滅剣③
次の日。
いつものようにダンジョン入り口で300オーロを払う。
すると門番のガウロさんにこう言われた。
「ウォフ。3日後。このダンジョンが閉鎖される」
「……そうですか」
近々そうなるだろうなと思った。
地震が起きてアガロさんは異変を討伐する為に来た。
その間に何が起きるか分からない。
安全処置としてしばらくダンジョンは閉鎖される。
ガウロさんはため息をつく。
「すまんな」
「いえ、しょうがないですよ」
ゴミ場へ向かう。僕が来れるのは今日だけだ。
せめて何か良いモノを見つけたいと思う。
「……うわぁ……」
思わず呻いた。ゴミ場は地震で大きく様変わりしていた。
ゴミ山の殆どが崩れて歩ける場所が見当たらない。
レリック【危機判別】でも白い安全地帯は……僅かばかり。
「……赤ばっかだな……」
前は無かったのに所々黒もある。
子供の姿は相変わらず多い。
「……おおっ」
レリック【フォーチュンの輪】を使うと、緑の光が沢山だ。
しかも黄色も予想以上にあるじゃないか。でも青はない。
しかしそれ以上に危険だらけだ。
どうにか白くて緑と黄色の光があるところはないか。
「いてっ!」
「おい。大丈夫か」
「少し切っただけだ」
「なあ、もう帰ろう。怪我ばかりで何も見つからねえ」
「そうだな」
トボトボと男の子三人組が帰っていく。
その背後に男の子ふたりが漁りながら話す。
このふたり。
前に見た事があるな。
「なあ3日後からどうする」
「クーンハントが住み込みで募集しているの知ってるか?」
「あー、なんか聞いたな」
「閉鎖解除までそっちで雇い仔やろうかなって思っている。賃金もいい」
「でもクーンハントだぞ。色々黒い噂がある」
「だから嫌なことがあったらすぐやめるよ」
「なら俺もやってみるかな。馬の世話より稼げるだろ」
住み込みで雇い仔……か。
前世の記憶でそういうの確か『囲い込み』とか言っていたな。
クーンハント。
完全にブラック企業ムーブだな。
おっ、この辺がいいな。
白いポイントの安全地帯で緑と黄色の光が近くにある。
「これが邪魔だな」
廃れた革鎧。その継ぎ目を切断する。
僕はナイフを握った。
大奮発して4万オーロで買ったナイフだ。
前のナイフと似たようなカタチが気に入ったところかな。
「うおおおぉっっ!?」
「す、すげえっ」
「やったねえ、にいちゃん!」
「宝だ……マジの……お宝だ」
なんだ?
騒ぎ声がしたほうを見ると、崩れたゴミ山の中腹。
四人ぐらいが集まって喜んでいる。僕より小さい子ばかりか。
その中心にはチラッとだけ見えたが豪奢な宝箱があった。
金に光り輝いて赤や青などの宝石が散りばめられている。
「……?」
僕は違和感を覚えた。
あれだけの宝箱なのにあの辺では何の光も無かった。
「よ、よし。開けるぞ」
「慎重にな」
「お金持ち! お金持ち!」
「にいちゃん。オレ肉を沢山食べたい」
「ああ、腹がはち切れるまで食えるぞ」
「やったあー」
それじゃあレリック【危機判別】だと。
「!?」
真っ黒だ。あの宝箱は!
「ぎゃああああぁぁぁっっっっ」
「こいつは、ぐああぁっっ」
「にいちゃんっ、うああぁぁぁっっっ」
「た、たすけ」
ゴミ場がざわっとする。
宝箱から血と肉片が飛び散る。
宝箱は咀嚼する。四人は喰われた。
豪奢な宝箱の蓋から箱の端までビッシリと歯が生えていた。
人間の歯そっくりで二重になっている。
気持ち悪い。なんで人の歯ってこんなに怖いんだろう。
「ミミックだあぁっっ!」
誰かが叫ぶとゴミ場が騒然とした。
叫んで騒いで逃げ惑う。
ミミック。
宝箱に擬態したダンジョンの魔物だ。
人を襲い捕食するように見えるが実際はどうなのか分からない。
またミミックにはふたつのタイプがある。
設置型と移動型だ。
「なんでゴミ場に魔物がいるんだよっ!」
「た、立ち上がったぞ!」
「よりにもよって移動型かよっっ!」
「お、おい。なんか地面が動いて」
周辺からゴミに埋もれたミミックたちが這い出てくる。
宝箱に手足が何本も生えて動き出す。
「うおっ、ミミック!?」
「他にもいるのか!」
「逃げろおおおっっ!」
「ぐああぁあっっっっっ」
「ぎぃやああああっっっっ」
「や、やめて来ないで、ああああああぁぁぁっっっっ」
「うわっ、うわっ、うわああああああぁぁぁぁっっ」
阿鼻叫喚だ。
ミミックは様々なタイプがあるが一番弱くても銅等級の中位だ。
第V級の探索者がソロでも倒せない魔物。
もちろん子供が勝てる相手じゃない。
それが複数もいる。
僕もそろそろ逃げないと。
「おねえちゃんっ……おねえちゃんどこ……っ! おねえちゃん……!」
小さい子が泣いている。幼女だ。姉と別れたのか。
あんなにわんわん泣いたら、やっぱりミミックが幼女の元に来た。
「おねえちゃああぁっっ」
ミミックが大きく宝箱の蓋もとい口を開ける。
そして大泣きする幼女を食おうと―――それを黙って見ているはずがない。
僕はミミックを【バニッシュ】で削る。
バスケットボールぐらいにして弧を描きミミックの大半を消す。
「おねえちゃん……?」
幼女はきょとんとした。
僕はぎこちなくも微笑む。
「違うけど、ここから出た方がいいよ。ここは危険だからね」
「……う、うん。でもおねえちゃんが」
そのとき、ゴミ山が盛大に吹っ飛んだ。
かなり大きな宝箱が姿をみせる。
ミミックだ。
それにしては大き過ぎないか。
「こんなのまで居たのか」
「おう。おう。こいつは、どうなってやがんだ」
聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
振り向くと見覚えのある酔っぱらいが居た。
アガロさんだ。
徳利片手に見上げている。




