フォレストウェーブ・ファースト⑤・ブルーグリーンクリスタル。
宇宙へと魂が旅立ってしまった『トルクエタム』。
これに対してビッドさんとホッスさんが呆れたように僕を見る。
「ウォフ。やりすぎだべ」
「ちょっとこれはないっスね」
「ごめんなさい」
畳み掛け過ぎてしまった。
実はもうふたつほどあるんだけど、これは彼女達が戻ってきたときでいいか。
『トルクエタム』が宇宙の彼方から戻って来れたのは数分後だった。
「……おぬしのう」
「あれはないですわ。あれはないですわ!」
「ん……やっていいこと……悪いことがある……」
「すみませんでした」
怒る彼女たちに土下座して謝る。
本当にもうしわけない。
パキラさんは嘆息して、テーブルの上に置いた青く緑色に光る水晶の塊を見る。
手に取って近くで観察して置く。
ルピナスさんもリヴさんも似たようなことをする。
「ブルーグリーンクリスタルじゃな」
「ブルーグリーンクリスタルですわ」
「ブルーグリーンクリスタル……だ」
ブルーグリーンクリスタルである。
「これはいったいどこで手に入れたのじゃ」
「フルムーンバザーですの? いいえ。でも並大抵の金額ではてに入りませんわ」
「ん……まさかの掘り出し物……」
「それは魚からっスね」
ビッドさんは苦笑いだった。
「なんじゃと」
「?」
「えっと、第Ⅰ級探索者のギムネマさんから謝礼としてもらいました」
「ガチの……魚だった……」
「あの魚頭のですの」
「何故にあやつがこれを持っておったのじゃ?」
「さすがにそこまでは知らないです」
「ふむ。魚でも第Ⅰ級というわけかのう」
「意外過ぎる入手方法ですわ……ええ、本当に」
「それと、こちらルピナスさんへ」
僕は黒い板のようなモノを出してルピナスさんへ差し出す。
「なんですの?」
「ハイヤーンから預かったレリックプレートです」
「レリックプレート……じゃと?」
「はい。使用すればレリック【バトルクライ】が手に入ります」
ルピナスさんはレリックプレートを手にする。
「それがレリックプレートっスか」
「見るのはあんとき以来だべ」
そうか。ホッスさんは見ているんだな。
「……【バトルクライ】ですの」
「どういうレリックなんじゃ?」
「それは皆さんが集めた叫びのサンプルからつくられています」
そう聞いてルピナスさんはハッとする。
「思い出しましたわ。確か挑発して敵の敵意を集めるレリックでしたわね。タンクの必須レリック」
「そういえばあったのう。サンプル集め」
「声を集めるやつっスね」
「ん……ルピナスの叫び……」
「それは忘れてくださいですわ!」
【バトルクライ】―――色々な魔物の叫びサンプルからラボで作られたレリックだ。
あれはハイゼン出発前日。
ハイヤーンからルピナスさんに渡すよう頼まれた。
思い出す。『ルピナス嬢のあられもない叫びがこれで聴ける』とのたまうウサギ。
とりあえず吊るしておいた。
「ありがたく頂戴しますわ。では早速、『使用する』」
いきなりレリックプレートが消える。
「あっ、魂の器は」
「大丈夫ですわ。わたくし。自分の魂の器の容量は把握しておりますの。これが【バトルクライ】……なるほどですわ」
「どうじゃ。使えそうか?」
「試してみる価値はありますわね」
「……さて問題はこれじゃな。買い取れるかどうか」
ブルーグリーンクリスタルを見つめる3人。
「……相場はどれくらいかまず調べるところからですわ」
なんか買い取る方向になっている。
個人的には色々とお世話になっているし、親しき仲なのでタダで渡してもいい。
だけどたぶんそれやったら皆から怒られる感じがする。
親しき仲にも礼儀ありだ。
かといってお金というのはなあ。あっ、そうだ。
「それなんですけど、他の水晶あります?」
「他というと、レッド。ブルー。グリーン。ブルーレッドやレッドグリーンかのう」
「ありますか。実はレッドとブルーレッドとレッドグリーンが必要なんです」
物々交換。この三つの水晶はどうしても欲しい。
3人は顔を見合わせてポーチを覗いて話し合う。
「わらわはレッドが3つでブルーレッドは2つでレッドグリーンは1つじゃな」
「わたくしは、レッドが2つでブルーレッドは1つでレッドグリーンは4つですわ」
「ん……フッ……リヴは……ゼロや」
なんでドヤ顔。
「リヴ。少しは残しておけというたじゃろうか」
「宵越しの銭は持たないと死にますわよ」
「なんでゼロなんじゃ。結構持っておったろう」
「ん……使えば……無くなる……真理なり」
「じゃから計画性を持てとあれほど言ったじゃろう」
「小遣い制度を復活させますわ」
「……がーん……」
リヴさんは項垂れる。
「金使い荒いのは相変わらずっスね」
「なんともいえないべ」
「それでそのある分だけで物々交換してくれますか」
「こんな数と交換じゃと?」
「割りに合っていませんわ」
「ん……等価交換に……なっていない……」
「ちょっとそれは無いっスね」
フルボッコだ。
「んだば、だども価値は人それぞれだ」
「ホッスさん」
助けだ。ありがてえ。
「ウォフがそれだけでもいいと言うなら、それでいいんとオラは思うべ。それでも納得いかなかったら、前金としてそれだけ受け取ればいいだべ」
「……ふむ」
「一理あるっスね」
空気が変わった。ありがとうホッスさん。
ルピナスさんが尋ねる。
「ちなみに何に使いますの?」
「それは、制約レリックの使用条件なんです」
「制約———じゃと、持っておるのか」
「はい。あります」
制約レリック【ディメーションクラック】。
効果:時空間を振動させて刻むことが出来る。
使用条件:
【ビブラシオン】
『レッドクリスタル』
『ブルーレッドクリスタル』
『レッドグリーンクリスタル』
使用回数:6回。
クリスタル類は使用1回でひとつずつ消費する。
使い果たせば【ディメーションクラック】は消える。
この使用制限があるから迂闊に使えないんだよな。
しかも使用1回でクリスタルそれぞれひとつずつ。
つまり1回でクリスタル3つは消費されることになる。
燃費悪いな。それだけの威力ってことか。
今回のダンジョンの異変への切り札になるのは間違いない。
でも蜘蛛か。蜘蛛は群れだからなあ。
一度だけ蜘蛛で酷い目にあったことがある。
「クリスタル消費で使えるなんて、驚きましたわね」
「ちなみにクリスタルは大森林で採掘するんですか」
「いいや、魔物じゃ。クリスタルをドロップする魔物がいくつかおる。レッド。ブルー。グリーンならば、土妖の戦士を狩ればよい」
「ブルーレッドやレッドグリーンはクリスタルビーストですわ。クリスタルで出来た獣で、狼。鹿。猪。牛。熊等ですわ。ただし何が出るかはランダムですの」
ガチャか。
なんでクリスタル系はガチャなんだ。
「例外なのはブルーグリーンクリスタルじゃ。これはハイクリスタルガチャロックタートルからしか採取できぬ。しかも確率はとんでもなく低い」
「ん……抽出率……絞りすぎ……」
「狩ってかなり経つのにまだ一度も出ていないんですの」
「それにとても硬くてのう。わらわの制約レリックが無ければ仕留められぬ」
それってあのMAP兵器。
「そんなに硬いっスか!」
というかあのMAP兵器を森の中で使って大丈夫なのか。
「ハイクリスタルガチャロックタートル……懐かしいべ」
ホッスさんがしみじみと頷く。
ガチャの経験あるんだろうな。
「というわけで交換して欲しいんですが」
「じゃがのう。これっぽっちで交換というのはさすがにのう」
「そうですわね」
「実はですね。18個、欲しいです。3つのクリスタルで6個ずつ」
ちょうど使い切る個数。
ルピナスさんが落胆する。
「圧倒的に足りませんわ」
「ならばフォレストウェーブで稼ぐとするかのう」
「ん……クリスタルビースト……狩り……じゃあ」
「だども、ファーストだとクリスタルビーストは出ねえべ」
「そうなんですか」
「ファーストはゴブリンやオークなどだ」
「じゃあセカンドっスか」
「そうなるだ」
どっちにしろそうなるのか。
『トルクエタム』は狩る気満々だ。
「あっ、最後にひとつ言い忘れてました」
「なんじゃ。まだあるのか」
「なんですの」
「ん……覚悟……完了」
「実はハイヤーンの元ボディが見つかりました」
言い忘れるところだった。
すると3人は僕を見たまま止まる。
「……ふむ?」
「元ボディですの」
「ん……マイ……ボディ……?」
反応がとても薄い。
なんかこう思いっきりスベったみたいになる。
おのれウサギ。




