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EX21 初恋と青春

 清々しいのは、泣き疲れたからではないのだろう。

 思えば、僕は最初から間違っていたと思う。


 もう少しだけ、勇気を持っていれば

 もう少しだけ、友達を信じていれば

 もう少しだけ、本音を言っていれば


 ここまでみんなに迷惑かけることもなかっただろう。

 でも、不思議とあそこまでぶつかり合えたことを誇りにも思ってしまう。

 ちょっと傲慢すぎるかな。

 今日ぐらいは許してもらおう。

 その傲慢さが僕の背中を押してくれるから。


 ――教室の扉が開いた。


「おや、山路んだけかな」


「ええ、僕だけです」


 轟先輩は中に入ると扉を優しく締めた。

 そしてゆっくりと僕の近くまでやってきた。

 きっともう、全てを察しているのだろう。

 そう思い、意を決する。

 対して轟先輩はいつも通りの様子でいた。


「ん? 山路ん、左頬どうしたの?」


「え、ああ、これですか。椎名に叩かれまして」


「なぬぬ!? あの香奈んが!? ……そっか、それはそれは大変な話し合いだったね」


 驚きながらも轟先輩は優しく声をかけてくれた。

 僕は左頬を触りながら笑う。


「ええ、すごく大変な話し合いでした……でも、悪い気はしなかったです」


「それはよかった。で? 話し合いはどうなったのかな?」


「僕の完敗です」


「と、いうことは?」


 轟先輩は素早く聞いた。

 たぶん、言わせたいのだろう。だから僕ははっきりと言った。




「僕は、演劇部に残ります」




 その言葉に、轟先輩は満足そうに笑った。

 僕の胸が少し苦しくなった。

 ああ、でももう覚悟していることだ。


「轟先輩」


「ん?」


 名前を呼ぶと、轟先輩は僕をじっと見てきた。

 その瞳に臆する僕を、みんなが押してくれた気がした。




「ずっと、ずっとずっと好きでした…………!」




 言った。言えた。言い切った。

 背筋が痺れ、体が震える。

 それらを必死に誤魔化して、やっとの思いで立つ。

 轟先輩は変わらずに僕を見ていた。


「……証明できたじゃん」


「え?」


「ううん……山路ん。いや山路徹郎君。ありがとう。そしてごめんなさい」


 轟先輩はそう言って頭を下げた。

 全身の力が抜けた。

 痺れが、震えが止まった。

 なんだ。こんなに簡単な事だったんだ。


「轟先輩」


 頭を上げ、僕を見る。

 少しだけ悲しそうな表情をしていた。

 違う。僕は悲しんでほしかったんじゃない。

 心の中で叫ぶ。

 笑ってくれ。爛漫なあなたが好きだから。

 せめてあなたの後輩として、感謝を。

 僕は言う。

 精一杯胸を張って、虚勢のままにありったけの想いを。


「この一年間、好きでいさせてくれてありがとうございました。あなたのことが好きだったことがこれまでの僕の青春でした……でも、これからは友達と、仲間と一緒に青春を送ります」


 一瞬驚かれたが、すぐに笑ってくれた。

 届いたのだろうと信じて、僕も笑った。


「山路ん。こっちこそありがとう。私の後輩でいてくれて。一緒に部活をしてくれて」


 しんみりと()みたのは、情けなんかじゃなくてきっと。


 ――こうして、僕の初恋(せいしゅん)は終わった。

 多くの間違いをして、

 大きく遠回りをして、

 沢山の迷惑をかけて、

 そして、僕は新しい青春を手に入れた。

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