静かなる者②
意外というか。決して痩せ我慢ではないみたいだ。
アクスさんは僕の見立てでは心配はしているが焦ったりはしていなかった。
「それはなぜかって?」
「は、はい」
するとアクスさんは苦笑いを浮かべた。
なんで?
「変な話というか、割とあるんだ。こういうことは」
「あるんですか」
「ダンジョンは前もって調査した地図があっても、まあ大体はその通りに変化はないが、それでも何が起きるか分からない場所だ。決して起こらないってことはない。それが起きただけだ」
「それは、そうですが」
「俺等も探索者として経験はそれなりにある。だがどれも順調ってわけじゃない。こうやって何か分からないうちに分断されることもある」
「アクスさん達もあるんですか」
「別れたのは、確かこれで3回だ」
高いのか低いのか判断できない。
「だからあいつらなら大丈夫だ。それとミネハもな」
一応は心配していたらしい。っと僕は気付く。
「アクスさん……音が聞こえませんか」
「戦闘か」
互いに頷き僕達は走った。レリック【危機判別】だと赤が三つ。
白かひとつ。味方だ。赤がひとつ減った。
「はああああぁぁっっ」
気合いを入れた声が響く。甲高い。
「女?」
次の瞬間、奇妙な音が耳に届く。
渦巻く風のような―――到着した僕達が目にしたのは驚きだった。
それは鉱狼の人型魔物コボルトを馬上槍のスピアーで引き裂く女性。
見たことがある亜麻色の髪。勝気で吊り目の可愛い顔。
そして銀の鎧姿。
だが背丈は僕より少し高い。
僕とアクスさんの知る彼女は小さな小さなフェアリアル。
でも僕には別の意味で見覚えがあった。
ミネハさんが僕の家に泊った日。こっそり深夜に水浴びをしていた女性だ。
あのときのことは鮮明に今も覚えているが、絶対に言えない。
アクスさんが目元を険しくさせる。
「あいつは、まさか」
「おそらく」
女性は最後のコボルトをスピアーで貫いた。
僕達に気付いていたのだろう。すぐに振り返る。
「無事だったのね」
「おまえは」
「ミネハさんですか」
「そうよ。見て分かる通り」
秘密でも何でもないのか随分あっさりしている。
「だがその大きさは」
「レリックよ」
「それは分かるが」
「ひょっとしてフェアリアル固有のレリックですか」
「そうよ。身体と身に着けているモノを拡大縮小させるレリック【妖精の化身】よ」
えっへんと胸を張るミネハさん。
アクスさんが呆れたようにしながら周囲を見渡す。
「すげえな。えぐられてやがる」
「……もしかして、ミネハさん。そのスピアー。オーパーツですか」
「そうよ。よく気付いたわね」
「スピアーにレリックの力が乗っていましたから」
レリックは付与することは出来ない。
出来るとするならそれは相性の良いオーパーツだけだ。
「それはレリック【スパイラル】ね」
「なんだ。そのレリック?」
「螺旋ですか」
僕が言うとミネハさんは目を見開いた。
「よく分かったわね。あたしは力の流れを渦巻くようにすることができるの」
「つまり風みたいなもんか?」
「そう思ってしまうけど、風より重く威力があるの」
「確かに……威力はあるな」
3体のコボルトは潰され引き裂かれて貫かれている。
凄まじい。これが【スパイラル】か。
幸いにもコボルトはコバルト鉱で出来ているのでグロくはない。
なんで鉱石の魔物なのに人狼姿なのかは知らない。
「ところで他のふたりは?」
「……まだ合流していない」
「そう」
ミネハさんはスピアーを腰に提げ、元の姿に戻ると僕の肩に座った。
そして僕達は歩き出す。
ふと僕は思い出した。
「あ、あの、帰還石ってありましたよね。ふたりとも持ってませんか」
「あれか。そうか。あったな……あれか」
「あれね」
ふたりの反応は何故か鈍い。
そしてこの感じから持ってないのは分かった。
「どうしたんですか」
僕の疑問にアクスさんが微苦笑気味に答える。
「確かに探索者としては持っておくべきレガシーだ。しかし高い」
「そうなのよね」
「ミネハでもそうなのか?」
「それはそうよ。あれを常備出来るのは第Ⅱ級ぐらいよ」
第Ⅲ級だけどパキラさん達は持っていたなぁ。
「消耗品でもレガシーだからな」
「ひとつぐらいは持っておきたいけどね」
「こういうとき有ったらと時々思う」
願望をぼやくアクスさん。
それは分かる。
「そうですか。持ってないんですね」
「ああ、すまんな。ところでウォフ。ひとついいか」
「なんです?」
「こんな事態だ。本来なら尋ねるのも失礼になるかも知れない」
「? 何を聞きたいんですか」
改まるほど勿体ぶることなんてあったかな。
不思議に思うとアクスさんは一拍して口を開いた。
「ウォフのレリックを教えて欲しい」
「あたしも知りたいわ」
「いいですよ。僕のレリックは【危機判別】です。色の点として危機を判別できます」
「それって索敵も出来るってこと?」
「そうですね」
「それは……探索者向きの良いレリックだな」
アクスさんは感心するように呟いた。
よく言われます。




