再開のゴミ場①・ありえない光。
正式に魔女の弟子になって早くも11日が経った。
ミネハさんによる塔の不法占拠は相変わらずだ。
まぁアクスさんが母親に会うタイミングで向こうに帰ると言っていた。
今アクスさんの母親は依頼で家を出ていると返信の手紙にあったらしい。
返信相手はアクスさんの家の使用人さん。
使用人……なんと実家は豪邸。さすが有名な第Ⅱ級探索者だ。
アクスさん。平民なのに裕福な暮らしをしていたみたいだ。
でも裕福だからって幸せとは限らないよなあ。
探索者といえば、ミネハさん。ソロで探索者の仕事をしている。
食事代としてお金が置いてある。
たまにトルクエタムと組んでいるらしい。
ルピナスさんと言い合いをよくしているってパキラさんから聞いた。
それとビッドさんが所属していたパーティー。ザン・ブレイブが解散した。
なにがあったんだろう。ただ解散は珍しくないらしい。
そのときパキラさんから伝えられた。
近いうちにルピナスさんから話がある。何の話かはよく分かっている。
仕事というか僕も魔女の家に通っていた。
本格的に弟子として師事している。
調合の仕方や古代文字の読み方それと護身術など教わっている。
とても驚いたことがある。
一部のレジェンダリーは修理することが出来る。
その凄腕の修復師としても魔女は有名だった。
難解で複雑な修理も魔女なら出来る。それは魔女曰くレリックのおかげらしい。
どんなレリックか聞いたら。
【神は三度サイコロを振らない:最高難易度の技を1日に3回は必ず成功させる】
チートだった。さすが第Ⅰ級探索者。いいや魔女。
ただ、その修理の様子を見せてもらったんだけど、家電修理みたいだなと思った。
実は王都でレジェンダリーは買える。
ただ一番安くても王貨50枚ぐらいする。そう500万だ。
でもその殆どが本当に家電みたいなのばかりで修理の依頼人も貴族や商人だらけだ。
だから修理代も高い。魔女の収入の大半がこの修理だ。他が薬剤。
後は護身術。これが凄い。
魔女は腕を掴まれた状態で相手を転ばせたり、片手で相手の腕を掴んで投げたり。
相手に手を触れず投げたりすることができた。まるで合気道だ。
レリックやオーパーツが強力すぎて手加減が出来ないから極めたとか。
軽く言っていたがレリック無効化が出来る宝石級中位のダンジョンの魔物がいる。
その対策でもあった。というかそんなのいるの?
他にも目からレーザーを出すサイクロップスという巨人の魔物もいるとか。
なんなの。サイクロップスってそんなこと出来た?
まっそんな魔物どもとは絶対に戦わないからいいか。
フラグじゃないぞ。
とにかく、護身術は役に立つ。力をあまり使わず出来るので子供の僕にも扱える。
ちなみに魔女はスパルタだった。もう百回以上は投げられている。
そういえばあの弟子になった日、魔女の腕を掴んだときの凄い力。
僕は危うく投げられるところだったのか。ふるえてきた。
あと魔女の尻尾を握れば勝ちっていうのなんか違う気がする。
まあ今も一度も触れることすら出来ない。
しかし常に尻尾を狙うってお尻見るってことだよなあ。いいのかな。
弟子だから一緒に住まないかと誘われたが、それは丁重にお断りした。
あんな縮小版の人外魔境+魔女とか絶対に休まらない。
それに僕は今の家が気に入っている。
街から森に通うのもいいトレーニングだ。
例の森の調査はまだ開始されていない。魔女が近々始めますという旨の手紙。
それを【グランドマスター】のアブラミリンさんに送った。
その返信待ちだ。まだ来ていないので調査ができない。
師事といえば、アクスさんたち雷撃の牙はアガロさんに鍛錬をしてもらっている。
アガロさんに次の指名依頼が入って街を出て行くまでという期間限定だ。
雷撃の牙の次の目標は『第Ⅲ級』だ。
今回のダンジョンの探索と異変討伐で昇級の得点はかなり溜まったと言っていた。
ミネハさんが言っていたが、『第Ⅲ級』の試験はずばり戦闘力。
ギルドが指定した銀等級下位の魔物を期間内に討伐する。
または銀等級下位の魔物の巣をせん滅させる。そういう感じらしい。
ミネハさんの試験は指定した魔物の方だった。
銀等級下位のウインドビッグブル。風の属性レリックを持つ巨大なイノシシだ。
それと2日前から雷撃の牙はアガロさんが受けた討伐依頼でマザンに行っている。
マザン山脈。ハイドランジアの北に広がる魔境だ。
隣国との国境沿いになるがマザン山脈は中立地帯になっている。
マザンの霧深い谷に潜む大魔刀ライノという金等級中位の魔物討伐だ。
頭の角が巨大な刃になった大きなサイだ。
しかもその刃はオーパーツ。もちろん適応している。
戦いたくない相手だ。
帰ってくるのは早くて1週間。遅くて10日ぐらいと言っていた。
無事に戻ってきて欲しい。アガロさんがいるから大丈夫だろうと楽観視しよう。
いつものようにダンジョンの入り口前を通る。
指輪を渡した翌日、ガウロさんに怒られたが指輪はちゃんと受け取ってもらえた。
アリファさんのところにもう鑑定に出している。
ただあの指輪。難しいものだったらしく時間が欲しいと言われたとか。
そんなに凄い指輪だったのか。色はスーパーレアだったけどな。
んん。ん? なんだ? 入り口前に人だかりが出来ている。
探索者と子供だ。他は遠巻きに見ている。なにかあったのか。
「下がれ下がれ!」
「明日からだ。今日からじゃない!」
門番が押し寄せる探索者と子供を追い払っていた。
「それに今回の特例解除はゴミ場だけだ」
「他はまだ調査中だ。ほら、下がれ下がれっ! 探索者は去れ!」
特例解除? ゴミ場?
いったい何の事だと思っていたら、門番のひとりがこっちに来る。
ガウロさんだ。
「よう。ウォフ」
「ガウロさん。特例解除っていったい?」
「ああ、ゴミ場だけ特例で解除することが決まったんだ。ここは調査団が既に調査して問題無しとなった。それに……あまり大きな声で言えないが、クーンハントがな」
「クーンハントが?」
「連中。ガキどもを集めて奴隷みたいに使っている。雇い仔と言ってな」
「それは前からですよ」
「ああ、そうだが……ここだけの話だ。何人か死者が出た」
「え……」
「連中は不慮の事故といっていたらしい」
「…………」
「悔しいがな。街の偉いさんがガキどもを放っているのも現状だ。そこでクーンハントに雇われないように……ゴミ場だけを解放することにしたらしい。苦肉の策だな」
「表立ってクーンハントに忠告や警告は出せないんですか」
「そいつはクーンハントのトップに逆らうことになるから無理だ」
「第Ⅰ級探索者……」
ガウロさんは黙る。
僕もそうだが働く子供は孤児だけじゃない。
両親や片親が居ても働く子供も少なくない。
探索者問題に待機児童がある。
両親あるいは親が探索者で依頼に出て、何日も帰って来ないことだ。
その間、待っている児童は両親の依頼の前借でなんとか暮らす。
それでも帰らずお金が無くなったら、ゴミ場へ行く。
小さい子供や初回はガウロさん限らず門番の殆どは無料で入れてくる。
それは彼等の自腹だ。そして上司とギルドはそれを黙認しているらしい。
ゴミ場で働くあるいは働けない子供。それを狙ったのがクーンハント。
雇い仔といって安い賃金で奴隷みたいにこき使う。
今回のダンジョンの閉鎖は奴らにとってもってこいってところか。
クーンハント。完全にブラッククランだな。
本当に第Ⅰ級探索者がクランマスターをやっているのか。
いや別に第Ⅰ級だからって良いヒトとは限らない。
アレキサンダーさんと魔女。ふたりがそうだっただけだ。
しかしクーンハントのボスか。気になってきた。
なにかあったときの為に魔女に聞いてみるか。情報は力だ。
ゴミ場が再開するのは嬉しいけど、なんともいえない事情だな。
どうにか解決できればいいがこればかりは難しいだろう。
行政にも限界がある。そして僕にはどうにも出来ない問題だ。
ちなみに報酬はまだ入っていない。
ギルドに呼び出されたとき説明された。
閉鎖が完全に解かれないと支払うことができない。そう言われた。
それでもさすがに長すぎる。それはギルドも分かっていた。
なので本来なら依頼料にはない利息分を支払った。
1日1000オーロを1か月分。3万オーロをもらった。
僕にとっては大金だ。半分は貯金している。
「だから明日から使えるぞ。300オーロだ」
「わかりました。明日からまたよろしくお願いします」
明日からか。楽しみだ。
そして僕は今日も魔女の元で修業する。
なんだろう。こんなこと言うのは変だけど、僕はいま少年漫画している。
コツコツトントンで少しプラスなマイライフは、もちろん今も目標だ。
でもたったひとりじゃないんだなって最近、思えてきた。
秘密を全部、打ち明けたからか。身も心も結構スッキリしている。
そして気付く。自分はかなりの重荷を背負っていたんだと。
まあ秘密は打ち明けたけど、秘密自体は身に宿っているしポーチの中にもある。
だが、ひとりで抱えなくていいという解放感は格別だった。
「さて、今日も雑肉を買って帰るか」
あと野菜だ。パン豆も補充して、お茶の葉もいくつか。
うん。充実している。
次の日。
街のダンジョン入り口。
僕はガウロさんに300オーロを払う。
「おう。毎回しつこいと思うが2階までだ。もっとも今は閉鎖されているからな」
確か物理的に閉鎖されているんだよな。
レガシーの【障壁石】だったか。
【バニッシュ】なら壊せそうだがやらない。
「わかりました。いってきます」
「遅くなるなよ。刻限は夕方までだ。鐘の音は聞こえるだろ」
「はい」
このやりとりも懐かしい。
僕は、まるで巨大な怪物の腹の様な岩肌の入り口を抜ける。
唐突に人工的な石造りの通路になった。明らかに人の手によるものだが違う。
ダンジョンは人知を超えた驚異だ。
2階へ降りる階段を通り過ぎる。
階段には蓋のように光る膜が張ってあり、丁寧にロープが引かれていた。
あの光る膜が障壁。その四隅に設置されている石が障壁石。
障壁の効果は大体1日。だから1日の始まりで消える前に門番が待機。
消えたら新しい障壁石を門番が設置しているという。ご苦労様です。
そのまま突き当たりを右へまっすぐ行くと、急にひらけた場所になる。
大量のゴミが山積みされている。
これらはダンジョンから排出されたゴミだ。
ゴミの内訳は様々だがダンジョンで死んだ探索者の装備品が多い。
あとは落とし物と失くし物と忘れ物だ。
生ゴミはダンジョンに吸収される。
それらはダンジョンの魔物の素体の材料にされるといわれている。
嫌なリサイクルだな。
ここが僕の仕事場。
ダンジョンのゴミ場だ。
もう既に何人かの子供たちが漁っていた。
この光景―――なんだか懐かしい。
ちょっとセンチメンタルになりそうだ。
僕は見回して、少し様子が違うことに気付いた。
いくつかのゴミ山が崩れている。それはアガロさんの戦闘の跡だろう。
大したことではないが気になった。あの惨劇よりはマシか。
「よし。やるか」
ちょっと気合いを入れる。深呼吸する。
変な緊張感が僕の心にあった。久しぶりでワクワクしている。
レリック【フォーチュンの輪】を使う。
これは価値のあるモノを色の光で表すレリックだ。
緑色はレア。
黄色はスーパーレア。
青色はスーパーウルトラレアだ。
僕が持つエリクサーの神聖卵は青だ。
レリックを使った状態で周辺を見回す。
「緑。黄色。緑。緑。緑。黄色」
やっぱり青はないか。
「緑。緑。黄色。緑。紫。緑。緑。黄色か」
こんなものか。こんなものだよな。
相変わらずのごみ場に僕は苦笑―――待った。待て。
今、なにか……変なモノが見えなかっ……え。
僕は固まる。息が止まる。
一滴の汗が頬をつたうのを感じた。
目の前が真っ白になった。その光だけしかみえない。
細くそれでも確かにその光はゴミの中にあった。
紫の光だ。




