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 北門を出ると街道に沿って草原となだらかな丘陵が続いている。


 最初のちょっとした上り坂を登り切ってその先を見渡すと、青い円が土煙を巻き上げながら動いているのが見えた。


 ブルーバッファローは獰猛だが狡猾。獲物を見つけた際は一気に襲い掛かるのではなく、群れで獲物を囲い、確実に弱らせてから仕留める。


 つまり、あの円の中心には誰かがいるはずだ。


 そして、介入しなければその人はこのまま獲物としてブルーバッファローに狩られる。


 まぁ彼らは草食の魔物なので死体は蹴り飛ばされてグチャグチャになるくらいだろうけど。


 俺は駆け足でブルーバッファローの円の方へと向かった。


 ◆


 目の前ではズドドドドドと大きな音を立ててブルーバッファローが走り回っている。ざっと数えた感じだと50頭くらいの群れだろうか。


 その円の真ん中に行きたいのだけど、同じ方向に動き回っているブルーバッファローを飛び越える事は出来ないし、合間を縫おうとしたら彼らの角ですりつぶされるだろう。


 つまり、動きを止めるしかない。


 雷魔法で一気に気を失わせるのが手っ取り早いだろうか。


 真ん中にいる人に当てないよう、上手い事魔法の発動後の形をイメージしながら手を突き出す。


 ドン! という衝撃と共に雷が手元でバチバチと弾け始めた。


 音は小さいし、明るいので雷はほとんど見えない。


 その細々とした閃光は一体のブルーバッファローに当たるや否や、一気に拡散。慣性に従って一瞬だけ前に進みながら一気にブルーバッファローの群れが倒れた。


 その中心では、泣きながらうずくまっている黒髪の女の子がいた。


 彼女がゼっちゃんらしい。


 気を失っているブルーバッファローの合間を縫ってゼっちゃんの元へ行く。


 ゼっちゃんは泣き腫らした切れ長の目をこすりながら俺の方を向く。


 パッツンの黒い前髪と相まってオリエンタルな雰囲気のある人だ。歳は俺と同じくらいだろうけど、東方系の人は若く見えると聞いた事があるので実は俺よりも上だったりするかもしれない。


 東方風の服はキモノと呼ぶのだったか。そんな服装をして腰に刀を携えている。


「君がゼっちゃん? ギルドのノイヤーさんに頼まれて助けに来たんだ」


 ゼっちゃんに向かって手を差し伸べる。だが、その手は虚しくも振り払われた。


「その名で気やすく呼ぶな」


 ノイヤーさん、俺の事騙した? ゼツさん、めっちゃ気難しそうなんですけど!?


「ご、ごめんなさい……ゼツ・エンさんですか?」


 改めて確認。


「いかにも。貴公は……」


「俺はヨウム。『テクノス』ってパーティを知ってますか? そこのメンバーでした」


「なっ……あのテクノスの!? しかし、でした、とはどういう事だ?」


「まぁ細かい話は後程……このブルーバッファロー、全部倒しちゃっていいんですか?」


「あ……あぁ。構わないぞ」


「了解です」


 何頭かのブルーバッファローが意識を取り戻し始めている。弱い電気ショックだったので仕方ないだろう。次は苦しめないように一瞬だ。


 今いる場所を中心に円を描くように雷を展開。


 ブルーバッファロー達は生理反応で一斉に身体をよじらせる。


 そのまま数秒間、魚のようにのたうちまわるブルーバッファローを眺め、雷を止める。


 少しだけ焦げた匂いが漂っているが、革は概ね大丈夫だろう。


「終わりました」


「き、貴公は……さすがテクノスの一員だな……」


「ま……まぁ大したことはしてないですよ」


 今やったレベルのことですら「何もしてない」と思われていたレベルなんだけどなぁ……なんだかんだでテクノスのメンバーは強者揃いだったんだろう。


「ヨウム殿、改めてお礼がしたいのでワイムの街で会えないだろうか? 今回は倒して終わりではなく、依頼人からは革の納品を求められているので時間がかかるのだ」


「あぁ……それなら手伝いますよ」


「なっ……いいのか!?」


「はい。50頭くらいいますから二人でやったほうがいいですよ。肉は要らないんですよね?」


「うむ。そのうち近隣の村から人が集まるだろうさ」


 魔物刈りの仕事では、狩った魔物のすべての権利を倒した冒険者が得る。


 ただし、依頼主に納品を求められている場合は別だ。それは冒険者から依頼主へ引き渡す。


 なので今回はブルーバッファローの革を剥いで納品するということになる。


 残った肉は持っていき、好きな店で調理してもらえるのだが、今回は量が多すぎるので近隣の村人におすそ分け、という形になるらしい。


 俺はブルーバッファローの角を持ち、指先から微弱な雷を発生させて革と肉の隙間を切り開いていく。


 僅かな熱ではあるが、肉の焼ける匂いがしてごくりと生唾を飲み込む。


 ゼツは脇に二本の刀を差していたらしく、短い刀を器用につかって革を剥いでいく。


 二人で黙々と作業を続けていると、徐々に周囲の村から人が集まってきた。


「肉は好きに食べてくれ! テクノスのヨウム殿からのおすそわけだ!」


 ゼツは自分の手柄にすることもできただろうに俺の名前を叫びながら村人を呼び込んだ。


「ありがてぇ……ありがてぇ……ヨウムさん、ありがとうな」


 村人は口々に感謝を述べながら革を剥いだブルーバッファローを台車に乗せていく。


 俺もこういうので感謝されるのは苦手なのだけど、それよりも我先に功を誇る人が苦手だ。


 そういう意味では、ゼツはかなり好印象な人だと思うのだった。

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