し、その利益だけを奪おうとするあの総合商社カステランを!」
「許せるわけねぇ! 俺たち冒険者は自由だ!」
「そうだ、そうだ。国がやることなんざろくでもねぇに決まってら!」
「俺たちは若い頃から冒険者ギルドに世話になってる。そんな冒険者ギルドを潰させはしねぇぜ!」
集まっている冒険者たちが一斉に声を張り上げて、冒険者ギルド支持を訴える。隣の受付嬢たちも、私たちも冒険者ギルドの一員よと興奮気味に手を翳す。ものすごい熱量で、受付嬢も手を振り上げる。
「そーよ、そ~よ。冒険者ギルドの受付嬢になるのも大変だったんだから! カステランなんかに負けるわけにはいかないわ!」
受付嬢は今年で18歳だ。
(12歳の時に見習いでこのギルドに雇われて、掃除洗濯などの雑用を地道にこなし、2年前にようやく受付嬢になれたのよ。ここで冒険者ギルドに潰れてもらうわけにはいかないわ)
皆の心が一つとなり、強い結束による熱気が周囲を支配する。ズムギルド長はその様子を眺めて満足げに頷くと、静まるように手を振る。
「よろしい、皆の気持ちはわかった。ここに宣言しよう。冒険者ギルドは決して負けないと。そして、皆に誓おう。月1の冒険者ギルド内の飲み放題、成績の良いものは感謝状を、そして、冒険者とギルド員との絆を深めてアットホームなギルドを作ることを! そうして全てがうまくいき、カステランが潰れた時、私は国内の冒険者ギルドを支配する絶対的な存在になるだろう!」
「うぉぉぉぉ、セイレン、セイレン!」
「ついていくぜ、ギルド長!」
「あんたが大将だ!」
冒険者たちもギルド員も大騒ぎだ。熱狂が熱狂を呼び、皆がギルド長を喝采する。
「頑張ってよね、新ギルド長! 期待してるからね!」
もちろん受付嬢も熱気に煽られて、同じように手を振り上げて、ギルド長の名前を叫び━━それはやってきた。
「オウオウ、オウオウ、オットセイのまねはとくいな、ゲフンゲフン、大騒ぎじゃねーか、くふふふ」
「そ、そうですね、すすこし、怖いのですが」
「ふふふ、人が集まっていて、ちょうど良いわね………少しこの服は胸元がはだけ過ぎでは?」
3人の見たことのない少女達が、冒険者ギルドに入ってきたのだ。
◇
熱気渦巻く冒険者ギルドに恐れることなく入ってきたのは3人の少女だ。
一人は鹿の頭蓋骨だろうか、頭からすっぽり被り、おどろおどろしいローブを羽織っている。
一人は真っ赤な髪を背中まで流し、キツめの目つき、胸元がかなりエグい真っ赤なドレスを着ている妖艶な少女だ。
最後はもじゃもじゃの髭を生やした小柄なドワーフ幼女だ。ドワーフかどうかはその髭でわかるのだが、髭があってもぱちくりお目々が可愛らしい幼女だった。
ドワーフ幼女は冒険者たちの視線を集めつつ、風を切るように肩をゆらゆら揺らしてギルト中に入る。
「オウオウ、ずいぶん人が集まってるようでしゅね。こりゃちょうどよい」
うふふと笑うドワーフ幼女に、冒険者たちはなんだコイツと胡乱げな視線になるが気にしない。
『あ~ちゃんもオウオウできるから! オウオウとくいだからみせたげる。オットセイましゅたーだから!』
『あ~ちゃん、後でね。おやつを食べながらオットセイましゅたーを見せてね?』
最近、精神世界で強くなったあ~ちゃんが勝手に身体の主導権を奪おうとするので、宥めつつ歩く。そう、このドワーフ幼女の中身はなにを隠そう、悪役令息ルックスYなのだ。
「くくく、そうですね。これだけの冒険者たちがいるならちょうど良いです。くくく」
鹿の頭蓋骨を被っている変態はケイである。とりあえず『くくく』とだけ言ってにぎやかしよろしくと連れてきました。
「うふん、そうねぇ、男たちがよりどりみどり……無理です。この服は露出が多すぎます。マントを羽織ります」
妖艶な少女は本来はその豊満な肢体を見せて、胸を揺らしながら冒険者たちの視線を集める………予定だったけど、涙目になってマントを羽織るのでだめっぽい。その少女の正体はマノミ・ピスケスである。恥ずかしさに耐えきれなくなった模様。
この3人で今回冒険者ギルドの冒険者たちをスカウトしに来たのだけど、どうやらアキが頑張るしかなさそうだね。
(仕方ない。あたちが動くか。大丈夫、善良で誠実な行動を取れば、皆来てくれるはず!)
気合いを入れて、ドワーフ幼女はにやりと微笑むと、窓のさんに指をつけるとつつっと擦り、付いた埃をふっと吹く。
「この古臭い建物で、決起集会でしゅか? 決起集会をやるなら、カステランのホールはどうでしゅか? リフォームを終えて新築のようにピカピカでしゅよ」
まずはカステランの建物の良さをアピールする。冒険者ギルドと違い掃除も行き届いているのだ。
「ギルド員の制服も頑丈なだけが取り柄の古ぼけた作業服のようでしゅけど、うちは綺麗で可愛らしい新品でしゅ」
冒険者ギルドの制服は作業服で味も素っ気もない。対して、カステランは新品で見た目もよいのだ。幼女のアピールに冒険者たちは好意的で興味のある視線になる。たぶん好意的だと思う。
「それにうちは冒険者ギルドと違って、素晴らしい施設があるのでしゅよ。そこの少女、どうでしゅか、うちの女子寮に入りませんか?」
目についた冒険者の一人に声を掛ける。あくまでもたまたまだ。銀髪の少女だけど、たまたまなんだ。
「私? 女子寮ってなに?」
「うん、女子だけが住める寮で、共同トイレ、共同風呂、共同の台所で自炊してもらう、泊まれるだけなところだけど、寮監がいるからセキュリティはバッチシ。家賃は月に銅貨30枚。新人冒険者じゃ、しっかりとした宿屋には泊まれないでしょ。そこでカステランは社員寮を用意してます」
「! のる! 私はカステランに入る! ニアはカステランに入ります。宿屋代苦労してた、助かる」
「はい、おひとり様ごあんなーい。シカしゃん、契約書を用意してあげて」
「了解です。えっと、この紙のここにサインを」
ケイが紙を差し出し、サインをニアから貰おうとする。ニアがペンを持ってサインをしようとして━━━。
「待ち給え、ニア君! 君は最近腕をメキメキあげてランクアップも近い我ら冒険者ギルドのホープじゃないか! そんな怪しい契約書にサインしてはならない!」
だが、ギルド長が慌ててその手を掴み、サインさせないようにする。ありゃ、予想以上にニアは腕を上げたのか。でも、アキはペチリとギルド長の腕をはたいて、ニアにサインをもらう。これで、他の女性冒険者たちもぞろぞろと入ってくるはず! トドメのアピールだ!
「カステランは冒険者ギルドと違い、新築そっくりな綺麗な施設、社員に対する手厚い福利厚生、そして、依頼料は冒険者ギルドなどと比べ物にならない高さ。豊富な資金とバックは有力貴族。冒険者ギルドなどは相手になりましぇん。くふふふふ」
最後はちょっぴり噛んじゃったが、カステランの素晴らしさを皆にアピールできて満足である。善良なスカウト幼女、その名はアキ・アスクレピオスなのだ。
第三者がそのアピールを聞いて、なんて善良な説明だと感心するかと言われると、首を傾げてしまう可能性が高いが、幼女的には頑張りました。
「薬草やハーブは一束銅貨一枚。他の依頼も冒険者ギルドの数倍の依頼料にします。皆さん、こんな古ぼけた冒険者ギルドは捨てて、カステランにお移りくだしゃい! 今なら妖艶な美少女も冒険者として活躍中でしゅ!」
「おほほ、わ、私もカステランで活躍中です」
お色気も完璧だ! マノミはもう少し色気をみせたげて! しゃがみながらだとあまり効果ないから!
「はっ、資金と権力を盾に我ら伝統ある冒険者ギルドを潰そうとしても無駄です。我らは精神的な強き絆とアットホームの空気で誰もが冒険者ギルドを守るでしょう」
ズムというギルド長は強気だ。古ぼけた冒険者ギルドといえど、大勢の冒険者たちがいるからだ。
「それに、依頼料が高いとは言いますが、冒険者ギルドをなめてもらっては困ります。私たちも依頼料をカステランの同額、いえ、さらに2倍にします。豊富な資金を持つのは、貴方たちだけではないのですよ」
薬草一束銅貨2枚と、ギルド長が紙にサラサラと書く。ハーブと薬草、毒消し草とカステランの依頼料の倍にする。
冒険者たちはその様子を見て、おおっと騒然となる。そりゃそうだろう、今日までかなり安かった依頼料が唐突に跳ね上がったのだ。
「貴方たちでは冒険者ギルドは潰せない。私たちの強さを見せてあげましょう!」
「誰もカステランに来る者はいないのですか? カステランは良いところでしゅよ?」
ギルド長の強気な態度に、アキは周りを見渡すが誰も動かない。どうやら今まで過ごしていた冒険者ギルドの方が冒険者たちは良いらしい。
皆が幼女を睨んでくるので、チッと舌打ちしちゃう。おかしいな、善良で誠実なスカウトをしてきたのに。
「覚えてりょよ、カステランの方が良いと後でわかりましゅからね!」
むぅと口を尖らせると、負け子猫のように捨て台詞を吐いて、悪役令息ルックスYは踵を返し去っていき、その後に冒険者たちの勝利の声が上がるのだった。




