3章 熱くなれよ!
「魔法には体内の魔力を使うものと大気中の魔力を使うものがあるが魔力を使う練習をしていく。」
師匠は俺に近づき、俺の左胸に指をあてる
「生物の心臓には魂の大部分が宿っており、また魔力を生成する核でもある。心臓から魔力を引き出すんだ。」
自身の心臓を意識する。心臓の鼓動を感じるが一向に魔力とやらを感じることは出来ない。そもそも魔法なんて使ったことがないのだ。いきなり引き出せと言われても───────
ハッと巨熊と対峙した時のことを思い出す。あの時、限界だった体に力が湧いた。もしあれが魔力だとしたら
「うおおおおぉぉ!」
思い出せあの時を。胸が熱くなる、あの感覚を
心臓の鼓動音が一際強く聞こえたかと思うと左胸のあたりが熱くなる。
「ふむ、手助けが必要かと思ったが余計な心配だったようだな。それが魔力だ。そのまま維持しろ。」
維持しろなんて簡単に言ってくれているが中々難しい。油断すればすぐにも熱が冷めてしまうような気がする
「次は魔力を心臓から手に移せ。右腕は完治してないから左手だな。魔力は常に微量ずつ体内を循環する。集中を切れば霧散し体内に一緒に散らばっておしまいだ。集中しろ。」
熱により強く意識を集中させ移動させる。ゆっくりと、しかし確実に左手へと近づいていく
「───っしゃあ。」
「上出来だ。これで魔法の準備が出来た。さっきも言ったが魔法はイメージだ。頭の中で強く思い描くことが大切だ。今回は火球としよう。先程私が魔法陣から発射したような火の塊をイメージしろ。」
ついさっき俺の腹に打ち込まれた火球を思い出す。見た目だけでなく、その熱もイメージをする
左手の魔力の熱がさらに熱くなる。炎のイメージに合わせて変化してきたのだろう
「イメージは固まってきたようだな。仕上げにかかるぞ。詠唱するのだ。それでイメージは完全となり魔法が発現するはずだ。」
「オオオォォ『火球』っ!」
左手の熱が体から飛び出し、熱を帯び小さな火の玉として顕現する。そして手のひらの上で浮かびながら燃えるそれに俺は目を奪われていた
「成功だ、初めてにしては上出来である。その魔法は今、ジーンの制御下にある。あとは好きな方向に向けて発射すればいい。」
俺が手のひらを横に動かすと火球もピッタリとついてくる。なるほど、制御下にあるというのはこういうことか
そのまま火球を操り手の周りを回らせる
「一度成功しただけで舞踊っているな。今の一連の動作を素早く行う。そのためにも魔力の操作には慣れておく必要がある。もう一度やるぞ、早く火球をそこらに放て。」
そこで俺はとあることを思いついた。先程の仕返しとして師匠にこの火球をぶつけてやろう。ただ師匠は強い。そのまま放ったのでは防がれておしまいだろう
俺は明後日の方向に放とうと見せかけ─────
「あ!村長!何か用ですか?」
俺の言葉を聞いて振り返る師匠。勿論そこには誰もいない。隙を作るための嘘だ
(隙ありっ!)
左手を師匠に向け、視線が外れている隙を狙う
放たれた火球は狙い通りガラ空きの師匠の背中へと吸い込まれ───────
直後内側から爆発するかのように霧散した
何が起きたか理解出来ずに混乱する俺に師匠は向き直り告げる
「不意打ちに成功したつもりかい?それは違うよ。別に何をされようと問題ないから警戒していないに過ぎないのさ。それにしても師匠に魔法を打ち込もうだなんて、覚悟は出来てるんだろうね?」
師匠は笑っている。声を上げ笑っているが目は全く笑っていなかった。冷や汗が止まらない、仕返しなんて考えるんじゃあなかった
ここは何とか言い逃れしなくては──────
「これは初めてなもので操作が出来なかっただけですよ師匠。」
「ではその前のこの場にいない村長に呼びかけ、私の気を逸らしたのはどういう訳だい?ん?」
まずいまずいまずい!何とか上手い言い訳を返さなくてはっ!
「それは─────ごぶぅ!」
師匠の手がブレたかと思うと顔面を打ち抜かれていた。痛みに膝をつく俺に迫り告げる
「さぁ今日の修行はまだまだだよ。もう一度火球を唱えようか。」
「ふぁい…」
返事を絞り出し立ち上がる
───次は一発ではすまさないからね────
ハイ、スミマセンデシタ