第3回(女子だけの)ファミレス会議『緊急招集!?』(上)
◆ 水無瀬紗弥 ◆
「はい兄さん、あーん♡」
「わかな、自分で食べられるって……」
私のクビが言い渡された翌日の朝。そんな仲睦まじい兄妹のやり取りを机を挟んで向かいに座り、味噌汁をずずずと啜りながら見せつけられる。
今朝の朝食は若菜ちゃんお手製の和を中心にしたもので、白いご飯に豆腐のお味噌汁、海苔にウインナー。そしてちょっと海外かぶれのスクランブルエッグ。
私が起きた時には既にキッチンでエプロン——というより割烹着のような前掛けを身につけ、ふんふんと鼻歌混じりに朝食を作っていた。
意外だったのは朝食が3人分用意されていたことだ。てっきり私は除け者として扱われるものだと思っていたのだけど、どうやら兄さん——天海くんの前ではいい子の妹を演じてるみたい。
私は若菜ちゃんにクビを言い渡されはしたが、私の雇用主は一応天海くん達のお父さんということになっているため、正式なクビではないのだけれど……。
どうやら若菜ちゃんは私に何もさせるつもりはないらしく、昨日からの炊事洗濯掃除ありとあらゆる家事を私を先回りするかのようにこなしている。そう、まるで兄さんのお世話はわたしがします。もうあなたは必要ないですよ。と、でも言わんばかりに。
実際、1年以上も一人暮らしをしていただけあって若菜ちゃんの家事スキルは大したもので、中学3年生にしては出来すぎている。私なんて中3の頃は洗濯機の使い方すら分からなかったというのに。
今も甲斐甲斐しく天海くんの世話を焼く若菜ちゃんは私の視線に気づいた素振りを見せると「お口に合いましたか」と微笑みかけてくる。
これ見よがしに見せつけてくれちゃってた癖に相変わらず素敵な性格をしているようで。
わたしが「ホント美味しいよ。レシピ教えて欲しいぐらい」と場を合わせると「そんな大したことないですよ。今度機会があれば教えますね」なんてありもしない約束を交わす。
我ながら思うけど、女子同士の小競り合いってほんとめんどくさい。
朝食を食べ終え、私と若菜ちゃんは紅茶。天海くんはコーヒーを入れてチルタイムを楽しむ。今日はいつにも増して夏が活気付いているため、アイスでいただきます。
各々スマホを片手にちみちみと飲み物に口をつけていると、突然何かを思い出したかのように声を上げた若菜ちゃんに私たちの視線が引き寄せられる。
「兄さん、今日ってこの後何か予定あったりしますか?」
「この後って昼以降ってことか? 特にないけど」
「ではわたしのお買い物に付き合ってくれませんか? 何せ1年以上も家を空けていたもので色々と必要なものが揃っていなくて」
「別に構わないけど——」
「では決まりです!」
天海くんが答えるや否や満面の笑みを浮かべ、腕に絡みつく。悔しいけどあざと可愛い。これで素があれじゃなければなぁ。
そして若菜ちゃんはまた何かを思い出したかのように「あっ」声を漏らすと斜向かいに座る私に首だけ向ける。
「ということで、わたし達帰り遅くなるので紗弥さんは先に夕食食べていてください。わたし達も外で済ましてきますので」
「え? そんないっぱい買い物するのか? なんなら
通販でも——」
言った天海くんの口を人差し指1本で若菜ちゃんが制する。
「女の子はそういうのに時間もお金もたくさんかけるんです」
ね? と、同意を求めてくる若菜ちゃんの笑顔に私は苦笑いで答える。というかこの計画っぷり、最初から全て計算ずくだったのでは。
そんな私の訝しげな視線に気づいたのか、若菜ちゃんは天海くんの腕に顔を埋めるように甘えつき、横目で私を見て口角を吊り上げる。
「楽しみですね兄さん」
私は今すぐにでもこの子の本性を天海くんに告げ口したい気持ちをぐっと抑え、その代わりにスマホでいつものグループに1件のメッセージを送信した。
『いつものファミレスに緊急集合!』




