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27、

「大事を取って、七日ほどはお休みをしましょうね」


翌朝、食卓に着いた瞬間、母のそのひと言からすべてが始まった。


「そうだね、それがいい。その間に、父様がディマス様をどうにかしてあげよう」


静かに微笑みながら、父が続ける。


「僕も有給を取って一緒にいよう。……心配だからね」


有給⁈この世界にも⁈ ホワイト企業か⁈


「え、あの……怪我はもう治って……」


俺が慌てて言いかけると、母がすっと肩を落とした。

翡翠色の瞳が伏せられ、指先がそっと目元を拭う。


「……お母様、心配だわ……」


──出た。このムーブ。


父は黙って母の肩を撫で、俺には“察しろ”と目で訴えてくる。

これは……うん、勝てないやつだ。演技だと分かっていても抗えないやつだ。


母がこの“泣き真似”をする時は、たいてい俺を止めたいとき。

つまりこれは、軟禁宣言である。


「……わかりました、自習します……」


観念してそう告げれば、母はくるりと笑顔に転じた。

──ほらな。やっぱり演技だった。分かってたけどな!



「というわけで、俺は軽く軟禁されてる」


放課後、俺の部屋を訪ねてきたノエルは、テーブルのクッキーをぽいと口に入れながら笑った。


「お兄、愛されすぎじゃん」

「ありがとな。いや俺は行く気満々だったんだって……。で、ディマスは?」

「あーね、すごいよあの人……今さ、レジナルドの婚約者だって言い回ってる」

「……やっぱり……」


予想通りの行動に、俺は呆れて目を伏せる。

まるで俺を“蹴落として”得た正妻ポジみたいに振る舞ってるわけだ。


「でもさー、レジナルド様本人は否定してんのよね」

「そりゃ、国家絡みの話だしな。勝手に言われても困るだろう」

「それもあるけどさ……気になってる人がいるって、言ってたんだよ」


その言葉と同時に、ノエルがじっと俺を見る。

ちょ、まさか──


「……俺じゃないよな⁈」

「名前は出してないけど、皆、そう思ってるよ?」


俺は思わず頭を抱えた。


「あああああああああ……やめてくれ……!」


負けて退いた俺が“潔い”だなんだと美談扱いされてるらしく、そのせいでレジナルドの好意が“切ない片思い”みたいに脚色されているらしい。


──お願いだから、俺を巻き込まないでくれ。頼むから‼


「でもさ、レジナルドって“お兄が好き”っていうより、小動物構ってる感じゃない?」


「それな‼」


思わず食い気味で同意した。


あの人、明らかに“恋愛対象”というより“お気に入りのペット”を見る目なんだよな。

ただ、それが過剰で距離が近すぎるから、周りが誤解する。俺はただそれが困ってるだけで。


「もうさー、お兄、キース先生と結婚すれば?」

「お前もか!ブルータス!」

「キース先生、超かっこいいし、家族全員推してるし?」

「いやいやいや、俺は女の子が好きなんですけど⁈」

「分かってるけど、噂止めるには最短ルートかなーって」

「ナイリア推しだったよな⁈ お前‼ そっちの方向も無理だけど‼」


ノエルとわちゃわちゃやっていると、不意に別の声が割り込んできた。


「お二人とも、少し声を落とした方がいいですよ……」


驚いて振り返れば、扉のところに──ナイジェルが立っていた。


「お、お前、いつからいた⁈ ノックは⁈」

「してません。もういいかなと」

「良くないから⁈ お前、執事だろ⁈」


ナイジェルはどこ吹く風といった顔で、涼しげに続ける。


「それより、リアム様。お客様が来ております」

「……セオドアか?」

「いえ、セオドア様でしたらお通しします。ですが──」


ナイジェルはわずかに表情を引き締め、静かに告げた。


「──レジナルド王太子殿下でございます」

「…………はああああああ⁈」


叫ぶ俺の声が、屋敷の奥まで響いた気がした。


読んでいただいてありがとうございます!

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