フォレストウェーブ・合間①・ハイゼン大森林。
ファーストウェーブが終わった。
ナベルさんが思わぬ強敵で死にそうになったが、それもなんとかなった。
セカンドウェーブがいつ始まるか分からない。
その間に準備して僕たちはハイゼン大森林に入る。
討伐の主なメンバーは僕ことウォフ。ビッドさん。ホッスさん。ガラドさん。
ナベルさん。パキラさん。リヴさん。ルピナスさん。
ただし、『トルクエタム』はクリスタルビースト狩りに専念し、既に先行している。
それと『キズモノ』討伐はゴウロ討伐隊とクーンハントが行い、既に分かれている。
途中まで一緒にいたが、クーンハントの連中は僕を腫物でも扱うように見ていた。
アラヤさんは事情を知っているのかクーンハントと僕を意図的に離していた。
「ここがハイゼン大森林……」
初めて入ると驚く。
まず木々が太い。普通の樹木の10倍以上は確実にある。
そしてそれがやや少しの隙間を空けて生えている。
「石みたいに固いっスね」
ビッドさんが木を軽く叩く。
響く音は重い。
「この空気。懐かしいだ」
ホッスさんはさっそく、木の下に生えている白いキノコを採取した。
「なんだ?」
「シロウマイダケだべ。切って鍋に入れたりするのがいいだ」
「食べられるんですか」
ナベルさんが興味深そうに尋ねる。
ホッスさんは頷き、別の木の下に生えている赤い扇形のキノコを採る。
「これも食べられるだ。こいつは鍋に入れるのが一番美味い。ただしその横の青いのは毒キノコだ」
「これが?」
僕は【危機判別】する。青く長いキノコは黒だ。うわあ。
「死にますねこれ」
「マジっスか」
「迂闊に採れねえな」
ガラドさんが苦笑する。
僕は【危機判別】があるから毒かそうじゃないかはわかる。
だけど普通はどれが毒キノコかなんてわからない。
前世の記憶でキノコ狩りをしたとき、籠ふたつほど満杯に採った。
だけど鑑定で食べられるのは、持って帰っていいのは、籠の半分ほどだった。
少し聞いたら食用に適していないのが殆どで、毒キノコはそんなに無かった。
もっとも毒キノコや猛毒は前もって間引いていたらしい。
それでもキノコの専門家でも見落としはある。
それほど難しいと教えてくれた。
ホッスさんも経験と知識で判別している。
彼の場合は確実に食べられるモノを数種だけ覚え、それ以外は無視していた。
だがそれでも判別できるだけでも凄い。
ただ笑い話だとホッスさんが話してくれたことがある。
何年か前。シビレキノコと見分けがつかなく食べたら三日三晩痺れたという。
それ笑い話なのかと絶句したことを今でも覚えている。
そのホッスさんは草むらに入り、いくつの野草を採る。
「これらも食べられるだ。鍋に入れるといいべ」
「単なる雑草にしか見えないんだがな」
「ハーブだ」
「鍋って雑肉スープですか」
「んだ」
「いいっスね。ウチもあれ好きっス」
「「雑肉スープ?」」
ナベルさんとガラドさんが小首をかしげる。
ああ、そうか。このふたりは食べたこと無いんだよな。
それなら今日食べて魔女が認めたその旨さに驚くといい。
ふと食事関係で気になった。
「ガラドさん。討伐者って大森林に深く潜ることあるんですよね」
「そうだな。よくあることだ」
「そのときの食事はどんなもの食べているんです?」
「大体は保存食だな」
「ハイゼンの保存食は優れているべ」
ホッスさんがキノコを採取しながら口を開く。
ナベルさんはそれを興味深く見ていた。
「種類も豊富だぞ。味も昔と比べると改善されてはきている。だがまだ美味いとはいえない。それと魔物も食べる」
「魔物ですか」
「そりゃそうっスよね」
「ハイゼン大森林でオレが好きなのはコウモリモドキだな」
周囲を見回し警戒するガラドさん。
【危機判別】でこの周辺に敵はいない。
「……モドキっスか?」
ビッドさんが小首を傾げる。
彼女も初耳みたいだ。
「コウモリに似ているがコウモリじゃない」
「それは魔物なんですか?」
「魔物だな。いちおう」
なんかあれだな。
陸ナマズみたいな匂いがしてきたぞ。
あれも魔物なのか動物なのかハッキリしていないんだよな。
陸ナマズといえばアレクサンダーさん元気かな。
「どんな味っスか」
「そうだな。鶏の腿肉に近い。それが全身だ」
「いいですね。それ」
鳥の胸肉はあまり好きじゃない。
どんなのか食べてみたいなと思ったら【危機判別】に赤い光点が表示される。
数は、多いな。視認もできた。
木々の隙間から真っ黒い……なんだあれ。鳥か? それが向かってくる。
鳥にしては大きい。
都会のカラスがあれぐらいだったかと思うが形状がちょっと違う。
「おっ、あれだ。コウモリモドキ」
「あれが……」
「来ていますね」
ナベルさんの言う通り、わき目もふらずこっちに向かってきていた。
赤い点。敵だ。襲い掛かってきている。
ビッドさんはコンポジッドボウ『キムクィ』を構えた。
「いくっスよ」
狙って放つ。
猛スピードで撃たれた一本の黒い矢がブレてブレて一気に増殖した。
【範囲射撃】―――撃ったモノが全て範囲射撃になる。だったか。
無数の矢はコウモリモドキの群れに大打撃を与える。
何匹か落下し、生き残ったコウモリモドキは散り散りになった。
「おお、やるなあ。嬢ちゃん」
ガラドさんが口笛を吹く。
「元々こういうのが得意だったっスからね」
ビッドさんは腰の剣に目をやって笑う。
そして彼女の後ろ腰には奇妙に折り畳まれた棒がベルトに差してある。
あれはハイゼンの隠れ家のごみ場で見つけた槍だ。
オーパーツで所持レリックがあり、ビッドさんは適合した。
コウモリモドキはまさしくコウモリモドキだった。
黒く太い。コウモリみたいな翼とでっぷりとした体。
ただし頭はカラスみたいだ。
そのなんとも言えないフォルムに僕は黙る。
「こいつはいい。太ったコウモリモドキべな」
ホッスさんがコウモリモドキを鷲掴みにする。
思わず僕は聞いた。
「どうするんです?」
「今日の昼に調理すんべ」
これを食べるのか。
いや食用にできることは知っている。
前世の記憶でよく読んでいた漫画がある。
それは洞窟で宝探しをしていた主人公たちが落盤で閉じ込められた。
主人公たちは必要最低限の道具と水は確保したが食料がない。
いや、あった。コウモリだ。
洞窟内にはコウモリの群れがあった。
コウモリは栄養価が高い。
主人公たちはコウモリを捕まえて調理して食べた。
そしてなんとか生き延びながら掘り進んで、外へ出られた。
これは最終巻で何度も読み返した。
だからコウモリは食べられるのは知っている。
いやこれはモドキか。どっちにしろ調理に興味がある。
「手伝いますよ」
「んだ。頼んべ」
するとボクもやりますとナベルさんが言った。
僕とホッスさんは了承する。
それを聞いたガラドさんがビッドさんに言った。
「嬢ちゃんは手伝わないのか」
「3人あれば充分っスよ」
「それもそうだな。オレたちは拾うとするか」
「そうっスね」
ガラドさんとビッドさんはコウモリモドキを拾い始めた。
それから僕たちは少し進んだところで休憩することにした。
調理の用意をしながら疑問に思う。
「静かですね」
「やっぱりウォフさんもそう思いますか」
同じ疑問をナベルさんも感じていたようだ。
言われるとビッドさんも気付く。
「妙っスね」
フォレストウェーブのファストウェーブが終わった。
今は次のセカンドウェーブとの合間だ。
つまりセカンドウェーブの準備中ともいえる。
だがハイゼン大森林は不気味なほど静寂していた。
「まぁ不思議に感じるのはわかる。セカンドウェーブがいつ起きるか分からないにしても、魔物が溢れ出す此処が今もこんなにも静かなのは奇妙だ。そいつはフォレストウェーブの不思議のひとつだった。だがセカンドウェーブが始まると突然この大森林は魔物で埋め尽くされる。セカンドがいつ起きるか分からない。だから大森林にある討伐村に留まることは出来ない。だが、ここがダンジョンだったら、フォレストウェーブがEVENTだったら、今はなんとなく理解できる」
「どうしてです?」
「フォレストウェーブの魔物はEVENTの為にダンジョンで生み出されるからだ。だから今はどこかで生成しているんだろう。それがどこかはわからない。この木の中からいきなり現れるかもな」
笑ってガラドさんは側の木を軽く叩く。
なるほど。準備ができたら地面から木から魔物が現れるのかもしれない。
ホッスさんを手伝って昼食ができた。
コウモリモドキのスープと黒パン豆だ。
「あっ、鶏肉だ」
それも懐かしい地鶏の味だ。
肉団子にしてゴロゴロとスープに入っている。
コウモリモドキの黒い皮はコラーゲンたっぷりなので肉団子は真っ黒になっていた。
他にもキノコとハーブも盛り沢山だ。
「贅沢だな……」
ガラドさんがスープを飲んでぼそっと言った。
ビッドさんとナベルさんがそれに頷き、ホッスさんが不思議そうに尋ねた。
「なんだべ。ジンリュウ家は粗末なんか」
「そうじゃない。討伐者の嗜みってもんがある。わざわざシェフを連れて討伐なんてできない。見た目にもみっともない」
「んだ。そうだべ」
「でもコウモリモドキを調理して食べているんですよね」
「こんなちゃんとしたやつじゃない。軽く捌いて丸焼きだ」
「味付けはしないっスか」
「塩ぐらいはまあ」
豪快だけど、それが討伐者なんだろう。
「夜はから揚げにするべ」
ホッスさんがどこか上機嫌に呟いた。




