モーリュ草⑤
急にぽっかりひらけた場所に着いた。
洞窟はこういう空間がよくある。
「……少年……」
「はい。なんですか?」
「……休憩する……から」
リヴさんはそう言うと見まわし、腰掛けしやすそうな石の上に座った。
こういうのも洞窟によくある。
腰から何か取り出す。あれは、干し肉だ。
「……」
「……少年も……食べる……」
僕が見ていたのが気になったのか。
リヴさんは嚙み千切って、手に持っていた方を渡した。
「あっいや、僕は」
「……いらない……の」
「だいじょうぶです」
「……そう……ん」
リヴさんは差し出した干し肉を食べ、水筒で喉を潤す。
僕も水を飲んだ。腹は減っていない。
リヴさんは干し肉を食べ終わると水筒で口の中を濯いだ。
干し肉はわざと塩辛くしてあるのが多い。
保存食は色々あるがどれも味は考慮していない。
最低限で食べられればいい。
「どうしました?」
リヴさんは何故か悲しそうに俯いている。
「……リヴ……まだお腹すいてる……」
「えっ、じゃあ僕の干し肉食べますか」
「……いいの……」
「どうぞ」
僕はポーチから羊皮紙の包みを渡した。
リヴさんは手にして包みを開く。
「……色がきれい……」
「そ、そうですか」
リヴさんは干し肉を握って噛んだ。
ワイルドだな。
「……お……おいしい……!」
赤い目を輝かせた。
始めてみせる表情にドキっとした。
「よ、よかったです」
僕の干し肉は塩加減がしっかりしてある。
リヴさんはしっかり噛んで噛んで水を飲んで噛む。
「……と……とっても美味しい……ぃ……」
ごくんっとあっという間に食べ終わる。
それなりの大きさの肉の塊だったんだけど。
「……健啖家ですね」
「……けんたん……」
「えっと、味が合っていて嬉しいです」
「……少年。ありがと……どこで買ったの……?」
「肉は買いましたけど、干し肉は僕がつくりました」
「……少年が……」
「はい」
僕の前世の知識は大したことない。
でも全部が役に立たないというわけじゃない。
趣味で一時期嵌っていた燻製の知識。
全部じゃないし断片的だけど、まあまあ役に立った。
もちろん。沢山失敗した。
諦めようとも思った。
この世界の食べ物は料理として美味しいモノが結構ある。
それでも届かない味も沢山ある。
干し肉もそうだ。
前世の味の記憶に少しでも近づきたい。
そうして、それなりの干し肉が出来た。
「…………」
「? どうかしました?」
なんかジッと見られている。
すると彼女はブルっとちいさく震えた。
「……ん。トイレ……いく」
「あっ、は、はいっ」
リヴさんは立ち上がると光球はそのままで暗闇へ。
少し待つと戻ってきた。
「……休憩終わり……」
「は、はい」
「……行こう」
あれからどのくらい経ったのだろう。
少なくともゴブリンは30匹以上は倒した。
おそらくここが洞窟の最下層。
自然の洞窟だから扉なんて無い。
だがなんとなく空気と雰囲気から、ここが最下層の最深部だと感じた。
「広いですね」
「……うん」
そこはドーム型の大きな空間だった。
周囲に樽と木箱が転がって、奥にゴブリンが居た。
それは普通のより大きなゴブリンだった。
真っ黒い瞳が不気味だ。
「……ホブゴブリン……」
「あれが」
この巣のボスか。
僕はレリック【危機判別】を使う。
ホブゴブリンは真っ赤。危険だけど黒じゃない。
刃が大きく欠けた分厚いサーベルを手にしている。
牛刀より太く大きい。血塗れで鉄錆びが浮いている。
「……少年。下がってて……」
「は、はい。わかりました」
ここは素直に従う。
僕が後退するとリヴさんは黒いブレードを翻した。
同時にホブゴブリンがサーベルを構えると不自然に風が吹いた。
「属性の……レリック……」
風のレリックか。
ホブゴブリンのサーベルに荒々しく風が纏う。
レリック持ちの魔物―――仕掛けたのはリヴさんだ。
スッと素早く接近してブレードを斜め横から振るう。
ホブゴブリンはサーベルで受け止めて突風を放つ。
回避するようにリヴさんは下がった。
「……宙の型……昴……マイアブレード……」
ブレードが赤く光り、リヴさんは駆けた。
ホブゴブリンはサーベルを振り回して無数の風の刃を飛ばす。
リヴさんは巧みにブレードで風の刃を切って、ホブゴプリンに迫る。
そしてブレードでホブゴブリンを斬った。
いや違う。サーベルの風圧で防がれた。
あのサーベル。何か変だ。
「……まさかオーパーツ……」
ホブゴブリンがオーパーツを……扱えたのか。
ホブゴブリンは低く唸るとサーベルを中心に風の渦を生み出す。
粗末で荒いが小さな竜巻だ。
リヴさんは石を拾って投げた。
その石はサーベルのミニ竜巻で巻き込まれて切り刻まれ粉になる。
こいつは強敵だ。




