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第135話 相談事はラーメン屋で

 駅のコンビニ、その入り口横に二人の人影が見えた。

 津田先輩と木崎先輩だ。

 こちらに気づくと、楽しそうに何かを話していた。

 話が聞こえるところまで近づく。


「な、杉野も来ただろ?」


「……別に疑ってないよ」


 どうやら、津田先輩がまた予言めいたことを言っていたようだ。

 手が届く距離まで近づくと、樫田が挨拶をする。


「お疲れ様です。すみません遅くなりました」


「……いいや、だいたいコウジの予想通りだよ」


「そういうこった」


 ドヤ顔の津田先輩。

 この状況まで予想していたらしい。相変わらずの想像力だ。


「ありがとうございます。どうします? フードコートでも行きます?」


「……それは良くないね」


「この時間帯は、見回りの教師がいるから止めとけ」


 樫田の提案を二人は首を横に振った。

 そんなことまで知っているとは、と思っていると津田先輩がこちらを見てきた。


「これは三年の中じゃ有名な話だ。かといってここで喋るってのもなぁ」


「……二人はお腹空いてる?」


「まぁ、はい」


 樫田が俺に視線を送りながら答える。

 俺は頷いた。言われて気づいたが、かなり空腹感があった。


「……じゃあ、あそこにしよっか」


「だな。食べながら話すとしようぜ。二人とも良いよな」


「俺は大丈夫です」


 樫田に続いて「自分も」と俺が言うと先輩たちは歩き出した。

 俺達も傘をさして、駅を出ていく。

 どうやら、どこかに食べに行くらしい。


「……それにしても、杉野は少し元気がないね」


「そうですか……いや、そうですね。色々ありまして」


「積もる話は食べながらするにしても、らしくねーな。知恵熱か?」


 津田先輩が、からかうように笑いながら俺を見てきた。

 前見ながら歩かないと危ないですよ。

 それにしても、らしく、か。


「……それって、能天気ってやつですか?」


「お、分かってんじゃん」


「いえ、轟先輩にも同じようなこと言われました」


「ああ、なるほど」


 津田先輩は何を納得したのか、俺の言葉を聞いて前を向き直した。

 静かに、雨の音だけが流れる。

 そして歩いて五分もしない内に、目的地に着いた。


「ラーメン屋……?」


「そう。ここのラーメンは美味いぞ」


「こんなところあったんですね」


「……意外と知られてないんだよね。テーブルが空いているなら良いんだけど」


 そう言いながら俺たちはラーメン屋に入っていった。

 始めに感じたのは鼻に香る煮干しの良い匂い。

 中は意外と広く、カウンター席の他にいくつかのテーブル席もあった。


「いらっしゃいませー! 食券購入後お好きな席にどうぞ!」


 店員さんの元気のいい声が店内に響き渡った。

 俺達は軽く会釈してから、券売機でそれぞれラーメンを決める。

 その後、一番隅のテーブル席に腰を下ろす。

 俺の横に樫田、先輩たちは向かいに座った。

 食券を店員さんが確認して、持って行く。

 一通り終えた後、津田先輩が口を開いた。


「で、相談事があるんだろ杉野?」


「ええっと、そうですね……」


 俺は言葉を濁す。

 今更ながら、山路のことをどう説明したものか。

 そうしていると横にいる樫田が先輩たちに尋ねた。


「先輩たちはどこまで、知っていますか?」


「……愚問だね」


「そりゃお前、全部に決まってんだろ」


 先輩たちは、当然と言わんばかりに堂々と答えた。

 不意を突かれたような衝撃に襲われた。

 ああ、そうか。先輩だもんな。

 聞いた樫田もそりゃそうかと笑っていた。


「話せよ杉野」


「はい」


 津田先輩の一言で俺はゆっくりと話し出した。

 山路のこと、今日の二年で話し合ったこと、結果コバセンに指示されたこと。

 先輩たちはただ黙って聞いてくれた。

 そして話し終わると丁度ラーメンがやってきた。


「こちら煮干しラーメン味玉トッピングのお客様~」


 店員さんがみんなの前にラーメンを並べた。

 木崎先輩が割りばしを配りながら言った。


「じゃあ、食べながら杉野の悩み解決と行こうか」


 感謝を述べながら割りばしを受け取る。

 そして、手を合わせる。


『いただきます』


 みんな一斉に食べ始める。

 おお、美味い。煮干し系の深みのあるスープが細麺によく絡んでいる。

 空腹の中で食べるラーメンは最高だ。


「話進めるけど、問題は山路が辞めること。で、それについての話し合いは部活の時間を使うこと。そのタイミングは杉野で決める、と」


「……コバセンも意地悪だね」


「そうか? 俺には妥当な案だと思うけど」


「妥当ですか?」


「だってお前ら、期限決めないといつまでも話し続けるだろ」


 耳の痛い話だった。確かにそうかもしれない。

 現状のまま話し合っても、平行線をたどって解決へと至らないだろう。


「……樫田がいてもかい?」


「こいつはもう演出家だからな、中立の立場から物言えない」


「……確かに」


「まぁ、それでも進行役は樫田になるだろうな。他のやつじゃ務まらん」


 さらっと酷いことを言うが、それが津田先輩の評価なのだろう。

 俺自身、その言葉に納得できる自分がいる。


「……それでコウジは何か良い案浮かんだかい?」


「そうだな。まず確認だが杉野、山路が辞めることを阻止したいのは二年の総意か? それともお前の意志か?」


「それは……」


 言葉に詰まった。いや、総意のはずなんだが、いざ聞かれると明確に全員で示し合わせたわけじゃないし。

 俺の様子を見て、津田先輩は樫田に視線を送った。


「全員の総意、と言えるほどしっかりとした確認をみんなでしたわけじゃありません」


「そうか。となるとそこからだな。杉野、一人一人に確認しろ」


 津田先輩の視線が再び俺に戻る。

 俺はその指示に、疑問をぶつける。


「でも、たぶんみんな山路が辞めることには反対のはずですよ?」


「ああ、だろうな。けどな、総意のない集団は烏合(うごう)(しゅう)って相場が決まっている」


 そう言って津田先輩はラーメンを(すす)る。

 俺はその言葉の意味を考える。

 確かに、それは言い得て妙なのかもしれない。

 今の俺たちはただ集まっているだけで、統率があるわけじゃない。


「……それに、本当に総意があるか分からないしね」


「え」


「おいコウ、余計なことは言わんでいい」


「……ごめんごめん」


「後はそうだな……とりあえず、真面目に部活することだな」

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