番外編 肉詰めパプリカのスープ煮
太陽の光が燦々と降り注ぐ。
針葉樹林の森の緑は濃く色付き、爽やかな緑の匂いを含む風が漂っていた。
夏も盛りになった頃、ミハイルの育てていた野菜が実りの時季となる。
それは、オリガにとっては初めて見る野菜だった。
膝くらいまで伸びた茎には、赤、黄、橙の鮮やかな実が生っている。
「すごい色だな」
「だろ」
ミハイルはパチンと、鋏で切って収穫する。
太陽の光を浴びて、艶やかに色づいていた。
「名前は、なんだったか?」
「パプリカ」
都ではよく見かける野菜であったが、針葉樹林の森の村での知名度はゼロに等しかった。
偶然、春先に緑星の村で育てている農家を発見し、種を譲ってもらって育てた。
肥料が良かったからか、丸々とした実を付けてくれたので、ミハイルは満足げに頷いている。
「唐辛子に似ているな」
「や、これぜんぜん辛くないから。むしろ甘い」
「そうなのか? 味がまったく想像できない」
「よし。だったら、昼食はパプリカ料理にしよう」
台所に移動して、調理に取りかかる。
ミハイルは腕まくりをして、エプロンをかけた。
「今から、パプリカのスープ煮を作る」
パプリカ料理が初めてのオリガは、調理風景を覗き込む。
「じゃ、オーリはパプリカを洗って、ヘタが付いたほうを切って、中の種を取ってくれ」
「了解」
「あ、ヘタは蓋にするから、捨てるなよ」
「蓋? まあ、わかった」
オリガがパプリカの種と格闘している間、ミハイルは中に入れる具を作る。
米を湯で洗い、玉葱をみじん切りにした。
ボウルに豚ひき肉、繋ぎの米、玉葱、香辛料に薬草、塩胡椒を加え、粘りが出るまで練る。
「ミーシャ、種取りは終わった」
「おう。じゃ、次にその肉をパプリカに詰めてくれ」
「わかった」
オリガにパプリカの肉詰めを任せ、ミハイルは煮汁を作る。
トマトの水煮に生のトマト、ローリエ、塩胡椒、バターなどを入れてぐつぐつ煮込む。
「ミーシャ、肉詰めはこれでいいか?」
「ああ。最後に、さっき切り落としたヘタ部分を被せて蓋にするんだ」
「なるほど」
パプリカの肉詰めを鍋にぎっしり詰め込む。煮崩れを防ぐためだ。そこに、トマトの煮汁を入れてじっくりと煮込んでいく。
一時間ほどで完成した。
「これが肉詰めパプリカのスープ煮だ」
「すごい、色鮮やかなスープだ」
「だな」
夏、都ではパプリカが安くなる。ミハイルは大量に買って、せっせと仕込んでいたことを思い出した。
「俺は好きだったんだけど、母親は嫌いって言って、食わなかったんだよなあ。オーリの口に合うか……」
「美味しそうに見えるが?」
「ま、食ってみてくれ」
一人二個、パプリカの肉詰めを入れて、スープを注ぐ。
食卓に朝オリガが焼いたパンとスープの皿を並べる。
椅子に座って、針葉樹林の森の神に祈りを捧げた。
「よし、食おう!」
「そうだな」
オリガは真剣な表情でナイフを取り出し、刃を滑らせる。
コトコト煮込まれたパプリカは、力を入れずともナイフが沈んでいった。
一口に切り分け、匙で掬って食べる。
ミハイルはドキドキしながら、オリガの様子を見ていた。
一度、ハッとしたあと目を細め、口元は緩む。
「オーリ、どうだ?」
「んっ――美味い!」
その反応を見たミハイルはホッとひと息。自らもパプリカのスープを食べ始める。
パプリカはナイフを使わずとも、匙で掬って食べることができる。
トロトロになるまで煮込まれたパプリカは、驚くほど甘い。
中に入れた米が肉汁を吸い込んでいて、味わい深いものとなっていた。
赤いパプリカは僅かに苦味があり、黄色や橙のパプリカは甘味が強い。
色によって、味わいが異なるものとなる。
「私は赤いほうが好きだな」
「俺は黄色が好みかな」
パプリカは炒め物にしても、酢漬けにしても美味しい。
オリガもパプリカを気に入ったようだ。
夏の味覚として、食卓を彩ってくれることは間違いない。
赤や黄色と見た目にも鮮やかなスープを、ミハイルとオリガはお腹いっぱいになるまで堪能した。
◇お知らせ◇
『タイガの森の狩り暮らし』ですがPASH!ブックス様より、書籍化が決定いたしました。発売時期はオリガとミーシャが出会ったくらいの時季になるのではないかな~と。
また発売が近くなりましたら、お知らせいたします。
皆様の応援あっての書籍化です。どうもありがとうございました。
そして、引き続き、ミハイルとオリガをよろしくお願いいたしますm(__)m




