第31話 ハナさん
母星系に戻ってから10日ほどで帝都に到着する。
フクオカもニャルローレッドに戻り、同棲生活は解除されていた。
そんな中、急にハナから通信が入る。
「フクオカ中将、至急相談したいことがある。
直接話したい。悪いが私の私室まで来てくれないか?」
「承知しました、険しい顔をされてますが、何か緊急事態ですか?
急ぎ向かいます。」
フクオカが軍用ビークルで急いでメルローニャに向かった。
幹部以外入れない、司令部奥、ハナの執務室。
ノックをして、許可を受け部屋に入る。
「失礼します。……うああぁ!?な…何しているんですか!?提督!!」
ドアの前で目をつむって口を突き出してるキス準備万端のハナ。
「み……見てわからないか?
今日はクリスマスイブだ。こういうことをしてもいい日なんだ。
キスしてもいいぞ?」
(おい!死ぬほど恥ずかしい思いしてるのに、焦らすな、バカぁ!!)
「……。はぁ……。
提督、良いですか?
イブだからと言って職務中にこういうことして良いわけないじゃないですか!
ほんとにもう。用がないなら僕は帰りますよ!」
(や……やばい……。
あまりの破壊力に心臓が口から飛び出したかと思った……。
ハナさんらしいと言えばそうだが……。
ポンコツは予想がつかない行動をとるから困る……)
「え?あ……ごめん……でもその……。
フクオカ君がクリスマス前に、自分の船に戻っちゃうから悪いんじゃない!
別にこの後でも良かったのに!」
(ハナさんが、こういうことをしそうだったから、戻ったんですっ!)
「もうニャニャーンは近いんです、仕方ないでしょう?」
「ねぇ、フクオカ君、……もう帰るの?」
「……。わかりましたよ。
確かに今帰ると燃料の無駄遣いですね。
じゃあ、その用意してあるケーキとシャンメリーだけはご一緒に頂きます。
それでよいですか?」
「あ……!うん、ちょっとそこに座って待ってて。
今から用意するから!」
ハナは小走りで奥へと消えて何やら準備をしにいった。
(フ……悪くないな、こういうのも。)
「ハナさん、メリークリスマス!」
そう呟いたフクオカは、先ほどのキス顔で動揺していたのかもしれない。
鉄壁の意志で封じていた、名前呼びをうっかりやってしまった。
(……あ、しまった!?
あれ?ハナさん。奥で舞い上がってて聞いてない。
良かった……。
くそ!あんな最大威力で攻撃してくるからだ。
さすがにあれは9艦隊の包囲以上に心臓にきつい!)
戻って来たハナをフクオカは微笑んで受け入れた。
満面の笑み、二人は甘い恋人気分を味わった。
(来年は……もっと違うクリスマスをおくれるかな?)
(来年は……もっと違うクリスマスをおくれるかな?)
同時に…そして見事に思考ハモりした。
・・・
・・
年明け、第7艦隊のために、立派な祝勝会が開かれた。
三人はこの武勲により、第一等勲章である”ニャニャーン皇星勲章”を神聖皇帝から直々に授与された。
生きている内に叙勲した者は数えるほどしかいない名誉ある勲章だ。
また、新たに新設された名誉勲章”零七光章”も授与された。
盛大な拍手に包まれる。
ハナ、フクオカ、エルミナは多数の貴族軍人に囲まれ、その武勇伝が皆を沸かせた。
個別に軍務大臣や司令長官からも呼び出され、労いとお褒めの言葉を頂戴した。
宴も終盤になって、ようやく熱気が冷め始めた。
ハナの傍にフクオカが近づいて、飲み物を渡した。
「やっと解放されましたね。」
「えぇ、主役になったのは初めて。」
「はい。ですが、提督は堂々とされていましたよ。」
「フクオカ君もね。」
「あっ。そうだ。提督、あの約束覚えていますか?」
「約束?」
「はい、この戦争から帰ってきたらって。」
「あぁ、プロポーズしてくれるってやつ!?」
「ち が い ま す!水族館デートのことです。」
「あぁ、そうね。水族館ね。楽しみ。いつがいい?」
「再来週の土曜日でいいですか?」
(再来週?ふふふ、フクオカ君もリサーチに必死ね。
私もレベルアップしたから、そんなのお見通し!
でも、まぁ、フクオカ君の事だからばっちり計画立ててくれるでしょ!
最高の水族館デート、どうなるか楽しみ!!)
「もちろん!」
「よかった。実は用意してたプランがあって。
楽しみに待っていてください。」
「え?大人の階段?」
コツンと頭をこつく。
「提督、エルミナに毒され過ぎです。
でも、楽しみにしていてください。」
「うん。」
・・・
・・
そしてデートの当日。
ハナは30分も前から緊張して待っていた。
フクオカも20分前に訪れたが、待たせてしまったことで渋い顔をする。
「ハナさん、すみません。お待たせしました。」
「いや、大丈夫。今来たとこ………あ?!
さっき名前呼んでくれた?!」
「はい、ちょっと今日はハナさんに伝えたい大事な話があって。
何で?って顔してますね。
ポンコツの割には少しは勘が良くなりましたか?」
「まっまっまっまっまっまっまさか大将になれた!?」
「いや、確かに僕は今もまだ中将ですよ。」
(え?どういうこと?!単に名前を呼びたくなっただけ?え?え?)
「でもね、実はあの祝勝会で司令長官から大将昇格と提督就任の内示を受けました。」
「あ!?あーーー!!!!ああああーーー!!おめでとう!!本当におめでとう!!」
「実は即蹴りましたけど。」
(はぁ?!!?!! おい!!結婚は?!プロポーズは!?)
「ますます『何で?』って顔をしてますね。
大将に昇格したら提督になります。
提督になったら別艦隊を率いることになるかもしれません。」
少し優し気な表情で、それでいて真面目にハナの目を見つめるフクオカ。
「そんなのは嫌です。僕は常にハナさんの艦隊の左翼副提督です。
あ、でも僕は大将格ですよ!
実質中将ですけど大将になる資格は認められたんですから。
だからこれからは敬意を払ってくださいね、同格なんですから!」
ポカーンとするハナの前にゆっくりと跪いて、ハナの手を取った。
「ということで・・これを受け取って欲しいんです。」
大将に相応しい立派な装飾がなされた小さな箱。
フクオカの手が震えている。
そしてハナの手も。
彼の指が、優しくハナの薬指に触れる。
冷たい金属の感触。
そして、彼の温もり。
(あ……)
ハナの目から、涙が溢れた。
「返事は………聞く必要もなさそうですね。
なんて顔しているんですか。
銀河に轟くニャニャーン神聖帝国将兵1万人の頂点に立つ者のする顔じゃないですよ。」
そして立ち上がってハナに顔を寄せて優しく伝える。
「とにかく僕と結婚してください。」
ハナはフクオカを強く抱きしめた。
「よろこんで……!」
「………フクオカ家へようこそ。歓迎します。
姓も今までの環境も全く何も変わりませんが。」
フクオカはゆっくりとハナを引き剥がした後、彼女の感動の涙を優しく拭き、キスをした。
再びハナが強くフクオカを抱きしめる。
そして、二人がそっと唇を離す。
フクオカが安堵の表情を浮かべた。
「はぁ、やっと言えた。緊張しました。
実はずっとこの事で頭がいっぱいで。
水族館デートのこと、何も考えてきてません。
今日は大失敗するかもしれません。」
意地悪そうに笑う。
「失敗でもいい!
今日はね、プロポーズだけでお腹いっぱい。
それにね、初名前呼びと初チューもらったもん。
これも凄い嬉しい。」
「そうですか。」
(ハナさん、名前呼びとキスは実は2回目ですよ。)
「じゃあ、適当に回りますか!」
「うん!!
ね?聞きたいことあったの!」
「はい、何でも答えますよ。」
「いつから?いつから私のことが?」
「………。初めて見た時、一目惚れです。」
「あはははは………そうなんだ!!」
飛び切りの笑顔。
「実は私もっ!!!」
~~~
~~
これにてポンコツハナちゃんの恋は終幕です。
ありがとうございました。
最後に――
第7艦隊のその後をお話しします。
エルミナは?もちろん幸せになりました。
レイヴを尻に敷いているかもしれませんね!
彼女も大将昇進の内示を蹴りました。
「私はハナちゃんの参謀長だから」と。
結局、その後も第7艦隊は活躍し続けました。
そのため、二人の功績も高くなりすぎて、5年後には断り切れず大将に任命されました。
でも、大将3人が1つの艦隊に所属する、歴史上稀に見る伝説の艦隊となりました。
そして、教科書にも載るような帝国の守護神――第7艦隊が現役の間、ジソリアンは二度と侵攻してきませんでした。
(この3人が揃った第7艦隊だからこそ、ジソリアンとの平和が保てる。
これが総司令部の1艦隊に3人の大将を所属させた理由です。
もちろん、二人がいつまでもハナの部下であることを望んだからもありますけどね!)
つまり――
なにもかもハッピーエンドです!
そういえばですが……。フクオカ君の名前ですか?
内緒です。
あなたの大事な人の名前か、あなた自身の名前を当てはめてみてください。
だって、ここまでついてきてくれた――あなたの物語ですもの!
ー完ー
【あとがき】
作者子ちゃんです。
『ハナちゃんのポンコツの恋』完結まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この作品は、私の中で最高傑作です。
起承転結を大切にし、伏線を丁寧に張り、すべてを回収する。
そんな「正統派の物語」を書きたいと思って、最初から最後まで構成を練りました。
序盤はゆっくりとした展開ですが、中盤からの怒涛の展開、そしてハッピーエンド。
ハナとフクオカの不器用な恋を、最後まで見守ってくださった皆様に、心から感謝します。
特に、連載開始からずっと投稿と同時に呼んでくださった方々には本当に支えられました。
あなた方の存在が、私の執筆の原動力でした。
この作品が、書籍化やアニメ化という形で、より多くの方に届くことを夢見ています。
そのためにも、口コミやSNSでのシェア、評価やブックマークをしていただけると嬉しいです。
本編は完結しましたが、感想はいつでもお待ちしております。
「ここが好き」「このシーンで泣いた」など、どんな感想も励みになります。
続編やスピンオフ(エルミナとレイヴの物語など)も構想中です。
その時はまた、よろしくお願いいたします。
改めて、本当にありがとうございました。
作者子ちゃん




