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『テクノス』を首になった俺は多分これから悪評が立つのだろう。
ギルドの建物を出たはいいものの、行く宛もなくぼーっと空を見上げる。
ワイムの街はかなり都会なので周りの建物の背が高く、空の半分は建物で覆われているけれど、その隙間に見える青空には濁った雲は一欠片もない。
せめて一欠片の雲があれば、その雲の進む方向に行ってみようと思えたのに。
気まぐれな空模様にそんな悪態をついても仕方がないので、気を取り直して今日からまた一人で仕事をしていかないとだ。
テクノスに所属している時は自分から仕事を貰いに行ったことはなかった。高難易度の仕事が向こうからやってきたからだ。
だが今は違う。そんな訳で、俺はもう一度ギルドの建物に入り受付に向かう。
「あの……何か俺一人でも受けられる仕事はありませんか?」
「え? ひ、一人で? ヨウム君?」
ギルドの受付嬢のノイヤーさんはエメラルド色の目を丸くして聞き返してきた。テクノスを首になった事はまだ知られていないらしい。
「はい。一人で、です」
「生憎今日はもう良いお仕事は……でもヨウム君なら難しいお仕事をお願いしても良いのかなぁ……うーん……夜の飲み相手が欲しいなぁ……」
ノイヤーさんは絹のように垂れ下がる銀髪と一緒にハリのある大きな乳をカウンターに乗せ、チラチラとシャツの胸元を広げたり閉じたりしながら俺にそう言ってきた。
この人が仕事のリストをVIP室へ持ってくる担当だった人。ことあるごとに俺達を飲みに誘ってきてはレヨンが断っていたが、俺単体でもそれは変わらないらしい。そんなに友達がいないのだろうか。
「俺は今年で17です。まだ酒は飲めませんよ」
「えー!? そんなの誰も守ってないじゃーん。ノリわるーい!」
ノイヤーさんは頬を膨らませて抗議の意を示してくる。
「酒は飲まないですけど、相手にはならないなんて言ってないですよ」
「お!? つまり行ってくれるって事!? じゃあ特別にお仕事を……あ、明日でいいかな? 今日はもう、今からお仕事にいって帰ってきたらお店閉まっちゃってるし」
「俺の仕事より酒優先ですか!?」
「あはは……まぁいいじゃん。それでね、突発的に今思いついたお仕事があるんだけどいい?」
「あるならあるって言ってくださいよ……」
「仕事だけれど報酬は無いの。私個人のお願いだから。つまり……プロボノってやつ?」
「まぁ……ノイヤーさんにはお世話になっているんでいいですよ」
「おやま! 私っていつの間に……ねぇねぇぶっちゃけ私をオカズにしたことある? レヨンより多い? あーでもさすがにロリ過ぎて犯罪の匂いがしちゃうかぁ」
「どっちもないです!」
「あははっ! 本当にぃ?」
ノイヤーさんがいじりモードに入ってしまった。無理やりにでも話を切った方が良いだろう。
「それで仕事って何なんですか?」
「友達がね、一人で仕事を受けてるの。その人を助けてあげて欲しくて。あ、もちろんテクノスのお仕事優先でいいからね」
ノイヤーさんがウィンクをしながら俺に言ってくる。
「あぁ……実は俺、テクノスを首になったんです」
「はっ……えぇ!? な、なんで!? テクノスをくびぃ!?」
ノイヤーさんの声はギルドの待機所に響き渡る。50人くらいがまばらに座っていたのだが、その全ての目が俺の方を向いた。
「ノイヤーさん、声が大きいです」
「あ……ごめんね。でも、どういうことなの?」
反省したのか口元に手を当てて囁き声で俺に尋ねてくる。
「まぁ……赤の他人と一緒にやるのって大変なんですよ」
「ふぅん……じゃあリハビリだね。私の友人の名前はゼツ・エン」
「珍しい名前ですね。東方系の人ですか?」
「そ。まぁ……東方系の人ってだけで嫌がる人が多くてさ。いい子で可愛いと思うんだけど誰もパーティを組んでくれなくていつも一人なのよ。で、今日は無理して一人で魔物を狩りに行ってるんだけど心配でさ」
「まぁ……そうですよね」
東方系への偏見は根強い。誰からもパーティを組んで貰えないのがその証左だ。
「で、そのゼツって人を助けに行けばいいんですね?」
「うん。ゼっちゃんって気軽に呼んであげてよ。ノリのいい気さくな子だからね。街の北門から出たところにある平原にブルーバッファローを狩ってるはずだから」
「あぁ……分かりました」
ブルーバッファローはその名前の通り、美しい青い毛並みを持つ魔物。一時期は誰もがブルーバッファローの毛皮を持っているくらいに安価で手に入るため一般市民にも普及していたが、それも相まってあまりに度を越した乱獲か始まり個体数が激減した。
生態系保護のため、今度は国が規制を敷いたのだが、そうしたらそうしたでブルーバッファローの繁殖力により一気に個体数が爆増して畑を荒らす厄介者となってしまっている。
そんな訳で平原に定期的に表れるブルーバッファローの討伐は初心者から中堅どころまでの腕試し兼割の良い稼ぎになる仕事となっている。
だが、相手は群れで襲い掛かってくる。それを一人でいなすのは並大抵の事ではない。
ゼっちゃんなる人がどれだけの手練れなのか、はたまたまだ生きているのか。
そんな事を考えながら俺はギルドの建物を後にした。




