↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/52

3、

「えっと……? ええっと……?」


俺の視線の先にいるのは──間違いなく、ノエルだった。

まさかの仁王立ち登場。人って、本当に予想外のことが起きると、声出なくなるんだな……。


セオドアも言葉を失って隣で固まっていた。

当然、教室中の視線がこちらに集中している。俺の困惑メーターはすでにレッドゾーンを振り切っている。


……いやいや、ちょっと待て、どうしてこうなった。


脳内ではパニックの嵐が吹き荒れていたが、何も言わずにいれば“無視”と受け取られかねない。

それで険悪なムードになって断罪ポイントが加算されるなんて、まっぴらごめんだ。


俺は見上げたまま、顔の筋肉を総動員して笑顔を作った。


「ええっと……ノエル君、だよね? どうかしたのかな?」


高慢に見えないよう、声色を丁寧に調整しながら問いかけると──


「えっ、声可愛い……! リアきゅんの声カワユス……!」


……え?


両手で口元を押さえ、ノエルが瞳を輝かせてこちらを見つめている。

“リアきゅん”? 俺のことか? その発言、どこか懐かしいオタクの気配を感じるんだけど……。


「え、あの、えっと……?」


さすがに面食らって言葉を詰まらせる俺に、ノエルは「あっ」と小さく叫んで我に返った。


「ああもう、ごめんね! ちょっと話したいことがあって……!」


「話したいこと……?」


「うん。君、リアム・デリカート君だよね? ……でも……」


ノエルは急に迷ったように、ぶつぶつと何かを呟きはじめた。

あれ? どうして俺の名前を……?


リアムは平民出身で、力に目覚めた後、子爵家の養子になった──という設定。

社交界で顔が知られるほどではないし、俺自身ノエルと会うのは今日が初めてのはずだ。


……ってことは、まさか。


このノエル……俺と同じ、“転生者”の可能性がある?


だとしたら、軽率にそのことに触れるのは非常に危険だ。

元の世界を知っている彼が、もし「ゲーム通りの展開に戻そう」とする人物だったら──俺の雌堕ちフラグがフルコンボで立ち上がる。


「とりあえず、急ぎじゃないなら後日でもいいかな? クラスメイトだし、また話す機会はあると思うし。改めて……リアム・デリカートだよ」


無難な距離感と社交辞令。この場ではそれが最善と判断し、俺は立ち上がって手を差し出す。

ノエルは少し考えるように眉を寄せたが、すぐに表情を明るく戻し、俺の手を握った。


「うん、そうだね。ノエル・フィーネです。よろしくね、リアム君!」


軽く握手の後、隣のセオドアも立ち上がる。


「俺も自己紹介しとくよ。セオドア・アレグレット。リアムとは昔からの仲なんだ、よろしくな」


セオドアが手を差し出すと、ノエルは一瞬手を見つめ、それから俺の手を離してセオの手を取った。


二人が並ぶと、なんというか──絵になる。

このゲーム、どこを切り取っても美男美女しか出てこないの、ほんと規格外。


「ノエルでいいよ。私も、セオドアとリアムって呼んでもいい?」


俺とセオは顔を見合わせ、それからノエルを見て、微笑んで頷いた。

こうして見た目にも明るい会話が成立していれば、周囲から“虐めの兆候”には見えない……はず。

少なくとも、ゲームの“初対面で罵倒イベント”は回避した。


「はい、皆さん。席についてください」


そのタイミングで、黒板の前から女性教師の声が響く。

黒ローブ姿の彼女は、いつの間にか教室に入っていたらしい。


俺たちは軽く会釈をして席に戻る。

ノエルは去り際に小さく「またね」と呟いた──が。


……お願い、もう“またね”はナシでいこう。な?


 


✦✦✦


 


その後、授業説明や書類配布などを経て、本日のスケジュールはすべて終了となった。

鞄をまとめていると、セオドアが顔を寄せてくる。


「俺、この後クラブ見てくつもりだけど……リアは?」


クラブ、すなわち部活。王立だけあって種類は豊富で、運動から文化までよりどりみどり。

入学式のときに「見学期間が設けられている」と生徒会長が言っていたのを思い出す。


前世からしてインドア派の俺は、運動部に入るつもりなど毛頭なく、文化系にするつもりだった──が。


ふと目を上げると、ノエルと目が合ってしまった。

にこっと、あの笑顔。

そのまま鞄を持ち直し、まっすぐ俺の方に──


ヤバいッ!!!


「えっ、あ、うん! 僕さ、先生に呼ばれてて! 行かなきゃ!! セオ、また明日ね!!」


鞄を持ったまま、ほぼ反射で立ち上がり、足早に教室を出る。


三十六計逃げるに如かず!


背後でセオとノエルの声が聞こえたような気もしたが、聞かなかったことにして、俺は手だけ振って全力で逃走した。


 


✦✦✦




──というわけで、現在俺は校内を絶賛迷走中である。


学園の敷地、広すぎる。

妹の設定資料集にマップはあったけど、部分的だったし、記憶も曖昧で役に立たない。


しかも、時々──ちらちらと桃色の髪が視界の端に入る。


……確定じゃないけど、絶対ノエルだよなアレ!?

追われてる、俺!!?

なんなんだよこの鬼ごっこ……!


逃げ場を探して目を走らせていたとき、ふと視界に入ったのは“図書館”のネームプレート。


中から本を持って出てくる生徒が数人いる。出入口はどうやら複数あるらしい。


よし……中で攪乱できるかもしれない。


俺はできるだけ平静を装いつつ、図書館へと滑り込んだ。

司書に軽く会釈して中に入る。

想像以上に広い。天井まで続く本棚、窓辺の読書スペース、ひっそりとした空気──。


人影に紛れながら奥へ進んでいくと、本棚の影から……見えた。

ノエルの姿。


やっぱり追ってきてた!!


物音を立てぬように気をつけながら、俺はノエルとは逆の方向へ。

気づけば、周囲に人気はなくなっていた。ようやく、気配も完全に消える。


「……どんだけ広いんだ、ここ……」


独り言のつもりだった。

けれど──返ってきた。



「──八百万冊。」



背後から、静かな声。

カーテンの隙間から差し込む光の中、音もなく姿を現したのは──


金色の髪に、宝石のような瞳をもつ青年だった。

まるで後光を背負ったかのような気配に、俺は思わず息をのんだ。

読んでくださってありがとうございます。

お気に入り・感想くださると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。