滅剣②
ついでだ。奢ってやるよと言われて僕は街の酒場に連れて来られた。
酒場の名は『シードル亭』で名物はシードルだ。
シードルは林檎酒。
前世だと、少し飲んだことがある。
もっともよく飲まれているのはエールらしい。
それも店主がレリック【凍結】持ちなので冷えたエールが大人気だ。
ここは僕もたまに通っている。
目当ては酒ではなく定食だ。米はこの世界にもあった。
僕は似たような食べ方をしている。
ただ日本の米というより細長でパサパサしててタイ米とかに近い。
それでも米はありがたい。
ちなみにバターライスがうまい。
この大陸は肥沃な大地だ。
牛乳もバターもチーズも塩も胡椒も砂糖も豊富で庶民が買える。
スパイスもあるし、タバスコやラー油に似たモノもある。
肉も魚も稲も麦もあって醤油も魚醤がある。
ただし味噌は未だ見たことが無い。
昼間なのに相変わらず騒がしいほど店内は人でいっぱいだ。
その殆どが探索者だ。
「おぉぉっ、こいつはいい。冷えてるのはやっぱうめえな」
上機嫌にアガロさんは冷えたエールの特大ジョッキを飲み干した。
これで3杯目だ。よく飲むなあ。
「……」
「なにしてんだ。ウォフ。ほら食え。遠慮いらねえ」
「……は、はい」
僕の目の前には丸いテーブルを覆うぐらいの肉、肉、肉の料理が並んでいる。
それとエール。
いや食べるけど、ちょっと量が多い。
アガロさんはさっきから飲んでばかりだ。
「そこのネエちゃん。おかわりだっ」
「は、はい。ただいま」
「まだ飲むんですか?」
「おう。飲めるだけ飲む。それが男だ」
「はあ……」
呆れつつウインナーを食べる。
うまい。
「おいおい。なんだ。アガロ。てめえよ。帰ってくるなら手紙でも寄こせよ」
「よう。バーンズ」
エールを持ってきたのは店主バーンズさんだ。
ドワーフで特大ジョッキをドンっと置く。
「バーンズさん。このひと。知っているんですか」
「ウォフ。なんだ知らねえのか? てっきり知ってるから一緒だと思ったぞ」
「どういう意味ですか」
「こいつは、アガロは」
そのとき、バンっとシードル亭のドアが勢いよく開いた。
なんだなんだっとほぼ全員の視線が集中する。
アガロさんは気にせずエールをゴクゴクっと飲む。
ホントうまそうに飲むんだよなあこのひと。
ドア付近にいたのはアリファさんだ。
アリファさんがドアを力強く開けたんだろう。
なんだろう。周囲を見回し、僕達に気付く。
そして近付いてくる。アガロさんの後ろに立った。
「お? どうした。ウォフ。食え食え」
「いやあの後ろ」
「あ? うしろって…………ゲっ」
アガロさんが振り向いたまま固まった。
「なにしてんだおまえ」
「……よ、よう。姉貴」
「姉貴!?」
僕は思わず吠えた。
アリファさんが僕に気がつく。
「おや、ウォフじゃないか。なんで愚弟と一緒にいるの」
「えっ、うそ。姉弟?」
言われると赤髪でフォーンで、いやそれだけだと分からないぞ。
他のフォーンに会ったことないから赤髪がデフォだと思っていた。
「なんだ。姉貴と知り合いなのか?」
「うちのお得意様だね」
「へぇー、そいつはすげえな」
「すごい?」
「姉貴のお得意様っていうのは名誉なんだぜ」
「それはいいとして、あんた。帰ってくるなら手紙のひとつでも寄越しなさい」
「それバーンズにも言われたぞ」
「いや普通は送りますよ。手紙」
アリファさんは僕たちのテーブルの空いている席に座った。
「バーンズ。アタシにもエールの特大ふたつ」
「あいよ。あとドアは静かに開けてくれ」
「ごめんよ。壊れていたらこの愚弟が払うから」
「ちょっ、姉貴」
「それになんだい。この肉料理ばっかり」
アリファさんはテーブルの料理を見て溜息をつく。
アガロさんはエールを飲んで。
「ウォフに腹いっぱい食べさせてやろうと思ってな」
「……僕の為ですか」
てっきり酒の肴とばかり。
「あんま肉食ってないだろ」
「えーと……」
「昔のあんたじゃないんだ。この子はしっかりやっているよ」
「そうなのか。まあ、姉貴のお得意様ならそうか」
「でも僕の為っていうのは嬉しいです」
僕は大体、察した。アガロさんは食べられなくて貧しい経験をしたんだろう。
だから僕の為に。アガロさんはエールを飲み干す。
「ウォフ。食えるだけ食え」
「はい。あのバターライス頼んでいいですか」
「いいぞ。遠慮するな」
「ウォフ。好きなの好きなだけ頼みな。この馬鹿、これでも金はあるから」
「そうなんですか」
「そうだよ。なにせ、この愚弟。第Ⅱ級探索者で『滅剣』なんて呼ばれているんだよ」
「えっ……第Ⅱ級……!?」
しかも『滅剣』って、聞いたことがある。
ここから遥か北にあるダンジョンの最深部。
底に潜んでいたドラゴンをたったひとりで倒した。
それがドラゴンスレイヤー『滅剣』。
その功績をもって第Ⅱ級探索者になったという。
「その『滅剣』っていう呼び名。恥ずかしいんだけどな」
「それであんた。何しに帰ってきたの」
頼んだエールの特大ジョッキを手にしてアリファさんは尋ねる。
「あ? 異変討伐だよ。異変が続いてトルクなんとかの第Ⅲ級もやられて、さすがにこれは放置できねえ。だから近場の第Ⅱ級のオレに指名依頼が来たんだよ。めんどくせえけど、やらねえとな」
「そういえばトルクエタムがダンジョン調査していたね」
異変か。
確かに地震もこれで二度目だ。
ダンジョンで地震が起きるのは滅多に無い現象だとか。
それが数か月で二度も起きるのは異常だ。
「異変ですか?」
「ああ、こういうのは大抵は魔物の仕業だ」
「地震が魔物のしわざですか」
「そいつはレリックだな。知っていると思うが等級の魔物はレリックを使う。銅や銀は大したこと
ないが、金や宝石は脅威だ」
「さすがドラゴンなんて倒したヤツの言葉だね」
「ちゃかすなよ姉貴」
アリファさんは特大ジョッキを空にする。
えっ、これで2杯目? ペース早っ!
「おや空になったね。おーい。そこのオネさん。エール特大3杯追加っ」
「オレもだ。特大4つくれ」
「は、はい。ただいまっ」
さすが姉弟。
てかどこまで飲むんだこのふたり。




