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EX19 喧嘩の原因

 解散になると大槻は一目散にどこかに行った。

 きっと杉野のところだろう。

 残ったのは俺と増倉、そして夏村の三人だった。

 どうしたものかと考えていると、増倉が話しかけてきた。


「ねぇ樫田。これでいいの?」


「いつかは通る道だろ」


「でも……」


 納得していない増倉は歯切れが悪い。

 まぁ確かに荒療治と思われて仕方ない。


「増倉だって分かってんだろ。山路が辞めるまで後三週間。そして部活は春大会に向けて練習が始まる。今日を逃せば次いつ集まれるかも分からないってこと」


「そりゃ、分かっているけどだからってこんな終わり方はないと思う」


「大丈夫だよ、みんなが知らなきゃいけないことは大方話した。後はそれぞれの覚悟次第だな」


 増倉も分かってはいるのだろう。それ以上は踏み込まれなかった。

 問題があるとすれば――。

 俺はチラッと()()を見る。彼女が残っているのは俺に話があるからだろう。

 けどそれは増倉がいると話せないこと。

 どうやって二人きりになろうか考えていると、増倉が席を立った。


「じゃあ、私ももう行く。二人も何があったか知らないけど、ちゃんと仲直りしといてね」


「うん、ありがとう」


「お、おう……」


 それだけ言うと増倉は帰った。

 予想外だったが、棚からぼたもちとはこのことだろう。


「気使われた」


「だな……」


 佐恵の開口一番の言葉は、そんなことだった。

 俺は頷いて同調する。


「秀明。やっぱり分からない。何でさっきまで轟先輩と会ってたの?」


「…………」


 佐恵は再度喧嘩の理由を質問してきた。

 そう、俺はみんなと合流する前に轟先輩と二人きりで会っていた。

 劇の打合せと説明したが、勘の良い佐恵は嘘をすぐに見抜く。

 それで喧嘩になった。

 ただ詳細な事情は話せない。どうしたものか。


「……とりあえず、みんなも帰ったしここから移動するか」


「秀明」


「分かっているよ。出来る限り説明するから」


 俺たちは立ち上がり、フードコートを後にした。

 歩きながら、話をする。


「さっきも言ったが、どうしても轟先輩に確認しないといけないことがあってな」


「だから、それは何って聞いているの」


「言えない」


 俺の頑な拒否に、横にいる佐恵は少し苛立ちの表情を見せた。

 あー、これは完全にご機嫌斜めだわ。


「山路のことだから?」


「……まぁ、さすがに分かるか」


「けど、なおさら分からない。なぜ轟先輩?」


「それが言えたら苦労はない」


 佐恵が無言で俺の脇腹にエルボーを当てる。

 いや、冗談じゃなくてね。


「それに良かったの? そのことを誰にも言わないで」


「大丈夫だ。たぶん大槻も知っているし、今頃――」


「?」


 言葉の止まった俺に対して不思議そうに首を傾げる佐恵。

 これは余談だな。今は俺の話か。


「何でもない。とにかく山路のことについて、轟先輩と話さないといけないことがあったんだよ」


「……そう、分かった。で、収穫は?」


「え」


「内容が話せないなら、結果を話して」


 痛いところを突いてきた。

 確かにそれなら問題ないだろう。言える範囲は限られるが。

 俺は慎重に言葉を選ぶ。


「そうだな……俺じゃどうにもできないってことが分かったぐらいかな」


「それって」


「みんなにも言ったが、どっちでもいいんだよ」


 この言葉に嘘はない。俺は俺なりにもう覚悟を済ませている。

 山路が辞めることに対して、俺の出来るだけのことはした。

 たぶん、誰よりも多くのことをしたと自負している。


「……嘘つき」


 そんな俺に、佐恵はまたエルボーを当てる。さっきより強く。

 何が気に食わなかったのだろう。

 そう視線を送ると、佐恵は真っ直ぐ前を見ながら言う。


「秀明はいつも誰かのために行動している。誰かを気遣って、誰かを励まして、誰かに発破をかけている。それが部活のためって私は知っている」


「……そんな殊勝な奴じゃないよ、俺は」


「どうして素直に助けてって言えないの?」


 何を思ったのか、そんなことを聞かれた。

 ちょっとだけ居心地の悪さを感じながら俺たちは歩みを止めない。

 気づけば俺たちはショッピングモールに出て、駅の方に向かっていた。


「今回助けないといけないのは山路だろ?」


「……バカ」


 俺の答えがお気に召さなかったのだろう。その端的な暴言が嫌に心に刺さった。

 悪いな、これが俺なんだよ。

 口の中だけで呟く。

 佐恵は一瞬、寂しそうに俺を見た。

 申し訳なくなった俺は露骨に話を変えた。


「さて、この後どうする?」


「……それは今日の? それとも今後の話?」


「どっちもだよ」


 丁度、駅に辿り着いた。このまま解散でもよかったが佐恵はどうやら違うみたいだった。


「とりあえず今日は()()()()ところ行こ」


「お、分かった」


「今後については、その後にゆっくりと考えるから」


「へいへい」


 目的の決まった俺たちは、路地裏の方へと向かって行った。


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