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2、

「たのもう!」


──それが、主人公・ノエルが俺に放った第一声だった。


……いや、頼む。勘弁してくれ。


 


✦✦✦


 


俺とキースを乗せた馬車は順調に進み、予定通りの時刻に王立リタルダンド学園──通称・王立学園へと到着した。


門をくぐれば、城と見紛うような白亜の校舎が視界いっぱいに広がる。

ここは、16歳から18歳までの貴族子女が集い、高等教育を受ける場所。いわば、この国の“高校”にあたる。


特徴的なのは、家格による序列が校則で禁じられている点だ。

貴族であろうと、ここでは平等──建前上は、だが。少なくとも公的な場では、それが守られている。


平民は通常、国教会──女神フォルテを信仰する教会が運営する学校へ通う。

ただし、才能や功績に秀でた者は例外的に奨学生として王立学園に招かれることもある。


俺は侯爵家の息子ゆえに当然、王立学園への入学が決まっていた……が。

これが問題の発端でもあった。


なぜなら、王立学園には「王太子の婚約者選出イベント」なる恐ろしいルートが存在する。

それをどうにか回避したくて、隣国・コーダへの留学を理由に提案したこともあった。見識を広げたい──そう主張したが、両親に泣いて反対された。なぜだ。


……かわいい子には旅をさせろって、諺ご存じないんですか。


ともかく、結局はゲーム補正か何かに押し切られて、俺はこの“死亡フラグの温床”とも言える学園に通うことになったわけだ。


とはいえ、若干の違和感もある。

たとえば、本来ならゲーム内でキース──兄は“魔塔”という国家魔術機関に所属しているはずなのに、現実ではなぜか王立学園の魔法教師を務めている。


運命の“ズレ”だろうか……それとも、よりにもよって俺の回避ルートに意図的に干渉してきてる?


どちらにせよ、学園に着いてもなおキースは俺の傍を離れようとせず、講堂へ向かう俺の後をついてきた。

いや、講師のあなたは別のところでしょう……!


最後には別れ際、堂々と俺を抱きしめるものだから、焦って引き剥がしたよね!

外です!人前です!やめてください兄様!


──ちょっと“仲良し兄弟作戦”が効きすぎている気がする。要・戦略再考。


 


講堂のアーチ天井の下には、既に多くの新入生たちが集まっていた。


とはいえ、生徒の大半は貴族ゆえ、入学者数は40〜50名程度といったところ。

知った顔がちらほらと見え、俺も軽く会釈で応じる。


席は自由なようで、空いていた後方の列に腰を下ろすと──


「よっ、リア。ずいぶんのんびりじゃん」


横に腰掛けたのは、俺の数少ない友人、セオドア・アレグレットだった。


彼も侯爵家の次男で、ゲームでは“取り巻き”というポジションだったが、俺が性格を改めたことで現在は気の置けない相棒のような関係だ。


「おはよう、セオ。……兄様を引き剥がすのに時間がかかってね」


「うわ、相変わらずだなキース先生……いや、あの人もう教師だろ? それよりさ、見たか?」


視線だけを使って、セオドアが前方を示す。


そこにいたのは、淡い桃色の髪をした少年。

周囲の視線を一身に集めているその存在──彼こそが、この物語の主人公。


ノエル・フィーネ。


半年前に“聖属性”の力に覚醒し、特別枠として王立学園への入学が決定。

その噂は既に社交界でも広まり、今日を心待ちにしていた者も少なくない。


俺もゲームで彼の容姿や設定は知っているが、実際に会うのはこれが初めてだった。


淡い桃髪、零れそうなほど大きな瞳、柔らかな頬と小さな唇──

その中性的な美しさには可愛らしさと凛とした気品が同居しており、まさに“主人公補正の塊”だ。


これで性格が温厚で、しかも聖なる力の持ち主。……そりゃ、学園内アイドルにもなるよな。


だが、俺にとっては、彼こそが雌堕ちエンドのトリガー。

間違っても、仲良くなってはいけない相手である。


よって俺は、鉄の意志でこう決めている。


──ノエルには半径10メートル以内に近づかない。


これである。これは俺の生命線である。



「……可愛い子だね」

「まあ、そうだな。リアも負けないくらい可愛いと俺は思うけど。俺はリアのほうが好みの顔かなー」


さらっとそう言ってのける彼の言葉に、嘘はない。

セオドアは、今では俺の“対等な友人”だ。お世辞ではなく、本心からの賞賛。


思わず、俺は彼の横顔に自分の頭をこつんと軽くぶつけて笑う。


「……ありがと。僕も、セオのこと好きだよ」

「……っ、あー、照れるっつーの……」


はにかむように笑う彼の横顔は、なかなかの美形だ。

猫のような目元が特徴的で、俺よりも身長が10センチ高いのがちょっと羨ましい。


……このゲーム、モブキャラに至るまで美形ぞろいなの、運営の偏執すら感じる。


もしセオドアが女の子だったら、即刻婚約者になってもらっていたかもしれない。

でも残念ながら、俺もセオドアも男だ。

この世界では同性婚も出産も可能な設定らしいが──俺の性癖は、ド・ノーマルである。


そうこうしているうちに、入学式は粛々と進み、終わった。

俺たちは各自の教室へ移動することに。


掲示板には新入生のクラス分けが張り出されていて──セオドアとは同じクラスだった。

よかった……ここが違ってたらメンタルに来るところだった。


しかし運命は容赦ない。

ノエル・フィーネ、同じクラス──はい来ました。俺の死亡フラグ。

どうか席は遠く離れてくれ……そう祈る俺の横で、セオドアが腕を突かれる。


「席、決まってないみたいだし……あそこどうだ?」


窓際の、一番後ろとその前が空いていた。周囲にはノエルの姿もない。これはチャンス。


「ん。いいよ。眠くなったら寝れそう」


なんて笑いつつ連れ立ってその席へ移動し、俺は後ろ、セオドアは前へ。

光の差し込む窓辺で、ようやく一息ついた──その瞬間。


 


「──たのもう!」


 


振り上げた顔の前、ノエルが仁王立ちになっていた。


 


……。


…………。


………………。


 


逃げていいですか。

読んでくださってありがとうございます!

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