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6/52

5、

学園での生活が始まって、あっという間に一週間、そして二週間が過ぎた。


そのあいだ──

所々でノエルとの**強制鬼ごっこ(全然楽しくない)に巻き込まれたり、角を曲がった先で金髪王太子の気配(激しく嫌)**を察知して全力で方向転換したり、そんなことを繰り返しながらも、なんとか平穏な日々を維持していた。


もちろん、表向きの態度には最大限気を使っている。

ノエルを無視したり、冷たくあしらったりなんてことは決してしない。授業中も昼休みも、必ずセオドアを挟んで会話に加わる形にしているので、傍目には“仲の良いクラスメイト”程度に見えている……はずだ。


問題は放課後だ。

セオドアは運動系のクラブに入ってしまったので、一緒に下校できる日が少なくなった。

一対一になるリスクが増すわけで──それが、ひたすら怖い。


ゲーム内のリアムがノエルを虐めたという前提が存在している以上、何かあれば“またやったのか”と周囲に思われかねない。

そのため、今の俺にとってセオドアという“第三者の目”は命綱なのだ。


セオドアがいない時は、絶対にノエルとふたりきりになってはいけない。

……心苦しいが、雌堕ちエンド回避のためには割り切るしかない。


その結果、俺は放課後を“部活には入らず”に過ごしている。

──入ろうとは思った。思ったんだよ? でも、ノエルがにっこり笑ってこう言ったんだ。


『リアムと同じクラブに入ろうかな♪』


はい、即却下。

以来、俺は放課後は即帰宅か、キースの個室へ直行することにしている。


 


「大丈夫かい?」


今日も俺はキースの部屋に避難中だ。

教師に与えられた個室はほどよい広さで、壁には本棚が並び、机は大きく、ソファはふかふか。

俺はというと、ノエルとの非情な鬼ごっこで疲労困憊し、ソファに埋もれてグダグダしていた。


そんな俺に、キースが俺専用のマグカップでカフェオレを差し出してくれる。

この部屋には簡易キッチンもあって、お茶も楽しめる快適仕様。ありがたい……!


カップを両手で包み、ちびちびとカフェオレを飲みながら礼を述べる。


「なんとか……ありがとう、兄様」


すると、キースが俺の頭を優しく撫でながら、しかし、と少し表情を引き締めた。


「たまにここへ駆け込んでくる日があるけれど……一体、何があったんだい?」

「えっと……まあ、その……友人と、追いかけっこ的な……?」


──全然楽しくないんですけどね。


危うく本音が漏れそうになったが、カフェオレと一緒に飲み込んだ。

俺の曖昧な返答に、キースは眉をひそめる。


「追いかけっこ、ね……。……リアム?」

「はい?」


名前を呼ばれて顔を上げると、キースが心配そうに覗き込んでいた。

手が俺の頬に滑り、ふわりと包む。


「学園で、誰かに虐められたりしていないよね?」


……うん、そうなるよな。

必死で逃げ回ってる俺の様子を見たら、そう思うのも当然だ。


とはいえ、キースはキースであり、ゲーム的に攻略対象者ではあるものの、関係改善の成功もあって俺を雌堕ちさせる気はないと思われる。

だからこそ迂闊に、「雌堕ち回避のために奔走してます!」とは正直に言えない。


もし「弟が虐められている」とキースが判断したら──

あの過保護な両親に話が行って、侯爵家の権力発動イベントが始まってしまう。


俺としても、周囲に迷惑をかけるようなことは避けたい。


反省の念と共に、俺は笑顔を作った。


「あ、いやいや。僕、楽しく過ごしてますよ。クラスにも友人ができたし、セオ……セオドアもいますし」


ノエルのオタクっぽいテンションと話が合う場面もあったし、セオドアは当然として、クラス内の人間関係は概ね良好。

リアムの破滅ルートは、元の性格と立ち回りの悪さが大きな原因だったと今なら分かる。

そんな俺に、キースは小さく息をついた。


「……リアムがそう言うなら信じるけれど。何かあったら必ず言うんだよ? 君のことは、父上と母上から預かっている。僕には守る責任があるからね」


手が、頬を撫でる。

その温もりに、俺は「大丈夫ですよ」と頷いてみせた──そのとき。


ノックの音と共に、ドアが開いた。


「やあ、やはりここにいたのか、リアム。侯爵家の兄弟愛は実に麗しいね」


にっこりと微笑みながら、入ってきたのは──レジナルド・リタルダンド。

……いやほんと、なんで来た。


 


✦✦✦


 


レジナルドを正面に、俺とキースは下座に並んで座る。

学園では“平等”が謳われているとはいえ、王太子を相手にすればそうもいかない。


俺は顔に“猫かぶり”の笑みを貼り付けながら、様子を窺う。


レジナルドはふっと笑うと、懐から封筒を取り出して俺の前に置いた。

王家の紋章が封蝋された、格式の高いそれ。


「今度の休みに、城で学園内の親しい生徒たちを招いて、茶会を開こうと思っていてね。その招待状だよ」

「えっ……」


恐る恐る封筒を手に取る。表には、リアム・デリカートの名。

ま、待て待て待て!これって──

ゲームでノエルとレジナルドが親交を深める、“あの”茶会イベントじゃん!?


しかも、俺の記憶が正しければ、この茶会にはキース以外の攻略対象が勢揃いする地獄の社交イベント!


なんで俺が招待されてんの!?

ノエルともレジナルドとも、接点を持たないように全力で避けてたのに!!


……これ、断れないやつ!?


隣のキースを見ると、やや険しい表情で口を開く。


「いくらなんでも、今度の休みとは急すぎませんか、レジナルド殿下」

「無論、準備は前々からしていたさ。ただ、リアムに渡すタイミングを逸してしまってね。侯爵家に届けようかとも思ったが、学園内にいるのなら直接渡すほうが早いと思って、ね」


……逃げてたのバレてる気がするな、これ。


キースは俺の気持ちを察して代弁してくれたのだろうが、レジナルドの“理詰め”返答に反論の余地がない。


しかも宛名は俺“個人”宛て。侯爵家ではなく、リアム・デリカート。

逃げ道、封鎖。


……病欠? いや、無理。

なぜなら、この茶会の翌日には学園初の定期試験が控えているのだ。


当日だけ体調崩して、翌日にテストには出ますなんて……どこの小学生の仮病だよ。


しかも、王太子からの直々の招待だ。

ここで断れば、ただの不義理どころか侯爵家ごと断罪ルート突入しかねない。


リアムが破滅したルートでは、両親が爵位を剥奪され、平民落ちの上に生活に馴染めず一家離散……そんな結末だった気がする。


今の俺たちは、超がつくほどの仲良し家族だ。絶対に避けたい。


「……多くの方が参加されるのですか?」


ノエルとの二人きりは避けたい。人数が多ければ、誰かに張り付いてやり過ごす手もある。

俺の問いに、レジナルドは小さく頷いた。


「ざっと20人ほどかな。ご参加いただけるかな?」


20人……少なくはない。これなら、どうにかやり過ごせる可能性はある。

試験を捨ててでも欠席する案は、ここで撤回。


ため息を噛み殺して、俺は微笑みを作る。


「……はい。参加させていただきます」


精一杯の営業スマイル。

「光栄です」と付け加えた声は、少しだけ棒読みだったかもしれない。


レジナルドは満足げに頷いて、すっと立ち上がる。


「当日は楽しみにしているよ、リアム・デリカート」


フルネーム呼びが、なぜかやたらと重く感じた。

──まるで「お前は侯爵家の代表として出席するんだぞ」と、背中に重荷を乗せるように。


クッソ……日程、誘い方、宛名、どれをとっても嫌な予感しかしない……!


レジナルドが去ってから、俺はソファに沈み込んだ。

キースが心配そうに俺の頭を撫でてくれるけど……もう限界だ。


胃が痛い……誰か、胃薬を……。


 


……もう、やだぁ……。


読んでいただいてありがとうございます!

応援いただけると嬉しいです♪

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