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再投票の結果。




そして翌朝。まるで昨日を再現するように私たちは玄関ホールに集まった。

昨日と違うのは熱気より戸惑いの空気が強いことだろうか。


 不思議な緊張感をそれぞれ持ったまま時を待つ。そこへ学園長と教授たち、そして事務長がやってきて開票結果を貼り出した。


 吸い寄せられるように生徒たちが掲示板に押し寄せ、一斉に「あ!」と声を上げる。


「一位が変わってるぞ!」

「トップは自動馬車だ!」


 どよめきと歓声が沸き上がった。

 私も身を乗り出して結果を見る。


 新たな得票結果は金賞がぶっちぎりで自動馬車に。

 銀賞はしゃべる猫のぬいぐるみ。

 銅賞は私たちの箱庭オルゴール。

 四位が『駒が進む方向を赤いライトでガイドしてくれる初心者向けチェスボード』だった。


 しばらくして一部の生徒たちがざわざわし始める。


「コラスさんの作品は?」

「昨日は一位だったはずよ」

「夢色ドールは五位入賞になってるわ」

「それ以外の得票順位は前回と同じだ」 


 そう。フランセットのドール以外の順位は昨日と変わらない。一つ繰り上がっただけ。


 フランセットの作品だけが大きく票を減らした。その理由を求めて生徒たちは目配せしあい、自然とフランセットに視線が集まる。


 彼女は貼り出された結果の前でわなわなと震えていた。


「な……納得できないわ!」


 怒りで青ざめ、自分を見る周囲を睥睨する。


「こんなことっておかしいわ! 不正があったのよ」


 その言葉を受けて、学園長がフランセットの前に立った。


「学園長! 異議を申し立てます!」

「クリアスポットを通っての投票に不正はあり得ない。異議は認めない」

「あの魔法陣がでたらめだった可能性だってありますよねっ」

「コラスくん、今の発言は、魔法を学ぶ者としての無知を公言したに等しい」


 学園長は威厳のある態度で言葉を続けた。


「きちんと学んでいればあの魔法陣に不正の入る余地はないのが分かるはずだ」

「くっ……」


 フランセットはくちびるを噛みしめ、言葉に詰まる。


「一回目と二回目の結果、君の作品以外順位は変わらない。最初の投票時、君のドールが大量に票を集めた理由に心当たりは?」

「ありません」


 不正などしていないとフランセットはきっぱり言った。その言葉に学園長は頷いて続ける。


「私としてはその言葉を信じたい。だが同じようなことは過去に何度か起こっている。現在は使用禁止になっている魔術だよ」


 分かるかい?と学園長が生徒たちを見渡す。

 ざわざわと話し合う声がさざ波のように広がり、それが途切れた一瞬――。


「……魅了」


 一人の生徒がぽつりと呟いた。


「魅了?」

「まさか、どうやって?」


 他の生徒たちと同じように私もまさかとつぶやいてしまった。洗脳や魅了の術式は複雑で長い。

 不特定多数が気づかないうちに発動させるのは相当難しいはずだ。


 その疑問が口々に上り、全員の視線がフランセットへ向く。

 彼女は震えながら、首を何度も横に振った。


「私は、そんな魔法使っていません」


 自分に刺さる視線の鋭さに彼女は一歩後ずさる。


「魅了の呪文なんて知らないもの。使えるはずがないわ!」


 細く白い指が縋るものを求めて彷徨い、自らの片手を握りしめた。

 震え青ざめたフランセットに呼応するようにイヤリングも揺れて朝日を弾く。


「学園長! 魅了の魔法は呪文が長い。そんなものを唱えてあの場にいることはできないでしょう。何かの間違いでは?」


 一人の男子生徒がたまらずといったようにフランセットへ助け舟を出す。

 それに勇気をもらったのか、幾人の男子生徒がそうだ、そうだと同意した。


「確かに、コラスくんが呪文を唱えていたとは考えにくい。では諸君。呪文を唱えず、魔法を発動させることができるものは?」

「……呪符と魔法陣です」

「あとは魔道具だよな」


 再び生徒たちが疑惑の目でフランセットを見た。


「あの作品のどこかに魅了呪文を書いてたのか?」

「でも作品は教授たちがチェックをしたはずだ」

「ドールの内側に仕込まれていたらわからないわ」

「それはあきらかな違反じゃない」

「つ、使ってないわ!」


 フランセットは涙目になりながら、叫ぶ。


「私はそんなもの使っていない! 言いがかりはやめて!」

「コラスくん。落ち着きなさい」


 成り行きを見守っていた魔道具科の教授がフランセットにやさしく声を掛ける。


「私たちは君をつるし上げたいわけじゃない。潔白だと証明するために君の持ち物を見せてほしい」

「持ち物?」

「ああ、いつも身につけている物だ」

「いつも身につけているもの……」


 現状を受け入れがたいのか、フランセットは鸚鵡返しばかりしている。


「そう。たとえば……そのイヤリングとか」


 そう言われ、フランセットは両手で耳を覆い、駄々をこねる子供のように教授を見上げる。


「これはっ、母の形見なので、イヤですっ」

「そうか……。でも拒否すれば君の疑惑は晴れない」


 肩を上下させて絞り出すように言うフランセットを魔道具科の教授は痛まし気に気遣う。


「大丈夫だ、ゆっくり息をして。少し別室で休もう。……学園長、あとはお任せを」

「うむ、頼む」


 衆目に耐えられなくなったのか、教授に背を押されたフランセットがうつむいて歩き出す。


 いつもまっすぐに伸ばされていた背中は、小さく丸まり、幼い子供のようだった。






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