2
「ばかもーん! ヨウムを追放してパーティを組み直すだと!? お前達正気か!?」
冒険者ギルドを束ねる長老の一人トンプソンの部屋にパーティ解散を報告に来たゼカ、レヨン、ムサビの3人はトンプソンに逆に怒鳴りつけられている。
ゼカとムサビはそれでもヘラヘラと笑っている。レヨンだけはその勢いに圧倒されシュンとして帽子を目深に被り直した。
「爺さん、俺達は当時の議事録を見たんだ。多数決で勝てるように根回しをしたんだろ? 自主的なのかヨウムに頼まれたのか知らねぇが、これが広まったらどうなるか分かってるのか?」
ゼカはトンプソンを脅すようにそう言うとトンプソンは「はっ」と言って一笑に付す。
「どうなるか分かっておらんのはお前達の方だよ。勝手な真似をしおって。なぜSSSランクにしたのか? それはヨウムがいたからだ。ヨウ厶の面倒を見ないのであればお前達に用事はない。お前達の代わりはいくらでもいる。即刻出ていけ」
「はっ……はぁ!? 何を……」
「出ていけ、と言ったのだよ」
トンプソンは引退したとはいえ歴戦の猛者。その眼光は未だに衰え知らず。ひと睨みでゼカとムサビは反抗する気を失い、後ずさりながらトンプソンの書斎を後にする。
残ったのはレヨンただ一人。
「お主にも言ったのだぞ。出ていけ、と」
「ヨウムはいつも後ろで魔法を使っているフリをしているのだと思っていたのです。なぜそんな人をパーティに入れたのですか? 孤児だから……それだけの理由なのですか?」
トンプソンは「ふぅ」と鼻から大きく息を吐き椅子に座り直す。
「それだけではないが……お前に教える理由もない。もし知りたいならヨウム本人に聞けば良い」
「……分かったのです」
レヨンは先に出ていった二人とは違い、恭しく一礼をして部屋から出ていく。
全員が出ていきレヨンが扉を締めると、トンプソンは男性二人による自分の悪口と三人分の足音が遠ざかっていくのを感じて警戒を解き、椅子の背もたれに体重をかける。
「まさか……あの『雷神』を追放するとはな……人選を見誤ったかのう」
トンプソンは己の見る目の無さに辟易としながらも、他の三人の長老を集めるために部屋を出たのだった。
◆
トンプソンの部屋を出たゼカ、レヨン、ムサビの三人はギルドの建物を出た。
新メンバーの面接は不作で合格者はなし。
トンプソンに買収の件で揺すりをかければ、それでなくとも三人が残っていれば新生『テクノス』としてSSSランクパーティとして承認してもらえると信じていたが、それすら打ち砕かれた三人は為す術もなくギルドを出たところで立ち尽くしている。
「あの爺! おい! ナンプソンのところに行くぞ! 議事録だとあいつだけ反対していたんだ。なにか知ってるはずだろ」
ゼカはリーダーとして次の方針を出すも、二人は首を縦に振らない。
「ゼカ、私はここで降ります。話を聞いたときは尤もだと思っていました。ですが何も裏取りをしていなかったとは驚きです。私は私なりに動きます。それでは」
ムサビはそう言って二人に背中を向けて街中へ消えていく。
「んだよ……おい、レヨン。行くぞ」
「あっ……わ……私も……」
「あぁ? なんだよ?」
「私は……ゼカにはついていけません。真実を知りたいのです。そしてそれはヨウムさんのところにあると思うのです」
レヨンもゼカの脅しに屈せず彼に別れを告げ、城門のある方角へ去っていった。
残されたゼカは一人で地面を蹴る。
「くそっ! 何なんだよこれは! 予定と全く違うじゃねぇか!」
ヨウムの追放計画はレヨンが議事録を持ってきたことを発端にゼカが企画したもの。
レヨンは単に真実を知りたがっただけなのだが、ゼカはそれを好機として目障りで役立たずと思っていたヨウムを追放することにした。
最初はノリノリだったくせに、とゼカは去った二人に対して文句も言いたくなるが、それを押し殺して会議で一人だけが反対していたナンプソンの元へと向かうのだった。