十九話
号外号外! と、走りながらニュースをばら撒く。いち早く沢山の人の目に届けるべきニュースなどが有る時に見られる光景だ。
しかし、勇者が居る森ではそのような号外が撒かれることは無い。そもそも、人が入って来れないから当然だ。
ただ、そんな森の中ではあるが、号外! と勇者の家に飛び込む者が居た。
「兄貴号外っす!! 魔人族の街で、勇者が失踪したってニュースが流れたっす!!」
「お……おう、勇者が失踪か。それは大変じゃないか」
勇者にボロ撒けたした、女魔族の兄弟である魔族の男。彼が勇者に魔人族で流れたニュースを届けに来たのだ。……来たのだが、そのニュースの中心である勇者はまるで他人事。
「ちょっと兄貴! 何だか反応薄いっすよ!! 勇者が失踪した……まぁ、これは兄貴の事ですからどうでも良いかもしれませんが、流れた場所が魔人族の領域っすよ!」
「おう、解ってるぞ。だが、何か問題でもあるか?」
「そりゃ……問題でしょう!? 勇者が居なくなったって魔人族にまで知れ渡ったって事っすよ!」
勇者は思う。それの何が問題なのかと。
確かに、人間側の視点で物事を見れば大事だ。勇者が居なくなると言う事は、対魔王戦の主力を失ったと同然なのだから。
しかし事、魔人族の視点でみればまた違う世界が見えてくる。
先ず、魔人族から人間の領域を攻める事は無い。そして、その人間は勇者と言う旗を失ったと言う事は、彼等から魔人族の領域に攻めるなど……土台無茶な話である。
結果、彼等にとっては争いの無い時間が来るだけだ。
故に勇者は魔族の男に告げる。
「だから何の問題も無いだろう。世界から一時の間、争いが無くなるだけだ。何故、お前が人側の目線で話をしているんだ?」
「そりゃ……兄貴は勇者でしょう? 人を守り魔王を討つのが勇者では? それに、魔人族がその情報を手に入れたって事も!」
「俺が争わない事で、命を散らす事無く生活しているじゃないか。それに、この森に居る事で強力なモンスターが外に出て行かないだろう。十分に人を守っていると思うぞ。それに、人の領域とはいえ魔人族のスパイぐらい居るだろう? 情報ぐらい直に手に入るさ」
戦う理由に迷っている勇者。なので今此処にいる理由を取ってつけたかの様にも聞こえるが、本人としてはいたって真面目に答えている。
この魔境でモンスターを狩りながら生活する。これを行う事で、魔境からモンスターが溢れ、人里が襲われない様にしていると言うのは、あながち間違いではない。
実際、データを取れば確認が取れるだろう。勇者がこの森に住むようになってから、この森周辺でのモンスターによる被害は減ったのだから。
しかし、その様なデータを取るものはこの世界には居らず、理解出来る様なモノでも無い。
結果。勇者が謎の失踪をしたと言う事だけが、情報として世界中に散らばった。
それは国内や魔人族以外にも、他の国に対してもだ。となると、色々と問題が出てくるのは当然の話で、今頃、国や教会は責任の擦り付け合いをしながら、他国から勇者は如何した! と突き上げを食らっているだろう。
「ま、モンスターによる被害がなくなり、魔人族との戦いも今や停戦状態。もしかしたら人同士で争い出すのが先かもな」
「……兄貴はそれでも良いんですかい?」
「俺は……人間同士で争う為に勇者になった訳じゃないからな。色々と今は考える事はあるが、勇者の本分の一つであるモンスターの討伐は辞めたつもりは無い」
「はぁ……何だか難しいなぁ」
「何も難しくは無いさ。そもそも、〝勇者は人同士の争いで力を貸すな〟と、人間同士の国際法で決められているからな。まぁ、モンスターだけ狩っていろと言われてるんだ」
勇者の力は戦争におけるバランスブレイカー。そんな存在が一国に協力するなど許さない。それが世界の常識である。
公平性を守ると言えば聞こえが良いかもしれないが、勇者になった時点で、生まれ故郷、友人、家族を捨てろと言っている様なモノだ。ふざけるな! と思った勇者はこれまでにも居ただろう。
しかも、暗黙の了解という訳では無いが、各国共に勇者を取り込む事に手段を選んで居ない。これでは、この決まりは一体なんなのか? と言う話でもあるし、過去にはとある国の姫を娶り、一国に力を貸した勇者だって居る。
有ってないような決まりなのだが……今回、勇者はその決まりを逆手にとるつもりで居る。
「本当、知れば知る程、考えれば考えるほどに馬鹿げた話ばっかりだよな」
「俺には人間について、全く解りませんからなんとも……」
「ま、今は座して時を待つという奴だ。国に教会や魔王が何を考えているのか、全く見えてこないからな。少し時代が動けば……何か解るだろう」
「はぁ、兄貴が言うならそれで良いんでしょうね」
いくら考えても解らない。ならば時計の針が回り、何か動き出す時に見極める。勇者が出した結論はそれだ。
もしかしたら何も変わらず、勇者は此処で朽ちるかも知れないし、予想以上の争いが世界中で起こるかもしれない。
だが、今動けば何故此処で隠れる事を選んだのか……その意味が全く無くなってしまうだろう。
「さてさて、この結論が吉と出るか凶と出るか……ま、面白い情報があればまた教えてくれ」
「へい! 兄貴任せてください! ちょっと今度は人間の街を覗いてきます!」
「……まぁ大丈夫だとは思うが、気をつけろよ? 正体がばれるマネはするなよ」
「……兄貴! 解りやした!! 気をつけます!」
自ら進んでスパイ行為をする、女魔族の兄弟。
この様な姿を見ると、本当に彼が強者として持て囃されていたのか謎になるが、それでも彼が人間のレベルでは一切、手の出しようが無いレベルに居る事は間違いない。
もし、隠れて修行に明け暮れている勇者みたいな存在居たとすれば、対等に戦う事は出来るだろうが……街などで生活して居る者であれば、影すら踏む事は出来ないだろう。
それに、勇者の師匠達であれば、数人で戦えば遣り合える可能性はある。あるのだが、そういった人達は、街から離れて生活しているので、彼が遭遇する事は無いだろう。
「うむ、奴の脅威になる人間は街には居ないからな」
勇者は人間内の強者が居る場所を思い描き、男魔族の安全を再確認する。
そもそも、強者と言うのは基本的に、勇者みたいに魔境の中には居ないが、魔境の外周に拠点を張っているのだ。何せそこが一番修行をし、弟子を取るのに敵して居るから。
問題が有るとすれば、この〝還らずの森〟から出る時だろうが……ある程度近くまで行けば、強者は強者の位置を把握出来る。
なので、しっかりと回避して街に辿り着いてくれるだろう。と勇者は確信する。
そして、次に来る情報はどんなものだろうか? と、勇者は心待ちにするのだった。
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捕捉です。
ぶっちゃけると、人同士の争いは起きません。かといって、薄氷を渡るような、空中で綱渡りをする様な外交をして行く事になるでしょう。
ただ、何故戦争にならないかと言うと、魔族の事にモンスターの件があるからです。
話の中に出てきた、魔境の周辺で弟子を取っている人を戦力にすれば、魔族及び人とも戦えますが、彼等は魔境に対する門番の役割も果たしている為に、其処から移動させる事はできません。
故に、戦力不足な訳です。だと言うのに、無能共が無能を晒して組織を運営する……実に悪循環な状態と言ったところでしょうか。




