16章 白との再会
狸人族の村を過ぎてから、それなりに走った。
狸人の族長が言っていた三つに別れた道を右に曲がったので、そのうち山羊人族の集落に着くはずだ。
「それにしても急に襲ってこなくなったな、悪魔。」
最下級悪魔に何度か襲われたが、途中から全く襲われなくなった。狸人の族長は時間がないと言っていたのに、これは少々不気味だ
「その代わり偵察型が増えてきたな。ますます意味が分からない。」
気配を探れば前の何倍もの偵察型悪魔が潜んでいる。中には空を飛び俺を追いかけている個体もいる。
対処したいところだが数が多すぎる。それに、攻撃型がこないのなら好都合。邪魔されることなく小人の集落に急げるってもんだ。
と、気が緩んだ瞬間、背後から迫る足音を捉える。
視線を後ろに向ければ、山道脇の木々に体を擦りながら、巨大なトカゲのような生物がこちらに向かって来ていた。
それは狸人族の集落でも見た異形の存在。巨大な眼球だけが頭の代わりに取り付けられたトカゲのようなソレは悪魔だ。恐らくは、下級以上の。
移動速度が速く、徐々に間隔が詰められていく。とはいえ、山道から外れれば巨体が邪魔となり、木々に阻まれるため逃げることは可能だろう
「でも万が一、他のやつと合流されると厄介だな。」
挟み撃ちなんかされたら流石に不味い。
と、なるとここで対処するのがいいか。一撃で核を潰すのが最高だが、図体がデカく、これまで相手した最下級悪魔とは姿が大きく異なるので核の位置が全く分からない。
『世界観測』を使えば外しても、核を潰した世界を上書き出来るが、魔力の消費が激しい。そもそも、俺の攻撃が通るかも怪しいな。
なら核は狙わず無力化する。脚を切り落としたいところだがこれも攻撃が通るか分からない。
などと考えている間に悪魔はすぐそこまで来ていた。
じゃあ狙うは一箇所だな
「『防壁』」
振り向きざまに俺の展開した『防壁』に悪魔が勢いよくぶつかる。一瞬防いだかのように見えたが、すぐに破られてしまう。だがその一瞬で充分。
狙いは生物において大切な器官の一つ。その上、少しの傷でも効果的な箇所、眼球だ
「『大噴火』」
巨大な眼球、その瞳の中央を貫き、横に斬り払う。これで機能を失ったはずだ。これ以上攻撃はせず、再び走り始める。奴らに耳と鼻はない。これで追跡は
「不可能…のはずなんだけどな。」
背後からは先程と変わらず悪魔が追いかけてきていた。視界を失った影響がないのか、動きも衰えていない。曲がった山道も外れることは無い。
一体何故──と考えていたところに視界の端に『答え』が映りこんだ。偵察型だ。推測が確信に変わった。偵察型からの一方通行か、双方向かは分からないがこいつらは情報を共有している。
そうなると殺すか、脚を斬るしかないな。刃が通らなかった時に逃げられるように、山林の中に誘い込んで、動きが鈍くなっているうちに斬ろう。
山道から外れ、山林を少し進んだ、木々が密集した場所で待ち構える。
だが、悪魔はこちらに突っ込んで来ず、そのまま山道を進んで行った
「どういうことだ?」
俺を見失った…?いや、それはない。偵察型が視覚聴覚を共有していることは間違いないし、今だって見張られていて、奴に俺の居場所が割れているはずだ。
なら何故通り過ぎた?俺を追いかけてきたのに何故?
「…いや、違う。奴が追いかけていたのは俺じゃない。」
そうだ、俺は勘違いしていたんだ。
『それにしても、先程の少女も同じことを聞いてきたな。』
狸人の族長はそう言っていた。つまり、その少女も小人の集落を目指していて、俺と同じ道を通った。
その少女は狙われている。理由は分からないが、あの悪魔は少女を追いかけていると考えて間違いないだろう。
急いで山道に戻り悪魔を追いかける。見失うことはないが確実に距離が離されていく。
気が付けばおびただしい数の偵察型が周囲を囲んでいる。隠れるつもりはなく、一直線に同じ方向へと向かっている。
突如、悪魔が進行方向を変え、山林に突っ込む。やはり、デカい図体のせいで進行速度がグッと落ちる。
なぜいきなり山道を外れたかは考えるまでもない。追いつかれると思った少女が山林に逃げ込んだからだ。
見てみれば悪魔の前方に一番偵察型が密集している。恐らくはあそこに、いる。
悪魔が近付く。背中から触手を生やし、少女がいると思われる場所へと伸ばす。
その前に、片をつける
「『旋風』!」
自分の背中に『旋風』を当て、一気に加速し跳び上がる。悪魔の背中に着地し、トカゲの心臓にあたる場所に『大噴火』を放つ。堅い装甲に刃が阻まれるが、更に力を込めて無理やり貫く。ビクンッと反応するが、核を外したようだ。悪魔は塵にならず、触手が俺へと迫る。
だが、貫ければ、俺の攻撃力で足りていたのなら問題は無い。溜め込んだ魔力を解放し、俺のユニークスキルを発動させる
「『世界観測』」
いくつもの可能性の世界。ほんの少しだけ貫く場所が違う世界もあれば、他の技を使い、通用しなかった世界もある。
俺が今回選ぶのは【『大噴火』で核を貫いた】世界だ。『世界観測』が発動し、世界が上書きされる。
俺が貫いた場所は元と反対の部分になっており、次の瞬間、悪魔が塵となる。
視線を前に向ければ偵察型の中心に人影が───なかった。
だが俺は知っている。これは魔法で姿を見えなくしているだけだ。取り囲んでいる偵察型は全て『耳』、視覚は誤魔化せても、聴覚までは誤魔化せない
「姿を消しても無駄だ。こいつらは聴覚でお前を感知して、他の奴らに教えている。」
中心へと声をかける。すると空間が歪み、像が結ばれていく。『透明化』を解除し、何も無い空間から現れたのは半日前にも見た白い少女だった
「また、会った。可哀想、な、お兄ちゃん。」




