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新人事

 僕とシルビアはいろいろ話しながら商業ギルドに向かった。僕が見ていた彼女は、実は僕を分析するためにわざと演じていたところもあったらしい。おそろしい。それは僕が過去を明かさなかったからだ。でもちゃんと打ち明けたことで前よりも仲良くなれたよ。ここから頑張ろう。


 そう言えばカリンのことも疑っていたのだろうか。もしそうだったらカリンにも申し訳ない。


「うーん、最初は疑っていたよ? あの子ずっとケイのことを見ていたし目がやばかったもん。洗脳でもしているのかと思った。でもケイがいないところではカリン、すごく真面目で素直なんだよ。子供たちにも慕われているし、清貧で純粋。私とは全然違う。あんな良い子疑っていた自分が恥ずかしくなっちゃった。ま、ケイは疑っていたけどカリンはいい子だからね。もしケイが悪い奴ならどうにか説得するつもりだったけど杞憂で済んでよかったよー」


 けらけらと笑ってぶっちゃける。商人こえぇー。マジで何考えているか分からんな。今度から商業ギルドに行く時はシルビアについてきてもらった方がいいかな?


「分かっていると思うけど、カリンのこと責任取らなきゃだめだよ? だからたっぷり稼いでね?」


「も、もちろんです」


 痛いところをちくりと突かれる。ついでに金稼ぎの約束まで。いや、もちろんそのつもりなんだけど、責任ってどう取ればいいのかな。結婚ってこと? 結婚なんて分からないよ。人生の墓場だっていうけど、どうすりゃいいの。でもそんな失礼な気持ちじゃだめだよな。ああ、誰かに相談したいものだ。


「分かればよろしい。あ、ギルド着いたよ」


 白亜の建物の前に着いて話が終わる。ふぅ、初めて商業ギルドに心から感謝したかもしれないな。


 建物に入ると数人の職員が僕を見るなり立ち上がってすごい勢いで裏に走って行った。これじゃ道場破りみたいだな。あと職員多くない? 前はもう少し少なかった気がする。


「ケイ、なんか尋常じゃないんだけど……」


 ギルド内の職員と商人が僕たちを見ている。奇異の視線だと思いたいが……。


『はは、奴ら怯えているぞ。どうやらフレイムベアの毛皮のせいでずいぶん忙しかったらしい』


 プテュエラが楽しそうに言った。たぶん内部の話を殲風魔法で聞いたんだろうな。


『なるほどね、申し訳ないことしたなあ』


「もしかしてプテュエラ様と話してる?」


 シルビアが訊いてきた。たぶんいきなり黙り込んだから分かったんだろう。気を付けないとな。ちなみに亜人との挨拶(僕が通訳してだけど)は済んでいるし、チャンネルのことも説明してある。最初は「さん付け」で呼んでいたけどカリンの猛反対にあって「様付け」になった。亜人たちとしてはどっちでもいいみたいだけどね。


「うん。どうもこの前売った毛皮の反響が凄くて相当忙しくなったみたいだね」


「まー、国宝級の素材をぽんぽん持ち込まれたらそうなるよねぇ……」


 ギルドに同情するわー、と言ったところで一人の職員がやってきた。あ、ロイさんだ。何か雰囲気変わった? 疲れているような、でもギラギラしているような。


「タネズ様、お待ちしておりました」


「ロイさん、お久しぶりです。なんか疲れてらっしゃいます?」


 ロイさんは苦笑気味に頷いた


「ええ。例の案件で、部下が増えまして。おかげさまで出世しました。ありがとうございます。非才の身ですので、誰よりも職務に打ち込んでどうにか熟せる状態です」


 ほわぁー。なるほど、例のって言うとフレベの件で増員したのか。大変だな。僕は出世とか興味ないから分からないけど、ここは一応おめでとうだよね? 僕よりずっと若いのにすごいなぁ。


「それはおめでとうございます。今度お土産持ってきますね」


「いえいえ、どうぞお気になさらず。ところでそちらの方は?」


 ロイさんの鋭い目がシルビアに飛んだ。おっと、こういう時は僕が紹介しなきゃいけないか。慣れないからワンテンポ遅れてしまうな。


「こちらは僕のビジネスパートナーのシルビア、シルビア・ブラスです」


「……ビジネスパートナーですか?」


 あれ、ロイさんが困惑している。伝わらなかったのかな。おかしいぞ。シルビアには伝わったんだけど。


「えっと、商売上の仲間です。この度彼女と商会を起こすことになりまして。ご挨拶と商売上のご相談に参りました」


「……左様でございますか。ということはあの時ケイ様が探していた方ですね。ブラス家の御息女であれば私も存じ上げております。ブラス様、私はタネズ様の専属職員のロイと申します。以後お見知りおきを」


 あの時っていうのは初めて商業ギルドに来た時の話だ。

 ベステルタが昔、絶死の森で助けた商人がシルビアの祖母、リディアさんだったんだよね。その件でロイさんに探してもらったら、祖母リディアさんは見つからなくて代わりにその孫のシルビアの情報をくれたんだ。


「これはご丁寧にありがとうございます。シルビア・ブラスです。こちらのケイ・タネズさんは出資者で、わが商会にとって非常に重要な人物です。どうぞご対応を間違えられないようお願い致しますわ」


 うっわ、シルビアが睨み返した。ロイさんとの間でバチバチと火花が散っている。なんで? 仲良くやってくれよ。それとも商会とギルドって仲悪いものなのか?


「……もちろんそのつもりです。タネズ様、ブラス様、申し訳ありませんがギルドマスターの準備が整うまであちらのソファで今しばらくお待ちください」


 そう言うとロイさんは奥に引っ込んでいった。


 シルビアは「ふぅー」っとため息をついてやわらかソファにどっかり座り込む。このソファに座る度に商業ギルドに来たんだな、という気持ちになるよ。


「……ケイ、ギルマスと会うなんて聞いてないんだけど?」


「あー、言ってなかったしね」

 

 なんか自分の中じゃ当たり前になってきてたから説明するの忘れていたよ。組織のトップが会ってくれるんだからもう少し有難く思った方がいいかな? でも、そういうのもうやりたくないんだよなぁ。うっかり気を緩めると社畜時代の奴隷精神で卑屈にペコペコしだしそうなんだもん。


「言ってよ! デイライトのギルマス、アーサー・オルスフィンなんてこの道じゃ知らない人いないよ? 『鉄血』って言われて恐れられているんだから」


 そんなに凄い人なんだ。目つき鋭いなー、渋かっこいいおじさまだなとは思っていたけど。


「あのねぇ……もともとオルスフィン家はこの街の商業ギルドを長年仕切ってきたんだけど、迷宮都市のダンジョン資産に甘えていて保守的だったから腐敗もあったんだよ。それを『鉄血』がすべて粛清して完全な実力主義を敷いたんだ。さらに従業員の質を高めるために資格試験や厳しい面接を設けた。でもそれだけじゃなくて、ギルド職員には手厚い保障や給与、さらに定期的な休暇制度まで導入してね。生産性が今までと比べ物にならないくらい向上したんだよ。最近じゃ他の都市でも導入しようとしているんだけど、従来のやり方を根本から覆す辣腕が必要だから難しいみたいだね。王都にも影響力あるんだよ? 次期グランドマスター候補の最有力なの」


 はー、開明的な人物なんだな。前の世界の先進国のような思想を持っている訳か。おいおい、そりゃチートだよ。


「それに冒険者上がりだからめちゃくちゃ怖いし、カリスマもある。彼の娘で副ギルマスの『アルフィン・オルスフィン』の頭脳と合わせてあのギルドには全く隙が無いよ。人材の宝庫といってもいいよー。はーまじかーこれから話すのかー」


 これからそんな人物と話すわけだからシルビアも緊張しているみたいだ。そこへギルド職員が紅茶を持ってきてくれた。あ、かわいい子だな。ありがとう、と言ったら怯えられてしまった。つらい。


…………


……


「タネズ様。お待たせ致しました。本日はご足労頂きありがとうございます」


 お辞儀してくるギルマス。相変わらず渋いおじさまだ。あれ、他にも数人いるみたいだ。


(ちょっと! なんでアルフィン・オルスフィンがいるのよ! しかも幹部のラーク・ジャックナイフもいるじゃん!)


 シルビアが小声でつついてくる。アルフィンって初めて来た時、僕に絡んできた人だよね。もしかして今日辞めるのかな。引継ぎするって言ってたし。ていうかあの頭皮が後退しているおっさんってそんなかっこいい苗字だったのか。似合わないな……。


「いえいえ、こちらこそいつも急に来てすみません」


「タネズ様であればいつでも歓迎でございます。シルビア嬢も息災なようで何より。……父上には世話になった。とてもな」


 含みのある言い方だ。


「うっ、は、はい。父も便宜を図って頂き感謝しておりました」


「……フン」


 何かギルマス不機嫌? お世話になったんじゃないのか。複雑な事情があるのかな。


 シルビアも面食らっている。自分の名前を知っているとは思わなかったのかもしれない。やるなアーサー。


「まあ冒険者時代には助けてもらったからな。気にするな。彼のことは本当に残念だったが、成長した貴方と商談できることを嬉しく思っている」


「……恐れ入ります」


 意外な過去。そういうこともあったんだね。ていうかギルマスから覇王オーラみたいのが出ている、気がする。


「さて、タネズ様。フレイムベアの話をさせていただく前に、このままギルドの新人事を伝えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 ぴくっとアルフィンさんと肩が震える。やっぱりそういうことか。 


「はい。どうぞ」


(え、なに。新人事って何。なんで一介の商人のケイに商業ギルドが人事を伝えるの? 怖いんだけど)


 そわそわするシルビア。安心してくれ、僕も良く分かっていない。


「それでは……。副ギルドマスター、アルフィン・オルスフィンはタネズ様に多大な無礼を働き、当ギルドに大きな損害を与えました。よって本日付でこの者を解雇致します。その後任としてラーク・ジャックナイフを就任させます。今後ともどうぞ宜しくお願い致します」


「タネズ様。本当に申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げる一同。アルフィンさんの中性的で生意気そうな表情が見るからにしおれている。いたたまれない。はー、なんかいつも頭下げられているな。いい加減げんなりしてくる。これじゃ悪質クレーマーみたいだ。もう止めにしてもらおう。


「謝罪を受け入れます。なので今後は頭を下げる必要はありません」


「そう言って頂けると助かります。……おい、もう貴様は部外者だ。出ていくがいい」


「……はい、失礼いたします」


 すごすごとアルフィンさんは出て行ってしまった。容赦ねぇー。でも組織としては必要な判断なのかな。たぶん、僕に対するパフォーマンスもあるのだろうし。


(……副ギルドマスターが無礼? 責任をとって辞める? どういうこと?)


 シルビアは こんらん している!


 僕は考えるの止めているけどね。商業ギルドではさっさと要件を済ませるに限る。これ、豆な?

いつも読んでくださりありがとうございます。

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[気になる点] ベステルタが昔、絶死の森で助けた商人はシルビアのお祖母さんだったのでは。
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