14、
今日も今日とて、ディマスは元気に絡んでくる。
ここまで毎日顔を突き合わせていると、いっそこのまま打ち解けて親友になれるんじゃないかって気さえしてくる。
……いや、向こうにそんな気がさらっさら無いのは百も承知なんだけど。
しかしなんというか、これは“ゲームの中のリアム”にしてもそうだったが……ディマスの“嫌がらせ”、やることが地味なのだ。
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・少し離れた場所から睨む
・嫌味を言いに来る
・たまにぶつかってくる
・悪いうわさを流す
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せいぜいこの程度。
同じクラスなら、これに「持ち物を隠す・壊す」といった小学生じみたアプローチも加わるんだろうが、ディマスは別クラス。勝手に入ってくるわけにもいかず、今のところはこの4つで止まっているようだ。
とはいえ、この四つの行動だけでここまで周囲に誤解を招けるのは、ある意味才能かもしれない。
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・少し離れた場所から睨む
→「ディマス様はリアム様のことが気になって仕方がないのでは?」(……まぁ、別の意味なら当たってるかも)
・嫌味を言いに来る
→「お話ししたいけど不器用なのかも⁈」(あの強引さは確かに不器用っていうか……ただの横暴だな)
・たまにぶつかってくる
→「距離を縮めようとして失敗したのでは⁈」(この前、購買で買った限定クリームパンが犠牲になったことは忘れない)
・悪いうわさを流す
→「他の人がリアム様に近づくのを牽制しているのでは⁈」(なぜそうなる⁈ありがたいけど思考が飛びすぎだ)
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……とまあ、誤解と妄想の化学反応が加速した結果、今はこうだ。
【ディマス様はリアム様を娶りたいのでは⁈】
現状、この誤解が学園内の公式見解になりつつある。
しかし当の本人はその事実を知らず、今日も今日とて俺のもとにやってくるのだ。
……なぜ、誰も止めないのか。王族だろう⁈
お付きの一人や二人、いるだろうがよ!
「おい、私が話しているというのに、上の空とはどういうことだ」
ほら来た。ディマスが目の前でキャンキャンと喚いている。
周囲はこの騒ぎを「ちょっと気になる噂」くらいの温度で見守っていて、それがまた恥ずかしいんだ……。
「いえ、そういうわけではないんですけど……。あのですね、ディマス様、以前にも何度もご説明していますが、僕はレジナルド先輩とは……」
「私がどうしたのかな?」
説明→スルー→説明、の謎ループの中、ついに“張本人”が現れた。
ちょうど廊下の曲がり角にいた俺とディマス。その位置関係のせいか、ディマスもレジナルドの登場には一瞬たじろいだ様子を見せる。
レジナルドは俺の隣にぴたりと立ち、「やあ」と軽く手を挙げた。
「レジナルド!」
「……どうも……」
ディマスは満面の笑み。俺はそっと一歩、彼らから距離を取る。
「君たちが見えてね。ディマス、学園生活はどうだい?」
レジナルドが優しく問いかけると、ディマスは俺をちらりと一瞥する。その目が明らかに「勝者の余裕」みたいな色を帯びていて──俺、ますます距離を取る。
「楽しく過ごさせてもらってるよ。ちょっと小賢しい蠅がうるさいけれどね」
「蠅?」
レジナルドが首を傾げる。
俺のことだよな! 知ってるよ!
でもなぁ、俺から絡んだことなんて一度もないんだぞ……。
……お願いだ、君たちだけで話しててくれ。セオドアとノエルが向こうで待ってるんだ、俺はそっちに行きたいんだよぉ……。
静かにもう一歩、距離を取ろうとしたところで──
「っ……!?」
レジナルドがすっと俺の腕を掴み、そのまま引き寄せた。
「ひぇっ⁈」
予想外の引力に体幹が追いつかず、よろめいた俺は──レジナルドの胸元に倒れ込む。
「おっと……大胆だね、リアム」
背中に回された手が、俺を逃がさない。
うわぁあああああああああああああああ⁈
お前は何をしてくれてるんだレジナルドーーー‼︎
慌てて身を捩ると、背中に回ったその腕がぎゅっと締め付けてくる。
「はな……っ!」
見上げれば、レジナルドは楽しそうに笑っていた。
お前……ッ‼︎ マジでやめてくれ……‼︎
こっちは後ろから殺気を感じてるんだ……!
恐る恐る振り返れば──ディマスが鬼の形相でこちらを睨んでいた。
ウワァアアアア……これ俺、今日中に刺される可能性あるのでは……⁈
「……失礼する……‼︎」
「ちょ……⁈ ま、ディマ……ッひぃあう⁈」
ディマスはわなわなと肩を震わせたかと思うと、くるりと踵を返し、凄まじい速度で廊下の向こうへと歩き去っていった。
引き留めようとした俺の動きを制したのは、レジナルドの手。わき腹を掴まれ、くすぐったさと妙な感触に、声が漏れそうになる。
その様子に、レジナルドが喉の奥で小さく笑う。
……この人、本当に……ッ‼︎
「離して、くださいっ‼︎」
場所は廊下、しかも周囲には生徒もいた。
それなのに、レジナルドとのこの距離感はあり得ない。
王族相手とはいえ、これは誤解を招く──いや、もう招いてる‼︎
俺がレジナルドの胸を押すと、彼はびくともしない。
そのまま、ふっと柔らかく笑って言った。
「もう少し鍛えたほうがいいかもしれないね、リアム。まるで子猫が暴れているようだ」
そう言って俺をいっそう抱きしめ、額にそっと口づけを落とした。
……はいはいはい、王子様風スマートムーブ、ありがとうございます。
って、違うだろうがああああああああ‼︎
俺の心の中の絶叫とともに、周囲がざわっと沸いた。
──これ、ラブシーンにしか見えないよな?!
「また放課後に会おう、リアム」
まったく悪びれもせず、レジナルドは涼やかに言って去っていった。
その背中を見送る俺の耳に、聞きたくもない言葉が聞こえてくる。
「もしかして……レジナルド様とリアム様って、あれって、あれなのでは⁈」
違う! 違うから!!
誰が言ったのかわからないが、とにかく否定したくて辺りを見回すと──
向こうから歩いてくるのは、よりにもよって先生。
うわあああああ‼︎ まずいまずいまずい‼︎
俺は火のついた尻に水をかける勢いで、教室へと駆け戻った。
──ちなみに。
その日の放課後には、こんな噂が新たに流れていた。
【リアム様をめぐって、レジナルド様とディマス様が対立⁈】
……しかもこの件について、俺は兄様から相当きつめの尋問を受ける羽目になったのだった。
勘弁してくれ、本当に……。
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