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第1話

 

その角を右に折れ

ひたすらに坂道を登れば

小さな白い教会がある。


その教会から見下ろされる形で立ち並ぶ

住宅街のうちのひとつに

ありすの家があった。


レンガ塀に囲まれた洒落た造りの家で

花を愛する母親の手によって

庭には季節ごとに様々な花が咲き乱れ

門柱を伝う蔓薔薇のビビッドレッドが

晴れた日には美草の芝生に美しく映え

訪れた人の目を愉しませてくれた。


ありすは小学校卒業と同時に

この町へとやってきた。

これといって特別なものはなにもない

小さな町だったけれど


時折風に乗り運ばれる潮の香りは

ありすに海が近いことを教えてくれ


自転車に乗って一人で

その海を探しに秘密の冒険に出たあの日から

ありすはこの町がとても好きになった。




その海でありすは

小さな仔猫を拾った。



夕凪に全ての時が止まったかのように

暮れ泥みはじめたあの日の海。


真昼にも出ていた月が

身体を起こすようにして淡く銀の光を放ち始め

やがて訪れる闇を前にして

その分身を海へと投じては

ゆらゆらと頼りなく水面を漂っていた。



ふと、ありすは 波打ち際に

小さな丸い毛糸の塊が

波に弄ばれるように

身を任せようとしているのを見つけたのだ。



おそらくその日、晴れていなければ

沈む陽は其処に影を作らずにいただろう。


月はそれを照らし出しはしなかっただろう。



ありすが波打ち際へと駆け寄り

その毛糸玉が実は仔猫だと知った時


海へと確かにジュ・・と音を立て

夕陽が溶け落ちるのを見届けるように

再びに吹き始めた風は

少し冷たさと強さを増して


伸び始めたありすの髪に

まるで引き戻れと云わんばかりに

執拗に纏わりついていたことを


ありすが思い出したのは

もっとずっと 後のこと。






薄汚れたその猫は瀕死の状態で

何日もなにも口にしていないのか

骨と皮だけになった腹はしかし

ひくひくと小さく動いては

ありすに「生きているよ」と訴え


懸命に振り絞るように

喉元から小さく漏れた息が

「にゃぉん・・」と憐れな仔猫の声を

ありすの耳へと届けたのだった。




それが リジェ。




小さな仔猫がありすの元へ

初めてやってきた瞬間だった。







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