四十八話
世界が驚愕の事実により、常識と言う物を破壊されてから時間が経った。
その間に何が有ったかと言うと……。
まずは魔人族達。
彼らは、徹底的に強化されたチルドレンの行動により上手い事纏められ、多少の混乱が有ったものの大問題が起こる事なく、意外なほど平和に生活をしている。
「ふふふ。いやいや、襲われなくなるというのは良いモノですね。チルドレンの皆様も実に良い働きをしてくれてますし」
「……そうっすね。そうそう、獣人達との交渉も上手く行ってるっすよ」
そして今、執事と男魔族が元・魔王城にて会話をしている。
ただ、男魔族は実に不貞腐れている表情をしているが……まぁ、其れも仕方ないだろう。色々飲み込んだとはいえ、完全に許す事だけは出来ないのだから。
ただ、彼らは全てを水に流す為……と言う事で模擬戦闘をし、盛大に殴り合いをした。
顔を腫らし、血を流し、骨を折り、それでも殴り合いを止めた無かった事で、周りにはその身体能力と精神の強さを盛大にアピールする事が出来ていたりもする。
その様な理由と勇者との交流が有った事もあり、男魔族は実質上、魔人族のリーダー……言うなれば元・魔王のポジションに就いている。
「さて、それじゃ今日は此処までっすね。そろそろ行ってくるっす」
「そうですね。仕事は此処まででしょう。それでは……彼に宜しくお伝え下さい」
忙しいポジションに就いている……とは言え、今でも男魔族は勇者との交流を続けている。今では茶飲み友達……と言った感じの付き合いではあるが、彼にとっての勇者は兄貴であり師匠だ。それは今でも気持ち的には一寸たりとも変わっていない。
それ故に、彼は師匠の下へと通っている。
次は獣人達。
彼らはそれなりに変化が有った人達だろう。とは言え、それは魔王と聖剣の事実が明らかになる前から始まっていた、奴隷解放からの流れがあるからだが。
ただ……一つ違うのは、その開放戦の時に人・魔人の中に獣人側へと力を貸してくれた者が居た。それを公開した事だろう。
そして、その事実が公開された際。一番驚いたのは獣人ではなく……人間達だったりする。
何せ、全種族が協力して不当な奴隷にされた者達を開放した訳だ。今までの常識から考えたらあり得ない話である。
しかし……勇者が魔人族と仲良くして居た事も有り、獣人狩りをしていた人達も潰されたと言う事実も有ったので、すんなりでは無いモノのゆっくりと受け入れられて行く事になるだろう。
魔人族との交流も考えると、獣人族の未来は今までと違い、かなり明るい未来が待っているに違い無い。
そして一番混沌としているのが人間達。
勇者がまたその姿を隠し、国々は纏まりを見せる事が無い。何故なら、未だに教会関係者がその勢力を誇っているからだ。
必死に魔王と聖剣の話を否定する教会。それを後押しする国と教会を排除する国と、かなり人々は割れてしまっている。
しかし、魔王と聖剣の話は……いや、あの戦いは全ての人に対してダイレクトに知られている。
何故なら、魔王がコツコツと長い年月をかけ、映像を全ての人に届ける術を作り上げていたからだ。
それ故、教会関係者がいくら否定しようにも、全ての人々は其れを知っている。勇者の思いも女魔族や男魔族の行動も、そして聖剣の目覚めも。
その為に、今争っている理由は……宗教としての教えと言うよりも、もはや利権の奪い合い。
彼らが同じ卓に付きまともに会話が出来る様になるには、まだまだ時間が必要だろう。
そして、勇者の元・パーティーメンバー達はと言うと……。
「もう駄目です。勇者様は見つからない。いえ、むしろ拒絶すらされている……一体どうすれば」
と、毎日のように呟いている姫騎士。そして、それに対して何時もの強気の言葉も無く、ただただ姫騎士の傍で表情も無く、護衛に徹しているのが幼馴染である女戦士。
女賢者はと言うと……完全に自室に引き籠もり、なんらかの研究に没頭している。誰が声を掛けても返事する事無く、ただただ部屋の中にいるが、食事はしっかりと食べている様なので現状放置されている。
そして、そんな彼女達を心配してなのか、それとも政治的判断からなのか、王達は彼女達に対して有能な男を宛がおうとしているのだが……全て拒絶されて居る。
寧ろ、そうすればするほど、彼女達は自分たちの世界へと入って行ってしまう。
正直、現状はどうしようも無いのだが、何時かは変化が起こる……かもしれない。
そして勇者は……。
今日も今日とて、森の中でもふもふと戯れている。ただし……可愛がりすぎて、注意を受けるのだが。
『また! 可愛いからって餌をあげすぎよ!』
「いやいや、育ち盛りだろう? 一杯食べさせないとな」
と、このように脳内に響く女魔族の声と付き合いながらだが。
そして、戦う事にスペックを割り振っていた勇者だが、今は……この森の拠点の中に、色々な実験装置や書物を集めている。
『……無茶はしなくて良いのよ? 祝福って言ってた聖剣でも無理だった訳だし』
「いや、これは自己満足でもあるからな」
などと言っているが、勇者のやっている事はと言うと……女魔族の身体を取り戻す為の方法を探しているという事。
その為に、元・魔王が使っていた設備なども、男魔族の協力を得て手に入れていたりする。が、その試みは成功する処か、一向にヒントすら掴む事が出来ていない。
「兄貴お邪魔します! 禁書庫から本を幾つか持って来たんっすけど、どこに置きましょう?」
「書斎の机に頼む。悪いな、何時も本や資材を持って来てもらって」
「いえいえ! 姉さんの為ですからね。……それにしても、兄貴には姉さんの声が聞こえるんすよね? 俺にも聞こえたら良いのに」
男魔族が言う様に、彼には女魔族の声が聞こえていない。勇者の通訳を受けて会話をしている状態だ。
何時かは、皆でまた笑って話がしたいと願って止まないのだが……それが達成される事が有るかは、彼ら次第だろう。
其処は人が来れない空間。
世界を見守る為に用意された場所ともいえる場所で、今、世界を管理をしていた者が、黄金色と漆黒色の魔力によって作られた鎖に縛られ、項垂れていた。
「ぐ……なんでこの様な目に!」
「あなたはやり過ぎたの! 大人しくぱぱんの裁きを受けるの!」
「創造主様と言え。と、まぁ此奴の言う通りだな。お前は遊び過ぎたんだ」
精霊の二体により、完全に動きを封じられた管理者。
そして彼らから連絡を受けた、この場へと創造主が到着した。
「……全く、お主は優秀だったはずなのにのう。少し飽き性な気質を持ち合わせておったが、重要な役職に就ければ責任感を持つと思ったんじゃが」
現れてから、早々とそう告げる創造主。その顔には期待を裏切られたと言った表情が見受けられた。
「そんなに管理するだけと言うのは暇だったのか?」
「……創る事が優先な貴方には解らないはずだ! 管理するだけなど……何の楽しみも無い事を!」
「いやいや、解っておるつもりじゃがな。儂も元々は管理を長い事しておったからの」
解る訳が無いと思っていた。しかし、創造主は以前に管理をしていた事が有ったと言う事実に、この管理していた者は驚愕する。
彼らは嘘を吐く事が出来ない。それ故、今創造主が話したことは全てが事実だ。
「さて、別に飽きたからと言って、世界を楽しくするのは問題は無い。だが、今回の件は質が悪すぎるのう……お主への罰は、そうじゃな。反省を促す為にも精霊達と同じ目を五十回ほどあって貰い、その後は黒牢の中に五千載ほど封印じゃな」
「な!? それは余りにも長く無いですか!?」
五千載……まぁ、五千年と言ったほどの期間、彼は封印される事になる。
それも、黒牢とは……宇宙にあるブラックホールの事。その中に封印されるのは、彼らにとって悪夢以外何物でもない。
「問答無用じゃ。往くがいい」
創造主がそう宣言し腕を振る。
すると、管理者は徐々にその姿を変化させ……物言わぬ化け物へと変化した。言うなればちょっと強いモンスター。
彼はこれから五十回ほど、人々に天敵として他のモンスター達と同様に狩られる運命が待っている。
「さて、後始末じゃな。まずは、補佐役のお主。お主は必至に被害を減らそうとしておったようじゃな。故に、次の管理者はお主に任せる」
「は、お任せください」
「次に精霊達じゃが……専用の空間を用意しよう。ここは管理者にも人の手にも届かぬ場所じゃ」
「ぱぱんありがとうなの!」
「感謝します。創造主様」
色々と処理をした創造主は、彼らに役割と安地を与え、元々やっていた創造の仕事へと戻る。
そして、精霊達は創造主に作られた場所へと移動し、自然が崩れない様にしていく事になる。
新しく管理者として任された、元々管理者の補佐をしていた者はと言うと……。
「全く。彼はつまらないからと自分の手で事を起こしすぎましたからね。こう、やるならもっと手を出さない様にしながら隠れないと……ね」
不敵に笑う新しい管理者に選ばれた者。この者は一体何をするつもりなのだろうか。
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