プロローグ:希望
『とある次元の地球では、亜空間ワープ技術が開発された。その技術を搭載した船――通称「希望船」は、人類が移住できる星を探すため、宇宙へと送り出された。数え切れないほどの星々を調査する中、一つだけ「人の手が入った痕跡」が残る星が発見される。しかし、その星は環境が過酷だったため、調査は打ち切られた。やがて、その存在は記録の片隅へ追いやられ、誰からも忘れられていく。』
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「あれは、何座?」
アルスは気になって聞いた。
「あれはねぇ、大隈座だよ!」
メルセは得意げな顔で答えた。
夜空には無数の星が広がり、冷たい風が頬を撫でる。
アルスは空を見上げ、小さな赤い星を指差した。
「あれはなんていう星?」
「アンタレス! 蠍座の心臓って言われてるんだよ!」
相変わらずメルセは得意げな顔をする。
「メルちゃんは何でも知ってるね!」
「だって、アッ君よりお姉ちゃんだもん!」
得意げに笑うメルセを見て、アルスも笑った。
その時間が、ずっと続くものだと思っていた。
「おや、寒くないかい?」
二人が振り向くと、カルネが毛布を抱えて立っていた。
「あ、カルネおばさん!」
「そうそう、二人とも。“希望船”って知ってるかい?」
「知ってる! ワープをして、遠くの星まで行ける船でしょ?」
「さすがメルちゃん。その希望船でね、子どもの調査員を募集してるんだって」
「子どもが?」
「大人じゃ入れない場所を調べたり、新しい環境への適応力を調べたりするらしいよ。詳しいことは分からないけどね」
アルスは少しだけ胸がざわついた。
どこへ行くのかも分からない船。
知らない星。
帰ってこられる保証もない。
そんな場所へ行くなんて、考えたくもなかった。
けれど、メルセは迷わなかった。
「私、乗りたい!」
その声は、夜空に響くほど明るかった。
カルネは少しだけ複雑そうな表情を浮かべ、それでも微笑んだ。
「伝えておくよ。ほら、もう遅い。早く寝るんだよ」
「はーい!」
数日後。
「届いたよ!」
カルネが一通の封筒を持って駆け寄ってくる。
メルセは勢いよく封を開けた。
「受かった!」
アルス「ほんと?」
メルセ「『希望船への搭乗を許可します』だって!」
アルス「よかったね!」
心からそう言った。
このときは、まだ。
翌日。
大きな船の前で、メルセは何度も手を振っていた。
「それじゃあ、行ってくるね!」
「気をつけてね!」
「またすぐ会えるよ!」
「うん!」
希望船の扉が閉まる。
船はゆっくりと浮かび上がり、夜空へ消えていった。
それが、メルセとの最後の会話だった。
彼女は、帰ってこなかった。
希望船は子どもたちを未知の星へ降ろし、調査を行わせる計画だった。
その船は、多くの人に希望を運んだ。
だけど、僕には違った。
希望船は――僕に、絶望を与えた。
あのとき。
もし僕が、「行かないで」と言えていたなら。
何かが、変わっていたのだろうか。




