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信じられない?

 シルビア、カリンからいろいろと報告を受けたよ。なんか二人がとても仲良くなっていた。ズボラなシルビアにカリンが何かと世話を焼く感じ。

 カリンの方が年下のはずだけど、だらしない姉を持つ妹みたいなものだろうか。部屋整理しないし、下着置きっぱだし、人前で着替えるしひどい。お嫁に行けるのだろうか。でもカリンもそんなに嫌じゃなさそうだから放っておこう。


 それで、商会発足に関して「ブラタネリ商会」っていう名前を提案されて、ものすごく難色を示したけど、かと言って代案があるわけでもない。ブラス商会でいいじゃんと思ったけど、ブラスの名前はアセンブラに目を付けられているんだよね。リッカリンデン商会は半ば拒絶のようにカリンに固辞されたし。二人はタネズ商会が良いと考えているけど、僕もあまり目立ちたくない。だから、ここら辺が落としどころだろう。ブラタネリ。きっと慣れる。……そう思うことにしよう。


「じゃ、ケイ、行きますか」


 ばっちり化粧と服を決めたシルビア。ギャップが凄い。いかにも仕事できそうな風貌だ。オンオフしっかりできているんだろうな。


「うん、商業ギルドだね。奴隷商人の斡旋だね。あとフレイムベアのお金の受け取りもしたいんだ」


「私たちの資金ですね。ぐふふ、いくらになるのかなぁ」


 欲にくらんだ瞳で、私たちの資金と言い切った。いや、これから商会を起こしてビジネスパートナーになるんだから問題ないんだけど。何か複雑なんだが?


「あ、そうだ。コスモディア製造のことはギルドに話すの?」


 製造したポーションはギルドに卸さなきゃいけない。先に話した方がスムーズな気がする。それとも試供品を作ってから実演した方がいいのかな。


「ええ、話しちゃいましょう。こちらとしては商売敵のアセンブラに対して製造元はなるべく秘匿したいですし、商業ギルドが間に入れば牽制になります。そこで変に隠し立てすれば信用が無くなります。それにケイはフレイムベアという唯一無二の商品を扱っているわけですから、そんな上客を裏切るようなことはしないでしょう」


「わたくしもそう思います」


 ふむ、二人がそう言うなら。冷静に考えればシルビアの言う通りだしね。僕に商売の知識なんて皆無だし、ここは彼女の意見に従おう。


「じゃあ言ってくるよ。ベステルタ、守りはお願いね。防具受け取るときにプテュエラと入れ違いで召喚するよ」


「ええ、楽しみに待っているわ。ああ、冒険。本当に楽しみ。借金取りが来たら姿を見られないようにころ……気絶させればいいのよね?」


 物騒なことを口走りかけていたけど大丈夫かな。大丈夫だと信じよう。


 みんなに見送られ、外に出る。いい天気だ。絶死の森よりずっと暖かい。あの森けっこうひんやりしているんだよね。


「みなさんお疲れ様です」


「おう! これくらいの増築ならなんてことないわい」


 シルビアが業者の人たちに挨拶すると元気の良い返事が返ってきた。……ずんぐりむっくりのひげ面。やっぱりドワーフだよね?


「ケイ、こちらは増築を請け負ってくれているドワーフの方たちです」


「ドゴンだ。あんたが依頼元だな。気前の良い前金をありがとよ! がはは!」


 握手した手をぶんぶん、と勢いよく振られる。そんなに気前よく渡したのか。シルビアを見るとドヤ顔で見つめ返してきた。いや、思惑があるならいいんだけどね……。


「ケイ・タネズと申します。ドゴンさん宜しくお願い致します。一つ訊きたいんですが、追加で家を造ってもらうことは可能ですか?」


 家の見積もりしておかないとね。今度忘れたらシャレにならない。僕の自由な異世界繁殖生活には欠かせないものだし。


「そんな堅苦しくせんでええわい。で、追加の家か? もちろん可能じゃぞ。だがワシは手が離せん。本部に聞いてくれ」


 よかった。問題ないみたいだ。ドゴンさんに場所を教えてもらったから空いた時間に行こう。ちなみにお酒は大好きだそうだ。今度差し入れでお酒持っていこう。もし蒸留酒ができたら試飲してもらってもいいかもしれない。ドワーフのネットワークはコネになりそうだし。


「家を造るんですか?」


 ギルドまで歩いているとシルビアが訊いてきた。興味津々だ。まぁ彼女にならある程度話してもいいか。でも周りに聞かれるのは良くないな。


『プテュエラ、僕とシルビアの会話を周りの聞こえないようにすることできる?』


『無論、問題ない。……シルビアに話すんだな?』


 プテュエラの瞳から少し力を感じる。本当に話すんだな、という念押しだ。そう言えばこっちの人に僕の素性をあまり話していなかったな。あとでカリンにも話さなくちゃ。で、シルビアだけど。


『大丈夫だよ。彼女と僕らは利害が一致している。それに、人柄は信頼できると思う』


 そう言えばこっちに来て誰かを信じるってお思うの初めてかも。思えば避けていた。カリンはそんなこと思う間もなく、向こうから信じてくれたし。ああ、そっか、拒絶される可能性もあるのか。無意識のうちに恐れていたのかもしれない。日本にいた頃は、信じても搾取されてばかりだったしね。


『そうか。ならば何も言うまい。……うむ、空気を遮断したぞ。これで大丈夫だ』


 空気を遮断って何かおっかないな。試しに少し離れている人に大きめの声で話しかける。うん、聞こえていないみたいだ。ちょっと無視されているようで悲しいが。


「け、ケイ。その奇行はなんですか? お薬飲みますか? 近くに薬師ギルドがありますよ。一緒に行きますか?」


 心配されてしまった。


「ごめんごめん、大丈夫だよ。気にしないで。それで、家のことだけどね……」


 その後、僕はシルビアに話せるところを話した。転移のところだけ伏せて、僕が亜人と話せて協力していること、繁殖の事、絶死の森に住んでいてすでに五人の亜人と契約していること。人が増えてきたから森を切り開いて家を建てようとしていること。炎の日はアセンブラのデマで、本当は亜人が助けようとしていたこと。使徒や、カリンたちジオス教徒のこと。亜人たちも人と同じで、傷付きやすくて繊細で、豊かな心を持っていること。一度話したらいくらでも話すことが出てきてなかなか止められなくなった。


 全部話すとシルビアは黙ってしまった。


 うーん、いろいろ一辺に話したから混乱させてしまったかもしれない。でも、話し終えたらなんだかすっきりしたよ。もしかしたら結構不安に思っていたのかもしれない。亜人はもちろん大好きだし、僕はなんだってするつもりだけど、全部自分で抱え込んでいたからな。こうして外部の人間に相談したことなかった。心が晴れやかだ。何でもできそうな気がする。単純だなぁ。


 ……もし、これでシルビアが心変わりするようなら、仕方ない。とんぼ返りで半世紀くらい森に引きこもるだけだ。全部投げ出して亜人たちに甘えまくって爛れた生活をするだけだ。


「……はー、なるほどね。何もかも突拍子もないことで、いまだに信じられないけど、それなら説明は付くのか……」


 普段の言葉遣いに戻ったシルビア。ぽつぽつとつぶやく。


「信じられない?」


「うん、ちょっとね。私もこの話を貰った時から、いろいろ考えていたんだよ? だって都合が良すぎるし、フレイムベアの毛皮を定期的に卸せるなんて、意味不明じゃん? 教養はありそうだけど力も弱そうだし、商談にも慣れていない。こっちのブラフや探りにも対応できないし、おべっかもそのまま受け入れる。ただのカモだよ。世渡り下手で搾取される側の印象しかなかった。普通なら一緒に事業を起こすなんて絶対無理。でも強大な力が背後に控えていそうで、なにもかもあべこべ。もしかしたら私を騙しているのかもしれない。ただ、怪しいけど、私も復讐のためお金のために深く考えないことにした。ケイが詳しく教えてくれないことも、考えないようにした」


 うわ、がっつり不信感持たれていた。しかもシビアな人間分析もされていて凹む。仲良くできていたと思っていたのに。でもその通りだ。僕は自分のことを明かさないで、信頼を得ようとしていた。それって詐欺師の手口だよね。当然か。ああ、これは本当に半世紀引きこもりコースかもしれないな。


『……』


 プテュエラが僕の雰囲気を察して剣呑な目つきになっている。でも、まだ待ってくれ。


「でもね」


 シルビアは僕の手を取った。あれ、流れ変わった?


「でもね、今の話聞いてやっと腑に落ちたよ。ケイはただ亜人のために頑張っていただけの、お人よし。身に余る力を手に入れた一般人。それでも慣れない虚勢や論理的な思考で、何とか亜人の境遇を変えようと足掻いていたんだね。話し方からいろんなことが分かったよ」


 そんな分かりやすい話し方していたかな。おかしいな。  


「だって、なんだか亜人のこと話すケイ、楽しそうだったよ?」


 楽しそう。そうか。そうだね。楽しかったのかもしれない。亜人は強くてかっこよくて、僕に無いものを持っている。だから一緒にいると元気を貰えて、誇らしくて、彼女たちの境遇が悔しくて……。


「だからケイを信頼することにする。あんなに他人について楽しそうに話して、ころころ表情変える人が、私を騙せるわけないし、騙す必要もないもん」


「……ありがとう、シルビア」


 僕がそう言うとシルビアはにっこりと笑ってくれた。営業スマイルじゃない。親し気な笑い方だ。


「こちらこそ。私を信じて秘密を話してくれたんだよね。ありがとう。これから本当にパートナーとしてよろしくね。ケイの資金力には期待しているからね?」


 これは搾り取られそうだ。亜人とは別のものをね。でも、悪くないか。


 それから僕たちは壁が無くなっていろんなことを話した。シルビアの口調も砕けて嬉しかった。あの敬語はやっぱり僕を疑っていたからなんだろう。ちなみにズボラなのはブラフとかではなく素だそうだ。でも下着に関してはワザとで、いろんな側面から僕に探りを入れようとしていたらしい。商人こっわ。でも、これじゃ放置下着を拝めるのは終わりかな……。残念。

 

 でもよかった。怖かったけど話してよかった……。


『……ありがとう、ケイ。

 だからこそお前に何かあったとき、私は……』

いつも読んでくださりありがとうございます。

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