4章 建前と本音
「『火球』!」
詠唱を唱え、手のひらの上に火の玉を作り出す。今日一日で何度も唱えたおかげで魔力の操作にも慣れてきた
「いい調子だな、最後に出力を上げる練習だ。心臓から魔力を連続で引き出すのだ。まずこれまで通り左手に魔力を送るところまでやってくれ。」
言われたとおりに魔力を引き出し、左手に移動させる。魔力から感じる熱も慣れれば心地よいものとなっていた
「よし、ではそのままもう一度魔力を引き出し左手に送れ。集中を切らさないでくれよ?」
左手に意識を向けながら心臓から魔力を引き出そうとする
しかし中々魔力を引き出すことが出来ない。何度も挑戦するが引き出せることが出来ず焦りを覚える
「──あっ」
そして左手の熱が霧散する。集中が切れて魔力の維持に失敗してしまった
「難しいな…」
「当たり前であろう。元々魔力操作は戦士の役職が最も苦手とすることの一つだ。一発で火球に成功しただけでも立派なことだ。─────もっとも、他の役職であればもっと速く、大きな火球を打てるワケだが。」
グサグサと追い討ちをかける師匠。その手のひらの上では五つの火球をクルクルと回していた
「たが心配するな。最初は出来なくて当然だ。何度も繰り返して出来るようになるといい。かと言って時間は無限にある訳ではないからしごいていくがな。今は傷の完治が優先だ、今日はここまでとする。」
それではと村長の家に帰ろうとする師匠。
待てよ?なぜ師匠は俺の傷を自然治癒で治そうとするんだ?傷を治すだけなら回復の魔法を使えばいいだろう。師匠のことなら回復も使えるだろうし、折れた腕を治せるだけの力を持つに違いない。骨折は治せないとしても腹を昨晩の時点で治せていただろう
「なぁ回復で治せないのか?どうしてわざわざ自然治癒で時間をかけて治すよりそっちの方がいいだろうに。」
「…回復で治せるには治せる。だがそれよりも自然治癒で治した方が利点が多い。」
利点だと?
「回復は傷を受ける前の状態に体を修復させる。一方自然治癒はその者の自然治癒力を増進させる。自然治癒のいい点は自身の能力で傷を修復させることだ。」
師匠は帰ろうと背を向けた状態から俺の方を向き話す
「回復は元に戻すだけ。しかし自然治癒で自力で傷を治せばその部分はより強固になる。折れた骨がより丈夫になるのだ。」
だから自然治癒で治した方がお得──と話す師匠
「いやそれなら回復でとっとと治してトレーニングをした方がいいんじゃ──」
「もちろん丈夫になるだけでは無い。耐性もつく。毒を喰らえば抗体を素早く作れるといった効果もある。まぁ命に関わる怪我なら回復である程度治すがな。」
「俺の頭の傷は回復で治したってワケか。」
「あぁそうだ。まぁそんな理由はあるが一番の理由は──────」
師匠は顔をニヤつかせて
「右腕が治っていたら素直に魔道を学ばず剣術を教えろとか言われそうだからな!」
と本音をぶちまけた。そして俺が文句を言う前に姿を消した。逃げ足が早すぎる
「このクソ師匠が…」
師弟関係になったがやはりやりにくい人だ。村長の家まで追いかけようと思ったが既に日が傾いていたので大人しく今日は休もうと家に入る
「その前に……『火球《ファイヤーボール』!」
今日習ったことを確認し、今度こそ家に入る
一日中集中して疲れていたのか今夜はグッスリと眠れた




