モーリュ草⑥
思わず息を飲む。
「まるで粉砕機だ」
「……少年。危ない……もっと下がって……」
「は、はい。ごめんなさいっ」
言われた通りにもっと下がる。
ホブゴブリンのサーベルのミニ竜巻から風の刃が唸る。
周辺に吹き荒れてとても危険だ。
現にこっちに弾かれた石が飛んできた。
【バニッシュ】で消す。
あれだと迂闊に近付けない。
生半可な攻撃も効かないだろう。
リヴさんはどうするつもりだ。
「……宙の型……昴……ケライノブレード!」
ブレードが黄色く光り、リヴさんはブレードを無造作に投げた。
えっ、あれだとブレードは……案の定、ミニ竜巻にあっけなく弾かれる。
ホブゴブリンは嗤う。
なんでそんなことを―――ブレードは高々と宙を舞いピタっと止まった。
止まった? そして空中で弧を描いて垂直に落ちる。
竜巻の真上は無防備だと気付かないホブゴブリンを頭上から突き刺し―――弾かれた。
「……あっ……」
「リヴさんっ!」
ホブゴブリンのミニ竜巻が油断した彼女を襲う。
大きく弾かれ、鋭い岩壁に激突して倒れた。
「リヴさんっっ!?」
ホブゴブリンは嗤う。
僕はリヴさんに無我夢中で近寄った。
「……よかった。気絶しているだけだ」
装備が桁違いだったからこそ無事だった。
リヴさんの狙いは良かった。でもそれすらホブゴブリンは読んでいた。
ホブゴブリンはサーベルに風を纏わせる。
どこか勝ち誇った邪悪な笑みを浮かべていた。
「なにが面白いんだ」
僕は問う。静かに怒る。
ホブゴブリンは嘲笑って僕にサーベルを向けた。
小さな竜巻がいくつも発生する。
力を見せつけているのは理解した。
まだこれだけの力を持っていると勝者、いや王者の気でいる。
力? レリックはおまえの力じゃない。
そうか。そんなにレリックを力としたいなら、それなら見せてやろう。
僕は第四のレリック【■■■■】を使用する。
髪と瞳が紫になる。
『!?』
ホブゴブリンが驚愕する。
そして発生させた小さな竜巻全てを僕に向かわせた。
だが全て無駄だ。
「終わりだ」
僕は手をかざして第五のレリック【ファンタスマゴリア】を起動した。
無数の【バニッシュ】が現れて小さな竜巻とホブゴブリンを消していく。
悲鳴もなく淡々と消去された。
虚しくカランっと落ちるサーベル。その後に残るのは静寂だけだ。
僕は嘆息する。
「これが力と言うのか。馬鹿馬鹿しい」
第四のレリックを解除する。瞳も髪も元通りだ。
僕はリヴさんの元へ。ふとブレードは戻っていた。
オートモードかな。
僕はリヴさんが起きるまで待った。
「……少年……」
「はい。大丈夫ですか?」
「……無事……」
「僕はなんともないです」
「……よかった……」
ふっと淡く笑うと立ち上がった。
「リヴさん。起きて平気ですか」
「……リヴはどうして……」
「竜巻で吹き飛ばされたんです」
それは事実だ。リヴさんはゆっくりと見回す。
「……ホブ……ゴブリンは……」
「リヴさんの攻撃後、竜巻でバラバラになってしまいました」
「……………」
リヴさんは無言でサーベルを手にする。
「それ、どうするんですか」
「……オーパーツだから……持って帰る。少年は……用事……は……」
「あっ、えっと」
洞窟はリヴさんに頼んでくまなく回った。
後はここしかない。
僕は必死に見回して探して、モーリュ草……あった!
ホブゴブリンの後ろの隅っこにモーリュ草は生えていた。
「……少年……」
「ありました。これです!」
一応イラストと照らし合わせて確認する。
間違いない。しかしイラストのときも思った。
こうまで実物が前世のあの植物と似通っているなんて。
「……それが探し物……」
「は、はい。チューリップです。違った。モーリュ草です」
つい、間違える。
モーリュ草は真っ赤なチューリップそっくりだった。
そのものといっていいくらいに似ている。
ただし中身は全くの別物だろう。
それにしても……本当にチューリップだ。
なんだか懐かしくなる。
前世の記憶。小学生の頃。
夏休みの宿題でチューリップの観察日記が必ずあった。
でも途中で忘れて、気付いたときには枯らしてしまった。
苦い思い出だ。
それ以来、チューリップをあまり見ていない。
まさか転生先でチューリップみたいなのに出会うとはビックリだ。
「……少年。よかった……ね」
「は、はい」
僕はモーリュ草を五つ採取した。
「あ……少年。横……」
「えっ、うわあっっ!?」
モーリュ草の横にボロボロの鎧装束の死体が座り込んでいた。
完全に白骨化している。
「……この鞘……」
リヴさんが大胆にも死体が身に着けている革の鞘を手にする。
サーベルがぴったりと収まった。
「サーベルの持ち主ですか」
「……たぶん……そう……」
動かしたせいか死体は横になると途端に崩れて風化した。
ボロボロの鎧と衣服だけが残る。
僕はなんとなく拝んだ。
ナムアミダブツ。どうか安らかに。
「……なにをしている……の……」
「ちょっとお祈りを」
「……祈り……あっ」
リヴさんは骨粉の中から何か取り出す。
骨の中に躊躇わず指を入れられるところが凄い。
「それは?」
「……タグ……探索者証……光って……見えたから……」
「このひと。探索者なんですね」
「……うん……第Ⅳ級……」
「エンブレム。どうするんですか」
「……ギルドに届ける……そういうのがある……形見だか……ら……」
「へえー……」
ふと僕も探索者になってどこかで野垂れ死んだら。
誰かが形見としてタグをギルドに持っていってくれるのだろうか。
もっとも探索者になる前に死ぬこともある。
明日なにが起きて死んでもおかしくない。
この死体は明日の僕かも知れない。
「……少年。帰ろう……」
「はい」
僕達は洞窟を出た。




