再開のゴミ場②・君は白く赤黒い子。
しばらく動けなかった。立ち尽くして凝視する。
なにがいったい、どうなっているんだ。汗が出て来た。
レリック【フォーチュンの輪】で僕の眼に表示される色の光は三つのはずだ。
緑。黄。青。今までずっと長いこと使ってきたが、この三色以外の光は無かった。
「しかもよりにもよって紫……」
ハッとして僕は【フォーチュンの輪】を解いて、レリック【危機判別】を使う。
白が安全。赤が危険。黒が確実に死ぬ。それらが光る点として現れる。
「…………」
白と赤の点が無数に見える。黒は今のところ無い。
そしてそれ以外の光の点はない。
あるのか分からないけどレリックの異常かも知れないと思った。
違うようだ。もし異常だったらそれはそれで大問題だからホッとする。
「……」
【危機判別】を解いて【フォーチュンの輪】を使う。
緑色と黄色の光が点在して青はない。そして紫の光が一点だけ……ある。
確かにある。何度も解除と使用を繰り返したが、やはりある。
「……なんなんだあれは」
どうすればいい。どうする。どうする。
「…………」
考えても分からない。かといって無視するのか。
いいや。確かめよう。何があるか確かめないといけない。
僕は【フォーチュンの輪】と【危機判別】を同時に使用する。
これが僕のゴミ場仕様だ。
「こっちか」
紫の光は細い。ここからは遠い位置にある。
慎重に慎重に赤を避けて進んでいく。
「おい。この俺に逆らうつもりか!」
「おまえ。女。この方をどなただと思っている」
「恐れ多いぞ」
「あのクーンハント所属。雇い仔第37部隊の部隊長さまだぞ」
なんだなんだ。
声する方を見れば、ゴミ山を背景に3人の少年がひとりの女の子に言い寄っていた。
真ん中の金髪で白い角を生やした偉そうな少年が、その部隊長とかいうのらしい。
軍服に似た服装で、他の2人とは格式が違う。
なんというかあの軍服。あれに似ているな。そうあの親衛隊だ。
腰に剣を佩いていた。
「大人しくこのピエスの女になれ」
「あのあの、あの、とっても生理的に無理なので嫌です!」
女の子は断言した。鈴鳴るような独特の可愛い声だ。
彼女は……なんだろう。
見た目から年齢は僕と同い年かひとつ下か。
腰下まで流れる艶やかな漆黒の髪から、真っ黒い犬……狼の耳を生やしている。
栗色のクリクリとした可憐で大きな瞳は少女漫画みたいだ。
それに相応しい小柄で愛らしい顔立ち。
その表情は華が咲いたみたいに輝いている。
黒い上着を羽織り、赤がスカートの白いひらひらしたエプロンドレスを着ている。
それがまたお似合いだ。どこか色合いからか制服っぽい。
黒いベルトを巻いてピンクのポーチを付けている。
スカートの根元から狼の尻尾が垂れていた。武器はない。
容姿は狼人族だけどその雰囲気や佇まいは、思わず守ってあげたくなる。
例えるなら、そうアイドルだ。格好もアイドルの制服コスにそっくりだ。
可愛いのは当たり前。可憐な美少女なのは当然だ。
だからあんなのに絡まれてしまう。
しまうのだが。
「無礼だぞ。ピエスさんが俺の女になれと言っているんだぞ」
「大人しくピエスさんの女になれっ! 雇い仔部隊長をクーンハントを甘く見るな」
「女……俺を怒らせるな」
「あのあの、あの……嫌なものは嫌です」
取り巻きが何か言って、ピエスとかいうのが声をふるわせている。
少女は困っていた。しかし。
「……」
躊躇う。僕は助けに行くべきだろうか。
普通ならいつもの僕ならそうだろう。真っ先に助けにいく。
しかしこの妙な違和感はなんだ。
おかしいのはピエスとかいうのと取り巻きじゃない。
少女の方だ。
魔女に護身術を習ってから、身体の構え方と姿勢によく気付くようになった。
何気なく歩いている探索者でも格の違いが少しだけ分かるようになった。
それによってどれだけ強いのかも、なんとなく分かる。
魔女が言う。
『まずまず、強者を知らないとねえ。ウォフ少年はその辺が足りないねえ』
強者を知る―――あの少女。まず彼等と距離をとっている。嫌だからだろう。
だがあれは間合いをとっているんじゃないか。
それに腰を引いているが僅かに落とし、脚を肩幅に開いている。
そして少女の両腕だ。あれは一見するとただ嫌がっているだけにしか見えない。
だが前世の記憶がある僕にはわかる。
両腕を曲げて胸の前、やや顔の近くに寄せるあの姿勢……ボクサーのブロッキング。
ゾクっとした。
あいつらの誰かが手を出した瞬間、やられる。
後ろにやや下がって腰を捻らせて放つ彼女のストレートで殴られる。
ああ、そうか。彼女は待っているんだ。
あいつらが手を出すのを……獲物が罠に掛かるのを待っている、狼だ。
しかも右手に嵌めているのは指抜きグローブじゃないか。懐かしい。
あの黒いベルトはバトルベルト。戦闘用の頑丈なベルトだ。
それにあの黒い靴。底が厚い。鉄板が間違いなく入っている。
見た目は華憐で守ってあげたくなる、花を愛でて虫も殺せないアイドル風の美少女。
その中身は……獰猛で戦いを求めて獲物を狙う餓狼……あっ目が合った。
しまった。
僕がそう思った瞬間、少女が動く。無駄の無い素早さで、あっという間に僕の元へ。
自然とピエスと愉快な取り巻きたちの視線も僕の方に向かう。
「なんだ。おまえ」
ピエスが不機嫌に言うと、取り巻きのひとりが目を細めた。そして言う。
「ウォフだ」
えっ、僕を知っている?
「誰だ?」
「ピエスさん。あいつ。ウォフですよ」
「だから誰だ」
「マジか。あれがウォフか」
もうひとりの取り巻きも頷いた。
なんで、なんで僕のことを知っているんだ。
「ピエスさん。ボブビスって覚えますか」
「ボブ……ああ、あのいけ好かない探索者か。クーンハントの恥だった」
「ボブビスと取り巻き。ウォフと一緒に路地裏へ行って戻って来なかったんですよ。路地裏に行ったら何も無かった。なあ、そうだよな。ウォフ……」
あ、ああ、あのときのか。忘れていた。
そうか。見られていたのか。まあ別にいいけど、僕はとぼける。
「なんのことだか分からないです」
「てめえっ」
「そんなことはどうでもいいでしょう」
「お、おまえ」
僕のことを知っている2人の取り巻きたち。
分かった。こいつらは僕を怖がっている。だから放っていい。
「どういうことだ。確かにボブビスは姿をみせていないが」
ピエスというのも無視していいだろう。
問題は、この少女だ。
こわい。僕の近くにいるのに間合いをしっかりとっている。
おそらく無意識なんだろう。だからこそ、こわい。
見た目とギャップがありすぎてさらに恐ろしい。
もっと恐ろしいのは反射的に【危機判別】して分かったこと。
彼女は―――僕を見る。
「あの、あのあの、ウォフ様とおっしゃるのです?」
「はい。そうですけど、あと様は付けなくていいです」
「あたくしはジューシイといいます。ジューシイ=タサンと申します!」
その瞬間、空気が変わった。
特にピエスと取り巻きの表情が一変する。
「は? た、タサンってあのタサンか!?」
「なっ、なんで、ウソだろっ」
「お、おい。貴族を騙るのは重罪だぞ。女」
「あのあの、これが証拠です!」
ジューシイさんが僕達に指輪を見せた。
青銅製の鈍い光を放つ指輪。はて、どこかで見たような?
ピエスたちはきょとんとする。
「それがどうした? ちゃっちい指輪だな」
「それがタサンの証なわけないだろっ」
「おまえ。分かっているだろうな。貴族を騙るのは死罪だぞ」
「あのあの、あの、あの、間違えました。こっちです!」
ジューシイさんが懐から取り出したのはペンダントだ。
丸いメダルのような金属板に紋章が彫られている。
紋章は何故か幼い狼を抱いてフードを被る中性的な少年の上半身が描かれていた。
少年の上には古代文字で『タサン』とある。
絵柄はなんとなくミシャっぽかった。
それを見たピエスたちは顔面蒼白になる。忙しいやつらだな。
「す、すみませんでしたあぁぁっっっ!!」
謝りながらピエスは逃げ出した。
「ごめんなさいいぃぃっ」
「さーせんしたあぁぁっ」
2人の取り巻きも謝罪を叫びながらピエスの後を追って行った。
必死に逃げていく。いいな。僕も逃げたい。
「あのあの、あの、あの、助かりました。ありがとうございます!」
「僕、なにもしていませんよ」
「あのあの、あの、失礼ですが、あなた。お強いです」
「いえ、僕は弱者ですお嬢様。それでは」
軽く会釈して逃げた。さすがに走ったりはしない。
ゆっくり離れて、早足で歩く。よし。自然に逃げられた。
冗談じゃない。しかも貴族だ。
このまま別れるのが吉。
紫の光の元へ。もう少しだ……着いた。
「ここが……」
細い紫の光が見える。それはとても小さい穴だった。
ポッカリとゴミ山にある小さな穴。そこから紫の光が出ている。
なんとなく掘れば崩れて、いやこの剣や鎧や盾の金属の鉄くずゴミを掘る?
「……」
「あ、あのあの、あの」
「うわあっ」
いきなり眼前にジューシイさんの顔があって驚き、尻餅をつく。
「あのあの、あの、ウォフ様。大丈夫ですか。大丈夫そうです!」
「……なんでここに」
なんで付いてきたんだ。
この白く赤黒い彼女。




