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第117話 誰の味方でいたいか

 翌日。

 俺は駅近くの駐輪場に自転車を止め、駅へと向かった。

 改札へと向かう階段を上ると、すでに先客がいた。


「悪い、待たせたか?」


「ううん、大丈夫。早く話したいし、行こっか」


 俺の質問に対して先客――増倉は笑顔で首を横に振った。

 そして駅に併設されているショッピングモールへと歩き出した。

 その横を付いて行く。


「なんか意外だったわ。増倉から連絡来た時」


「そう? まぁ、でも状況が特殊だしね」


「そうだな……」


「昨日、あれから香奈と話した?」


「ああ」


 歩きながら俺は昨日椎名と話したことを、言える範囲で答えた。

 ショッピングモールの中に入ると一階を進む。

 どうやら二階のフードコートではなく、一階のカフェに向かうのだろう。


「……そう、香奈的にも予想外だったんだ」


「増倉的にも予想外だったのか?」


「そりゃあ! ……って言いたいけどどうだろう。最近山路が部活張り切っていたのは気づいてた。なんかあるじゃないかなとは考えてたけど…………あ、ここでいい?」


 カフェの前に来ると、増倉が確認してきた。 

 俺が頷くと中に入っていく。それぞれ飲み物を買い、隅の方の二人席に着く。


「話したいことは山路のことでいいんだよな?」


「うん。まずはそれだね」


「まずは?」


「話したいことが一個とは言ってないでしょ」


「確かに……」


 なにその叙述トリック。

 が、俺としても山路のことで情報が欲しい。

 ここはあまりツッコまずに、話を先に進めよう。


「じゃあ、山路のことについて話すけど。杉野的には山路が辞めるのは阻止したいという認識でいい?」


「もちろん」


 俺は即答した。

 当たり前だ。それが今の一番の問題といってもいい。


「……どうせ香奈から聞かれていると思うけど一応、山路が全国目指すことに賛成的じゃなくても?」


「ああ、それでも俺はみんなで劇がしたいんだ」


 じっと俺を見る増倉。

 心の奥を覗かれているような感覚になりながら、俺は目をそらさない。

 数秒後。増倉は俺の覚悟を認めたのか、視線を下に落とした。


「杉野の意志は分かった。私も同じ。みんなで劇がしたい。このことで私と杉野は同じ。だからさ。協力しよう」


「協力?」


「そう、山路が何で辞めるって言いだしたのかを知るため。そしてそれを阻止するために協力しよう」


「……」


 一瞬、俺は考える。

 現状を鑑みればこの提案は喜ぶべきなのだろう。

 だが増倉は椎名が部長になる過程で障壁となる存在。それに力を貸していいのだろうか。

 それは椎名に対する裏切りじゃないのか?

 俺が悩んでいると増倉の顔が暗くなっていく。


「……やっぱり香奈の味方でいたい?」


「いや、その……すまん」


「いいよ……うん、じゃあこの話はなし!」


 増倉は元気よく頷いて笑顔になった。

 その空元気に申し訳なった。


「でもさ、情報共有はしようよ。それぐらいはいいでしょ?」


「……ああ。つっても出せる情報なんて」


「そっか……。樫田にでも相談してみる?」


「増倉、実はな……」


 冗談半分で笑った増倉に俺は昨日すでに樫田に相談していたことを話した。

 増倉は一通り聞くと真剣な顔になった。


「樫田は知っているってこと? 山路の辞める理由」


「口ぶりからはそうだろうな」


「樫田は俺には俺の立場があるって言ってたんだよね?」


「ああ、そうだけど……どうした? 増倉?」


「樫田の立場って何だろうね?」


 視線を俺からそらしながら、増倉は聞いてきた。

 立場。確かになんだろうか。

 演出家として? いや、違う気がする。

 なら――。


「山路の友達として、じゃないか?」


「じゃあ私たちみんなそうじゃん」


「そうだけど、なんていうかさ。樫田は樫田なりに山路のことを尊重しているんだよ」


「尊重? 辞めることに賛成しているってこと?」


 増倉の表情に怒りの色が見え始める。

 俺は慌てて訂正する。


「賛成じゃなくて尊重。たぶん、分かっているからこそ見える世界があるんだよ…………それに樫田が持ち越そうって言わなかったら猶予がなかったわけだし、賛成でもないんだろうな」


「……そうね。樫田は良くも悪くも中立って感じ」


 納得したのか、怒りの色が消える。

 増倉は飲み物を一飲みしてから、なんとなく聞いてきた。


「なんかさー。男子だけで話したりしたこととかないの?」


「まぁ、ゲームしたり遊んだりはあるけど……」


「山路の様子がいつもと違う時とかなかったわけ」


「そう言われてもなぁ」


 思い返すがあの時山路に気になるところはなかった。

 ゲームした時も引退式で必要なものを買った時も普通だったと思うけどなぁ。


「もう、これから春大会ってときに……」


 俺が考えていると、増倉がそんなことを呟く。

 あ。


「そういえば……」


「ん? なに?」


「あ、いや、男子しか知らかったことがあったなって」


「何!?」


「実はな。山路にオーディションで主役を狙うって宣戦布告されたんだよ」


「え……」


 俺の言葉に増倉が固まった。

 椎名に言ったから、もう知らない人いないだろうと思っていたけど増倉を忘れていた。

 増倉は何かを考えだした。

 これについては津田先輩にも考えるように言われていたんだよなぁ。

 結局理由が分かってないけど。


「ねぇ杉野」


「ん?」


「ひょっとして山路が辞めるのって、オーディションで杉野に負けたから?」



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