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Lucent Kingdom〜王子様に恋できない御身分〜  作者: 白湯
第一章*全力(マッハ)で花嫁修業を企てます
7/7

5*王女はつらいよ




 私はルナリア・メル・アズライト。

 あくまでも一国(アズライト)の第一王女だ。


 「何で改めて自己紹介から始めたの」って?


 それは今の私の身なりのせいである。


「シリル、どう?」


 全身鏡の前でくるりと一回転して見せる私を、シリルは瞬きもせず、ゆっくりと上下に見据えた。

 すると今度は、自身が掛けていた眼鏡をクイッと中指で押さえて、下から上に視線を戻す。

 ここまで返答はない。

 それからまた上から下に……って、しっかり見すぎ!


「し、シリル!」

「……え…あ、あぁ、申し訳ございません」


 まさに穴が開きそうなほど見つめられ、さすがに照れる。鏡越しに、ルナリアらしからぬ紅く染まる顔が映るから余計暑くなった。

 くぅ、相変わらずのふわふわ免疫力め……。


 だが、鏡に映り込むもう一人の顔も心做しか赤いことに気づく。

 あぁそうだ。シリルは照れ屋さんだった!

 おかげで、わざわざ誤魔化す必要はないんだ。

 これで女性慣れしてる人だったら、別の意味で私の命が(おびや)かされてたかもしれないが。



 気を取り直して「どうかな?」と振り返れば、シリルはより一層に赤みを帯びさせた顔で。


「っ…はい……『お帰りなさいませ、ご主人様』と玄関先で出迎えてもらいたいほど“そそる”ものがございますね」

「うん?シリル?」


 いや、なんちゅう感想!?

 おっかしいな。眼鏡の奥で琥珀色の瞳がギラついて見えるのは、気のせい?……うーん、まあいいや。ちょっと釈然としないが、細かいことは置いとこう。


 まず重要なのは、この変装がちゃんとルナリアとは別人に見えるかだ。


「それでシリル、」

「私は罪な男です。ホンモノのご主人様に向かって、ご主人様と言ってほしいなどと申し上げて……あぁなんと不敬なことを」

「シリ~ル?」

「どうか…お仕置きを……!」

「Cyril?」


(ダメだこの人、会話にならない!)


 しかしながら、事情を知るのは彼だけ。

 いざとなれば頼れるシリルだからこそ、お願いをしたのだから。……普段はちょっとアレですが。



 パウダーピンクの肩上までのウィッグで隠した、蜂蜜色ロングヘアー。それから、青い瞳はコンタクトで、金貨のようなゴールドカラーにチェンジ。

 服装は侍女ちゃんたちが着る黒のワンピースに、白いエプロン。

 最後にヘッドキャップを着けて、新人侍女ちゃんの完成です!

 これだけでも印象は変わるけれど、別人に見せるなら大事なのは演技力だよね。そこの自信はないんだけど、王女様らしく演技するよりはずっと楽な気がする。


 私がこんな変装をしている理由は、予定にあった“聞きこみ調査”のためだった。



 マリーがヒントをくれた「ルナリアらしさ」というワード。それを知るにはまず、私自身がルナリアを知ることだと思った。


 私の中でのルナリアといえば、言わずもがな悪役王女という固定概念が拭えなくて。

 そこで疑問に思ったのは、外から見たルナリアは?ってことだ。

 現状で、彼女は周りの人たちにどんな影響を与え、どんな存在で、どう思われてるんだろう。それが知れたらヒントになるんじゃないかなって。

 ちなみに……シリルやお父様は、今回は調査対象外にさせていただきました。

 もっと直接的な交流が少ない人たちに聞いてみたいんだよね。


 それから、さすがにルナリアが直接聞いては意味がない。


 「アタクシのことどう思ってるの?」バーン!

 「た、たた大変聡明でお美しく……」(ヒィッ!)


 ってイメージで完結してしまうからだ。

 威圧感が仕事して賛辞しか出てこなさそう。

 じゃあ、本音を探るには?


「えーと、その為の変装……という理由(わけ)ですか?」

「ええ。客観的意見は重要かと思って!」


 答えると、シリルは眉を顰めた。


「ですが……ルナリア様の悪評を述べる者など、近くに置いてはおけませんね。後で聞かせてくださいね?リストアップして陛下に提出致しますから」

「ヒッ!」


 そんなの提出したら、また大変なことになるじゃない!


 満面の笑みで言ってのけたシリルの提案は、当然ながら全力でお断りしておいた。

 シュン…と「それは残念です」って項垂れられても、ダメだってば。私の第六感が注意報を出しているんだから。

 何より侍女ちゃんに変装してるなんて、それもバレちゃったら面倒だから引っくるめて。


「とにかく…お父様にも、このことは黙っててね!」


 そう言いシリルを残し、私は部屋を出た。

 今日は侍女の“ルーナ”だよ!張り切って行きましょう!





 昼下がり。

 アズライトだって、真っ赤な太陽が西へ沈む。

 物思いに耽る暇もなく、そろそろ侍女ちゃんたちの休憩が終わる頃。私はそんなタイミングを狙って、居室から出てくる侍女ちゃんを呼び止めた。


「今、よろしいかしら?」


 快く「ええ。構わないわ」と答えてくれたのは、栗色の髪にモスグリーンの瞳がよく映える侍女のエマだ。


「今日から新しく入ったルーナよ。宜しくね」

 と、簡単に自己紹介すると後ろにいた子たち―――侍女のナターシャと、ライラも寄って来てくれた。


「入ったばかりだから色々教えてほしくて……特に、ルナリア様にはお会いしたことがないのよ。どんな方なのかなって」


 聞くと、エマは少し考える素振りをして、


「そうね。とっても厳しいお方だから、最初は大変かもしれないわ」


 微笑んで見せた。うーん、読めない。

 だが、赤毛ショートヘアのおてんば娘・ナターシャはニッと八重歯を見せて、


「……正直あたしは苦手だけど。そのうち慣れるさ!」


 って、ちょっとだけ本音を零した。

 やっぱ苦手意識あるかー…!

 言われてるのはルナリアのことだけど、少し胸が痛んだ気がした。そういうとこ、完全にルナリアの感情がなくなったわけじゃないのかな。


 続けて、ラベンダー色の上品なボブヘアのライラが答えてくれる。


「まさにワガママ王女様って感じね。人から恨みを買うタイプ。私もなるべく関わりたくないし、普段から目立たず過ごしてるの。それに、彼女は今孤独だろうから尚更。刺激しないことさえ覚えておけば、問題ないわ」


 と、的確な洞察力を披露する。

 孤独て!刺激て!同情されてる感はあるけど、私は猛獣かな?

 ……あれ?胸がズキズキするぞ。


 と―――、こんな感じで同じような質問を繰り返し聞いてく。



 普段は無口な庭師の青年・ゼルは、


「ルナリア様?」

 怖いくらいの真顔になりながら。


「……覚悟した方がいい。あれは人間じゃない。悪魔だ」


 それ以上は何も語ってくれなかった。



 “黒ひげ”こと堅物料理長・シルヴァは、


「雇用主側の悪い話はあまりしたくないが、あれは酷いものだ。救いようがない。……ま、慣れろ。それしか言えねぇ」


 嫌な記憶でもあるのか、眉間に皺を寄せて言う。

 残念ながらルナリアの記憶って、ご都合主義でできているらしく、全てのことを覚えてはいない。

 シルヴァに何をしてしまったのか、全く記憶に無いから歯がゆかった。



 金髪の副料理長・ガイに聞けば、


「シルヴァはココ長いし、昔っから苦労してるからね。俺も何枚お皿投げられたかな~。」


 肩を竦めて笑うが、目が笑ってない。


「あれはどキツイよ。できれば関わりたくないけど、そうもいかないしさぁ」


 他人事を装って「お、お気の毒に」なんて言ってはみるが、何だろう。徐々に罪悪感が募る。

 やだっ、幻のライフゲージが見える。

 これって耐久ゲームじゃなかったよね?


 察してはいたが、ここまででルナリアに対する良い評価は一つも出ていない。

 もしかして、この状況を良い方向に変えるのって、かなり難しいのでは?

 うぅ、頭が痛い……。


 こめかみを押さえていると、いつの間にか私の肩に誰かの腕が回っていた。

 顔を上げれば、ガイがニッと笑っていて。


「ね、それよりルーナちゃんだっけ」

「え?えぇ、そうですが…」


(……やっぱり、気になるなぁ)


 ルナリアがしたことは、記憶にないといえ代わって申し訳なく思う。

 だがそれと話は別で、さっきから“あること”が気になってしまった私は、言いたくてウズウズしていた。


「君どこから来たの?よかったら、この後―――」

「……副料理長?」


 つい、ピクリと眉が上がる。


(あぁダメ。抑えろ私っ!)


 って……ハッ!

 待って!?ここって厨房じゃない!

 そっか、だからか…………うわぁぁ。


 一人で納得するも、気づかなきゃよかった。

 やだな。こんな時に芽瑠(わたし)の性が出てくるなんて。



 芽瑠が通っていたのは調理師学校なんだけど、その時から周りに言われていたことがあった。

 それが、


 ―――『調理場に立つと人が変わるよね』。


 家でもキッチンに立つとスイッチが入るらしく、結果的にそのせいで父がキッチンに立つことは無かった。

 何よりタチが悪いのは、その間は無自覚ってことだ。


(~~~もうっ、ダメーッ!)


 やたらと絡んでくるガイの話を横流しに聞いていたのだが、そのうち我慢の限界がきて、バッ!と肩に乗る腕を振り払った。

 「…ルーナちゃん?」と少し怯んだガイを、私はカッ!と見開いた目で見つめる。


「―――その長髪!そのピアス!それから……その着崩し方!衛生面的によろしくないですわ。オシャレとナンパは厨房の外でお願いしますね。あぁ、料理長もですわよ。確かに淑女方からは、そのダンディなお髭がス・テ・キと評判ですけども、厨房にお立ちの際はもう少~しばかり清潔感を大事にしてほしいのです。それから………厨房(ここ)!前から気になってはおりましたが、やや乱れが目立ちますわっ!少しの乱れを嗅ぎつけて、あいつら…コホン。“闇の使い魔”たちはやって来るのです。ということですから、料理の質は厨房の質からですよ。いち、にの、さん、はい!料理の質は~?厨房の質!!」


(ふぅ~、スッキリ!)


 カンカンカン!と脳内でゴングが鳴る。

 言いたいことを言い終えた私のライフゲージも、すっかり満タン元通りに戻ったみたい。

 あれはストレスゲージだったようです。


 「では私はこれで」と身を翻し、私は厨房を後にした。

 あれ?何かやらかした気がするけど。

 ……まあいっか!さすがに、ルナリアが変装してるなんて誰も思わないよね。




 さて、今日一日だけでもキレ~イに悪評ばっかりだったのですが。


「つ、疲れた……」


 自室に戻り、ウィッグとカラコンを取って、そのままベッドにダイブする。

 ギャッ!?痛い!

 脇腹のこと忘れてたよ!わーん、ちょっと涙出てきた。



 ルナリアらしさ。

 結局、誰に聞いても一緒だったなぁ。


 関わりたくないとか、猛獣とか、悪魔とか。

 最初っから決まってた悪役のままなのかな。


「……いっそ“悪役王女”らしく、おどろおどろしい魔女みたいなものにしちゃおうかな?」


 半ば自暴自棄だ。どうせ変えられないなら、お茶会クラッシャーにでもなっちゃおうかな。なーんてね。


 …………ん?


 待って、悪役王女……?



 ―――思わずガバッ!と起き上がる。



「~~っ、だから痛ぁいッ!」


 悪役王女らしく。

 その時、頭の中に降りてきた一つの考えには自分でもちょっと戸惑った。


 これは……アリ?

 でも、やってみる価値はあるかもしれない。


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