【10】完
事件のその後。
「これは持ってていいの?」
「いいよ。気に入った?」
「うん。持ってるとなんだかほっとする。やっぱりおまじないがかかってるの?」
「うん。みくちゃんを守ってくれますようにって」
やっぱり!つんつんとあの赤い花をつつきながらニコニコしている彼女の興味は尽きない。
「赤ちゃんもお姉さんと同じ妖怪なの?普通の赤ちゃんに見えるけど」
触っていい?優しくねと言われて手をふにふにと握ると赤ん坊は機嫌よく笑っている。
いやぁ長閑だなぁ。実にありふれた公園のワンシーンだ。内訳が人間2名、妖怪2名、人間?1名とは思えないな。
「あ、智、遅いよ」
識き目のリクエスト通りピクニックにぴったりなラインナップを揃えるのに少し時間が掛かったというのに…。
「あ、お兄ちゃん。持つよ」
「あ、ありがと。みくちゃんも、レモネードでいいかな?」
「ソーダ?」
やった、ありがとうと飲み物をみんなに配ってくれる。
カワネは呼ぶ子に成功したが、世間は騒然となった。戻ってきた子供たちがもう一度いなくなったのだから当然だ。
警察への通報が相次ぎ、それぞれの学校近く等で捜索が始まって数時間、子供たちはひょっこり戻ってきた。
自宅の周辺をそれぞれが普通に歩いている所を保護された。その中には最後にいなくなった瞬くんもいて、11名全員が帰ってきた。
どこにいた?怪我は?何もされていないか?と尋ねられても、誰も何も覚えてはいなかった。
ただ子供たちは口を揃えて『もう大丈夫、ごめんねと謝られたから』と言って関係者を困惑させた。
謝られたのに顔も声もわからない。覚えていなかったからだ。
「これからどうするんだ?」
「大切に育てるよ」
「いや…それは分かったが、お金とか仕事とかはどうするんだ?」
なんか改めて心配になってきた俺に、これがあるから大丈夫、と背中の方からごそごそと出したファイルポーチを渡された。どうやってしまってるんだろう…。
開けてみると「高嶋かわね」と書かれた身分証や「高嶋さな子」と書かれた通帳や不動産の登記簿など財産であろう書類関係がまとまっていた。
通帳はいくつかあって俺なら余裕で人生が3回は送れそうな金額が入っている。
「心配することないな…」
「ないね」
いつの間に後ろから覗いていたのか識き目も神妙な顔になっている。
「食べたり住んだりするのには困らないと思う」
だけど子供を育てるのははじめてだ。
「君たちに頼むのは変だと思うけど、たまに相談にのってくれるとありがたい。人間の常識が分からない部分もあるし…この子は出来るだけ普通の子供として育てたいんだ」
「…今更だけどさ。その子は人間って事でいいのか?」
この子が生まれてくる過程を見た。
ふっくらしたほっぺたの赤ん坊らしい赤ん坊。見た目はいたって普通だ。
「半分か3分の2位は人間て感じかな。私の命を半分使って呼んだから普通の人間よりはいくらか長生きだと思うけどね」
「…半分か。それじゃあカワネはあとどのくらい生きられるんだ?」
「ウ~ン。大体50年ぐらいだと思う」
この子が大きくなるまで一緒にいられるよ。嬉しそうに赤ん坊をあやしている姿は普通の母親にみえる。
「基本は見た目が変わることはないんだけどね。この子の成長にあわせて見た目も変えてくから、おかしな風にはならないよ」
まだ先になるけど、この子が大人になって家族を持つかもしれない…それまでは一緒に過ごしたい。そして、最後の時は見送ってほしい。オババたちの所に行きたいんだ。その時をとても楽しみにしているとカワネは笑った。
初めて見る屈託のない笑顔だ。
そうか、家族が欲しいと言ったのは―。
迎えて、生まれて、遺して、見送られる。そういう人間の営みの中で置き去りにならず、自分もその流れの中で最後は家族の元へ旅立っていきたい。そういう存在になりたいという事だったのかな…。
目の前で赤ん坊をあやすカワネと、勝手に取り分けたサンドイッチやチキンを先に食べ始めた識き目を見ていると本当に同じ種族かと疑問に思う。…いや、待てよ………。聞いてなかったな。
「ところでさ。2人は同じ種族なの?」
「え。識き目兄ちゃんたちって仲間じゃないの?」
赤ん坊をおもちゃであやしていたみくちゃんも加わると、識き目とカワネがお互いに顔を見合わせた。二人とも何とも微妙な顔だ。
「…ウ~ン。近いけどちょっと違うんだよね。私からするとカワネは私より自然に近い感じがする」
命を育もうとするって私からしたら不思議な感じ。人間を見てるのは楽しいけどね、という識き目にカワネの方は。
「わたしからすると識き目は人間に近く感じる。落ち着きがなくてひとところににおさまらない感じが」
とのこと。フーンとみくちゃんと聞いていた俺だったが、まぁ確かに雰囲気は似ているが行動とか考え方は全く違うな。妖怪にも色々いるんだろうな。
「そうだ!赤ちゃんの名前決まったの?」
「うん。決まったよ」
高嶋海斗。
川から海へ。カワネらしい家族の繋がりを感じる名前だな。
「かっこいいね!」
「でしょ」
海斗くんかー、とみくちゃんがふにふにと手を握ると海斗も嬉しそうにふにゃふにゃ動いている。ドーナツを食べながらそれを眺めていた識き目がそういえば、とカワネの横にぴったり陣取る。
「呼ぶ子の儀式ってどこでやり方知ったの?」
「あぁ、それはね……」
なんだかとっても気になる話しが始まりそうだが。ここ最近、事件だなんだと忙しくて結構限界だった俺はちょっとだけ意識を手放すことにした。
こんな長閑な昼下がりだ。集まった面子に妖怪がいたとしても昼寝をキャンセルする理由にはならないよな。
【完】
ここまでご覧頂き、本当にありがとう御座います。このお話はひとまずここで終了ですがちょっと書きたいなと思うエピソードがあるので、機会があれば続きを書けたらなぁと思っています。別枠?というのでしょうか、幕間や小話をいくつか週末に書く予定です。よろしければそちらもご覧いただけますと幸いです。




