山崎 綾の嬉しかった事
「おはよう!」
私、山崎 綾が元気よく挨拶して教室に入り、自分の席に向かうと。
「ちょいちょい綾……私に何か報告する事あるんじゃないの?」
私の親友、鮎川 瞳が手招きして私を呼び止める。
「あっ、おはよう瞳、何どうしたの? 特に何も言わなきゃいけない事とかないけど……?」
私は首を傾げながら瞳に聞き返す。
「また、しらばくれて……暁の事や暁の、私の帰りの誘いまで断って一緒に帰ろうとしたくせに、何々アイツの事好きなの?」
瞳はニヤニヤとしながら楽しそうに、私の顔を覗く。
「えっ!? な、何言ってんのよ、べ、別に暁とはただ隣の席なだけでべ、別に私は……」
私は顔を真っ赤にして言葉を濁す。
「何が別によ、『用事があるから』って私が帰った後に自分の席に戻って、隣の暁の事見つめて、暁が帰るの待っていたクセに、その上肩寄せ合って楽しそうにさ。 私に感謝しなさいよ、二人の世界作って上げるために教室のみんなに声かけて出て行ってもらったんだからね……まぁ女子のみんなも興味しんしんで覗いていたけどね、ごめん」
「み、見てたの! 酷い……それもみんなグルで覗いてたなんて……私と暁はただ帰りが一緒だっただけだから、べ、別にそんな関係じゃないから……もう」
瞳はニヤニヤと嬉しそうに話し、私は恥ずかしそうに言い訳をした。
瞳はあの時一部始終を見ていたらしく、それもクラスの女子も巻き込んで……どうりであの時、教室には私と暁しかいなかったわけだ、ハメられた……
「それにしたって綾ってさ、今日は一段となんか嬉しそうだったから、てっきり昨日、暁となんかあったのかなって勘ぐっちゃうよ」
「うん昨日ちょっとね、家帰った後に良い事あってね」
「何々? 親友としては気になりますな〜」
「内緒、ごめんね」
「ううん、気にしないで、綾が楽しそうならそれで私も嬉しいから」
「そう言う瞳もなんか、いつもより一段と明るく機嫌が良いように感じるけど、なんかあった?」
「えっ!? あたし……まぁ良い事あったって言えばあったかな……でも内緒だけどね」
「なにそれ、あっはっはっは」
私達は二人して唇に人差し指を当てて、笑い出していた。
(そう、私が上機嫌なのは昨日家に着き、布団に入りながらスマホを弄り、『小説家をやろう』を開いて、届いていた作品の感想を読んでいた時だ、私の処女作「恋する私と恋する僕』の感想欄にあの人、生臭 異臭さんの感想を目にしたのだ、私の作品読んでくれただけでも嬉しいのに、感想までくれるなんて、こんな嬉しい事があった後に無表情で何事も無かったかのように過ごすなんて無理よ……フッフッ)
そんな事を自分の席に着き、又思い返しているとついニヤけてしまう、その時私の後ろから小さな声でボソッと声が聞こえた。
「……おはよ」
ただでさえ目立ちたがらない暁が私の後ろを通りながら、聞き逃すくらいな小さな声で挨拶をする。
「えっ!? あっ、おはよう! なんかお疲れね?」
「あぁちょっと昨日は遅くまで起きていてさ……ちょっと寝不足かも、ふぁ〜」
暁は眠たそうに私の問いかけに答える。
「あっそうそう、昨日ね凄く面白い作品を見つけてさ、もう完結してる作品なんだけど、感想まで書いちゃったよ」
「なになにそんな面白い作品なの? 私にも教えてよ?」
「もしかしたら綾さんは読んだ事あるかも、かなり人気作で、書籍化もされた作品らしいから、確か……『恋する私と恋する僕』ってタイトルだったかな」
ガタッ
「えっ!?……」
私少し動揺して、椅子を引き、一瞬言葉を失った。
「どうしたの綾さん? なんか少し驚いた顔してるけど、やっぱ読んだ事ある作品だった……そうだよね驚きもするよね、こんな有名な作品を今更読んでる上に、人に勧めてるんだから、あっはっはっは」
「えっ!? あっ、違うよただ……うん、暁があんなベタな恋愛小説を読むなんて思わなかったからちょっとビックリしただけ、エヘッ……ありがと暁、教えてくれて」
私はなんとか誤魔化し、昨日の感想欄を思い出す……私の『恋する私と恋する僕』は終了したとはいえ、未だに根強いファンや、初見の読者などで毎日すごい数の人が私の小説を読んでくれている、だから当然感想も毎日数人、数十人の人が書いてくれているのだ。
(まさか、生臭 異臭先生だけじゃなくて、神田 暁くんも私の小説読んでくれてたんだ……その上に感想書いてくれたなんて……暁の感想ってどの人なんだろ、気になるな〜)
「ねぇ……どうだったその……暁から見てその作品?」
私は少しドキドキしながら、つい直接暁に聞いてしまった。
「えっ、良いの感想語っちゃって? ネタバレとかしちゃうかもよ、綾さんが読んでるなら話すけど、まぁ大雑把にいうなら、絶対に読んだ方がいいよ、あんな素晴らしい作品は読んだ事もないし、面白すぎて、今日は寝不足だよ……」
暁は嬉しそうに私に話、あくびをする。
「うん、うん、そうなんだ……そうなんだ……」
私は隠しきれない笑顔で暁に頷き、なんだろう、生臭 異臭先生に感想をもらった以上に暁の感想を聞けた事がたまらなく嬉しく、私の心は喜びで満ちていた。
「ねぇねぇ何話してるの二人でイチャイチャとさ」
瞳が私達の間に割り込み、私の耳元で囁く。
「ほらもっと積極的にアピールしなきゃ鈍感な暁じゃ好意を気づいてもらえないぞ」
「ちょ、ちょっと、違うからね、私は別に……」
「いいからいいから、私が愛のキューピットになってあげましょう」
瞳は胸をドンと叩き、私に任せなさいとアピールする。
「おはよう、暁」
瞳は取り敢えず暁に挨拶する。
「……おぉ……」
瞳を暁は一瞬見ると、気恥ずかしそうに返事を返す。
「えっ、あれ、もしかして私嫌われてる? お邪魔だった」
「えっ……いや、ごめんそんなつもりはなくて、二人以上の空間って奴が苦手で、鮎川さんの事嫌いとかじゃないから……気分悪くしたなら謝るよ、ごめん」
暁は瞳を見つめ、申し訳なさそうにあたまを下げていた。
「いーよ、いーよ、こっちこそ急に声かけてたのが悪いんだし、なんか愛嬌なくて、無愛想で、近寄り難い雰囲気あるけど優しいね暁って」
瞳は笑顔で暁に答えて、私の方に振り返ってって耳元で。
「綾が好きになるのもわかる気がするよ」
と意味ありげに私に告げてきた。
「もう、早く自分の席に戻りなよ瞳、ホームルーム始まるよ」
そう言い、少し瞳に嫉妬しながら私は彼女を暁から遠ざけた。
「はい、はい、邪魔者は消えますかな〜」
瞳が拗ねながら、私達の席から離れそうになる時、暁が私に何か思い出したように話し出した。
「そうそう、他にも面白い作品を見つけたんだよ、これはあまり読まれてなくて、綾さんでも知らないと思うよ……
『力を失った勇者は、それでも魔王に立ち向かう』って作品なんだけど、どう知ってる?」
暁はドヤ顔で私に聞いてきたその時だ、瞳が暁の話が聞こえたのかこちらを振り向き「えっ!?」て顔をして暁を見つめていた。
私はどうしたんだろうと思ったが、あまり気にしないようにして、暁の質問に答えた。
「し、知らないな〜、初めて聞いたよ」
「そりゃそうさ、だってこの作品読んだのたぶん僕だけだろうからね、PV数見たら1が昨日初めてついたほど知られてない。 あまりに良くて感想書いちゃったよ」
「ふ〜ん……そんなに読まれてない作品なのに面白かったんだ……感想まで書いちゃうほどに……」
「まぁ人を選ぶ作品だとは思うけど、最近の『小説家をやろう』の真逆を行くような話の流れで、更新も遅いから埋もれてしまうんだろうね、でもその作品も『恋する私と恋する僕』に負けないくらいのクオリティーの作品だと僕は思うよ」
「ふ〜ん、ふ〜んそうなんだ……別の意味で興味出てきた」
「えっ? あれ、なんか綾さん怒ってない……あまり好きじゃない作品だった」
「別に、怒ってないけど……」
私は少しなんか嫌だった悔しかった、暁が他の作品を褒めてるのが、私の作品と同等の評価をしてる事が、私もまだまだ小さいな、こんな事で嫉妬するなんて……
ーーそんな会話をしてる頃、鮎川 瞳はすぐに自分の席に戻ると、スマホを取り出し、あるサイトにアクセスする。
「えっ……嘘でしょ、嘘でしょ、暁が読んでるいた……『力を失った勇者は、それでも魔王に立ち向かう』を読んでいた……」
瞳は指を震わせて、スマホの画面を見る、そこにはユーザー名、『綾小路 袋小路』と書かれ、作品に『力を失った勇者は、それでも魔王に立ち向かう』表示され、感想欄を覗くと、その作品に一人だけ勇逸の初めての読者で、初めて感想を書いてくれた、生臭 異臭の感想が書かれていた。