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それなり僕のダンジョンマイライフ  作者: 巌本ムン
Season2

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トルクエタム⑤

ビッドは心底から疲れたという表情じゃった。

リヴがそのまま居間のソファに誘導する。


わらわたちもティーセットと一緒に居間に移動した。

居間には黒い長テーブルと白いソファがある。


「ん……粗茶ですが……」


リヴがカップにお茶を注ぎ、ビッドの前に出す。


「ど、どうもっス」


意気消沈しているビッド。カップに手をつけようとしてやめる。

俯いてしまった。ふうむ。空気が重いのう。


「ビッド。解散ってどういうことですの?」


ルピナスがお茶を飲んでから訪ねた。

こういうとき空気を読まずに切り込めるのが彼女じゃ。


「……帰還して、それぞれ色々とあって疲れているから、しばらく活動は休みってなったっス。確かに休みは必要だったっス。アガロさんと一緒だったリーダーも疲れていたし、置いてけぼりを喰らって、ふたりだけで地上に戻ったクルトンとロモモも同じっス。ウチもそうっス」


わらわたちも帰還してから6日間ほど休みをとった。

それはそうじゃろう。


「ん……そこはどこも同じ……」

「最初は4日間の休みだったっス。それから依頼を何件かやる予定だったっス」

「厳しいのう」

「ん……ハードワーク……」

「もう少し休んでも良いと思いますわ」

「実はウチら『ザン・ブレイブ』は唯一支援してくれていた貴族が、よく分かんないっスけど潰れてしまって、一気に貧乏になったっス」

「おぬしら拠点申請しておったじゃろう」


それなら色々と特典があったはずじゃ。


「していたっスけど支払いで殆ど消えているっス」

「支払い?」

「そうっスね。支援金もそっちに回していたっス。だから依頼で生活費を賄っていたっスよ。それで充分回っていたっス」

「じゃが支援先が無くなって、その支払いも満足にいかぬから貧したわけじゃな」

「ん……それだけのお金払う……どんな支払い……」


そこが気になるのう。

ビッドはカップを持って飲む。


「いい味っス。ウチの好きな味っスね」

「ウォフが調合したお茶じゃ」

「ウォフくんが? 美味しいっス。支払いは―――そもそも『ザン・ブレイブ』というパーティーは、リーダーが先代から受け継いだんっスよ。それでパーティーハウスも受け継いだんっスけど、かなりの老朽化で修繕が必要だったんっス。それで修繕をしたんっスけど、修繕費用がとんでもない金額になったんス」

「その支払いというわけですのね」

「ふむ。なるほどのう」

「でも修繕は元々先代が払う予定だったんっス。だからリーダーも大規模な修繕に頷いたんっス。でも修繕が終わる前に先代が急死して、その修繕費の支払いもダメになったんっス」

「契約書は交わしておらんのか?」

「そうですわね。それだけの大金なら知り合いでも契約書は交わすはずですわ」

「ん……親しき仲にも……礼儀あり……」


わらわたちの正論にビッドは俯いてしまった。そして深く溜息をつく。


「そうっスよね……普通はそうっスよね……するっスよね……」

「しておらんかったのか」

「どうしようもないですわ」

「ん……言うことは……リヴにはなにもない……」


こればかりはのう。


「ふむ。して、それが解散理由なのかのう」

「違うっスね」

「違うんですの?」

「まったく関係ないっスね」


じゃあ今までの話なんじゃったんじゃ。

他のパーティーリーダーのやらかしを聞いただけに終わったぞ。


「ん……ビッド……解散理由は?」

「結婚っス」

「は?」

「メンバーのクルトンとロモモが結婚することに何故かなったっス」

「それは、めでたいのう」

「あら、よかったですわ」

「ん……おめでとう……」

「まぁー普通はそうっスよね」

「でもそれはパーティー内の恋愛になりますわね。ザン・ブレイブは禁止して無かったんですの?」


ルピナスが問う。

パーティー内の恋愛は色々と問題があって、禁止しているところが多いと聞く。

わらわのところは女同士なのでまあ今のところはそういうのは無いのう。

ビットは乾いた笑みを浮かべた。


「ははははっ……してなかったっス……誰もそういうの無いと思っていたっスから……ね。ははははっ……」

「なんとものう」

「言えませんわね」

「ん……それで……なんで解散に……結婚しても……続けられる」


リヴの言う通りじゃな。

子供が生まれれば難しいが、夫婦になったばかりなら続けられるはずじゃ。


「それがっスね。さっき言ったっスけど、最初は4日間だったっス。それがクルトンとロモモの都合で6日間になったっス。6日になったとき、また都合が悪いと、8日後になったっス。そして今日、ふたりは結婚するっていきなり言ったっス。更に結婚したら探索者を辞めるって立て続けっスよ。なんでもクルトンが実家の農家を継ぐらしいっス。それでロモモもってことっス」

「今日じゃったんじゃな」

「それはお幸せにとしか言えませんわね」

「ん……」

「じゃが、あやつが戻れば3人でも『ザン・ブレイブ』は続けられるじゃろ」


ザン・ブレイブには実家に戻っておるメンバーがいる。

じゃから、ふたりが抜けて解散は早すぎると思うのう。

ビッドはカップを飲み干す。


「それがっスね。リーダー。ロモモのことが好きだったんっスよ」

「……なんとのう」


ぬう。何も言えん。

ルピナスも苦い顔をしていて、リヴはお手上げとポーズをする。


「それであーもうってくらいすっかり意気消沈して、解散するって言ったんス」

「……ビッドは止めなかったのかのう」

「本音としては思うところがあったっス。でもリーダーは伝えに行ってくるネと出て行って、仕方ないからクルトンとロモモに詳しい話を聞いたっス。ふたりが付き合い始めたのは異変討伐でなんと帰還後。それからふたりは8日間で結婚まで決意したっスよ。一番のキッカケはクルトンが死にそうになったことっスね。そこまで死ぬというところまで追い詰められたことが今まで無かったから、探索者を舐めているっていうのは、ちょっと言い方が悪いっスけどトントン拍子に進んでいたこともあって、危険な仕事ということが抜けていたみたいっス。それはロモモも同じっスね」

「それで死の危険を感じたことで辞めることにしたんですの」

「なまじ上手くいっていたところが裏目に出たのう」

「ん……ちょっと分かる……」

「そうっスね。まあ臆病っスけどウチは責めるつもりないっス」

「誰も責められんのう」

「エイジスはお気の毒ですけれど」

「ん……」

「だから解散も仕方ないとは思うっスけど、急に不安になったっス。これからどうれずはいいか。急に目の前が真っ暗になって、誰かに相談したくて、それで此処に来たっス……」


道しるべが無くなって道が消え、それでわらわ達に縋ってきたという感じかのう。


「ふむ。ならばビッド。トルクエタムに来るかのう?」

「えっウチっスか?」

「あっそれ、わたくしが言おうとしたこと! ずるいですわ!」

「ん……リヴも言おうと……思ったのに……」

「たわけ。誰が言うても良いじゃろう。どうじゃ? おぬしの遠距離からの制圧力

は評価しておるし、人柄も良く知っておる。なによりもリヴと仲が良いからのう。その黒い上着。リヴから貰ったものじゃろう」


ビッドが着ているジャンバーとかいうのはリヴがあげたものじゃ。

前にザン・ブレイブと合同で依頼をしたとき、アクシデントで彼女の服が破けることがあった。そのときにリヴが着せたのがきっかけじゃったな。


「ん……ジャンバーは……同志の証……」

「ジャンバー。いいもので大切にしているっス……うーん。パキラのお誘いは嬉しいっスけど、当分パーティーはやめておくっス」

「ふむ。そうか」


断られるのが半々だと思っておった。

解散したばかりというのもあるから気持ちは分かるのう。


「しばらくはソロでやっていくっス」

「うむ。何か困ったことがあれば相談にのるぞ」

「ん……ビッドは同志……」

「困ったときはお互い様ですわ」

「みんな……ありがとうっス……」


ビッドの目にうつすらと涙が浮かんだ。


「たわけ。泣くでない」

「泣いてないっス」

「そういえばエイジスはどうするんですの」

「リーダーは伝えに行くって言ってたっスから、たぶん帰省しているミッカに解散報告に行ったっスよ。しばらくは戻らないっスね。あいつの故郷ここから遠いっスから。そういう意味で傷心旅行でもするつもりじゃないっスか」

「パーティーハウスのほうはどうするんじゃ?」

「さあ? リーダーがなんとかするんじゃないっスか。解散して拠点申請も無くなったから近々売りに出されるんじゃないっスかね。ウチにはもう関係ないっス」


そりゃあそうなんじゃが、ちょっとビッド怒っておるな。

ふとルピナスが思案顔になった。


「―――ビッド。そのパーティーハウスって快適ですの?」

「快適っスね。大き過ぎず小さくない。ちょうどいい規模で、修繕したときにいくつかレジェンダリ―を入れたっス」

「なんじゃと」

「どういうレジェンダリーを入れてあるんですの?」

「えーと、蛇口をひねるだけで水が出たり、台所は王都最新っスね。確かシステムキッチンとかいうので竈とかもスイッチひとつで火が付いたりするっス。オーブンというのもあって、それに洗濯機と冷蔵庫っていうのも。お風呂も浴場になっていて広いっスよ」

「ん……贅沢の極み……」

「それは莫大にもなるのう」

「…………修繕の残りは売った金額で補填するんですの?」

「そうっスね。それしかないっス。足りるかはまた別っスけど」


ルピナス。さっきから妙に積極的じゃのう。

まあ大体は予想がつく。


「パキラ。リヴ。どう思いますの? わたくしは買いだと思いますわ」

「おぬし……やはり言うと思ったのう」

「ん……言うと思った……」

「なんっスか?」

「パキラ。リヴ。よろしいですわね」


ルピナスが再度尋ねる。ふうむ。問題はひとつ。


「金額がいくらか分からぬとなんとものう」

「ん……それな……」

「それならビッド。今からわたくしが手紙を書きますの。ミッカの故郷がどこか分かりますわよね?」

「分かるっスけど、なんなんっスか?」


ビッドは不審げに小首を傾げる。

ルピナスは誇らしく言った。


「良ければ、そのパーティーハウス。トルクエタムの拠点にしますわ」

「なっ……本気っスか!?」

「もちろんですわ。それでよろしいですわね。おふたりとも?」


わらわとリヴは顔を見合わせ、わらわは微苦笑する。


「拠点申請して例の支援を受けられたらのう」

「ん……最低条件……」

「わかりましたわ」

「ああ、そうじゃ。それともうひとつあるのう」

「なんですの?」

「わらわ達の最大の支援者への連絡じゃ」


するとルピナスは分かっておったが一瞬だけ嫌な顔をした。

しょうがないじゃろ。これほどの大事は報告しないとのう。


「……はぁ、分かりましたわ。そちらにも手紙を書きますわよ」


リーダーの役目じゃからな。それにおぬしの実家じゃろ。


「ん……ほうれんそう……大事」

「ほうれんそうっスか?」

「ん……報告……連絡……相談……」

「なるほどっス」

「ほう。なるほどのう」


良い言葉ではないか。のう。ルピナス。


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