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19、

『お兄』

『あ、いやだ。しない!』

『いやいやいや‼︎お願い‼︎ね⁉︎締め切りが近いんだよぉ‼︎』

『何が悲しくてボーイズでラブなお原稿に俺がトーン張りせんとならんのよ⁈』

『ちゃんとお手伝い金払うからさああ‼︎ねっ、ねっ‼︎お兄‼︎』

『あーあーあー‼︎もう‼︎はよ俺のPCにデータ送れ‼︎』

『やったー!お兄大好き!あと売り子して!』

『どさくさに紛れてとんでもないこと頼むんじゃねぇ‼︎』


……夢を見た。

前世の夢だ。ぎゃんぎゃんと喚いていた妹の声、懐かしい。

元気にやってるだろうか、あいつ。──っていうか、俺……どうやって死んだっけ?



「うーん……やっぱ、リアきゅんが主人公ポジじゃない?」


クッションを抱えたノエルが、俺の前で首をかしげた。

ここはデリカート邸──つまり俺の家──のベッドルーム。

今夜は“お泊まり会”という名の作戦会議。

セオドアは家の都合で不参加。現在は、ノエルと二人で無駄に広い天蓋付きベッドの上、パジャマ姿でごろごろしている。


「……嫌だ。嫌だけど、否定しきれないのが困る。ディマスとか特に……なんであんなに人の話を聞かないんだろ」


「ゲーム中のリアムも、わりとそんな感じだった気はするよ?」

「……いや、プログラムとこっちは違うだろ。俺、生きてるんだけど」


ノエルは「まぁねぇ」とふわっと笑って、横になった。

確かに、リンドンやレジナルドの動きを見ていても、俺が主役ポジに押し上げられているのは明らかだった。

本来のリアムなら、あんなに好意を向けられるなんて絶対にない。あったとしても、最後は破滅がセット。

俺は平穏を望んでいるだけなのに……。


「ねえねえ、前々から聞こうと思ってて聞けなかったんだけどさ」

「うん?」


ノエルはくるりと転がって、今度は腹ばいになり、俺を見上げてくる。


「お兄さんの……キースのエンドって、リアきゅん覚えてる?」

「キース……? そりゃあ、もちろん──」


……と思ったのに、喉の奥で言葉が詰まった。

……あれ?

……あれれ……? キースの……エンド……?


どう考えても、何度頭を掘り返しても、そのルートだけが記憶からごっそり抜けてる。


「え……おかしいな……」


眉をひそめる俺に、ノエルがふふんと息を漏らす。


「やっぱり? 私もなんだよね。攻略対象って分かってるし、そこの危機感はあるんだけど、結末が思い出せないの。モヤモヤ〜って感じでさ」


二人して黙り込んだところに──


「コン、コン」


扉が二度ノックされた。

続いて開いた扉の向こうには、ティーワゴンを伴ったナイジェルが立っていた。


「……ずいぶんと砕けた様子ですね」


呆れ気味の苦笑を浮かべて、ナイジェルが中へと入ってくる。


「たまにはこういうのもいいじゃない」

「“たまに”が毎度になっている気がしますが……お二人とも、マナーは心得ていらっしゃいますか?」


この人、こう見えて意外と小言が多い。でも、前世の自分と違って俺は耐えたんだ……!

リアムの人格を演じつつ、マナーも学んだ。今の俺は、ナイジェルに叱られるようなリアムじゃない……はず。


「ナ、ナ、ナ、ナイジェル……っ」


ノエルがすでに座り直して、両手を祈るように組み、顔を真っ赤にしてナイジェルを見つめていた。


「……落ち着いて。何度目だよ、会うの」


俺はベッドを降りて、ワゴンの方へ向かう。

ハーブティーの香りと、焼き菓子の甘い匂いがふわりと漂っていた。


「就寝前ですから、カモミールを淹れました。甘味も控えめなものを。……就寝前の歯磨きは、お忘れなきよう」

「わかってるよ。僕、もう子供じゃ──」

「うわぁあああ‼︎」


ノエルの突然の絶叫に、ナイジェルと俺が同時に振り返る。

彼女は目を見開いて、俺たちを指さしていた。


「動かないで!そのまま!二人、寄り添って!そう‼︎」

「……は?」

「いいから‼︎リアム‼︎ナイジェルの横に立って‼︎」

「……はいはい……」


俺がしぶしぶナイジェルの隣に立つと、ノエルはベッドの上で飛び跳ねながら悶えていた。


「ナイジェルさん‼︎リアムの腰に手をまわして‼︎早く‼︎」

「はっ⁈ いえ、それは……」

「い・い・か・ら‼︎」


こいつ……腐ってるな⁉︎ 妄想が漏れてるんですけど⁉︎

俺は困ったように眉をひそめるナイジェルに向かって、小さく手を差し出した。


「……やらないと、終わらないよ。いいよ」


一瞬の逡巡の後、「……失礼いたします」と言って、ナイジェルは俺の腰に手を添えた。

その瞬間──


「ほわあああああああ‼︎‼︎たまらん‼︎たまらんぞおおお‼︎」


ノエルが転がった。リアルに転がった。


「ノエル様……お行儀が……」

「そんなことはどうでもいいんですよ‼︎ナイリアは神‼︎これは描かねば‼︎原稿用紙持ってきて‼︎」


……ああ、俺、見覚えあるなこれ。完全に腐女子のテンプレ行動だ。

前世の妹と……重なる。


「ナイジェル、あれが“お腐れ様”ってやつだよ……」

「オクサレ……? また難しい言葉を……。あの、ところで……そろそろこの手を離してもよろしいでしょうか。私はまだキース様に殺されたくないのですが」


「……兄様? なんで急に兄様が出てくるの?」

「いえ。……知らぬが仏、という言葉もありますからね」


ナイジェルは静かに手を離し、ほんの一瞬だけ、小さく肩をすくめた。

その仕草がやけに意味深に見えて、俺はまた一つ首を傾げた。


──……ところで、“仏”って、この世界にもいんのか?


読んでいただいてありがとうございます!

応援いただけると嬉しいです♪


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