無差別テロ
突然の事態に、人々は混乱する。ある者は泣き叫び、ある者は逃げ惑い、またある者は恐怖で動けなくなっている。武装集団を率いるのはネオだ。連中の親玉を狩れるのは、また別のネオしかいない。しかしこの期に及んでもなお、江真は迷っている。傍目から見ても、伴造の信者たちに説得が通用しないことは明白だろう。それでも彼女は、彼らを見捨てる覚悟を決められないのだ。
そんな彼女の目の前に、一人の少年が現れる。
「ずいぶんと意地を張っているね、江真」
――ジャドだ。多くの人命が脅かされている今でさえ、彼はいつものように飄々とした態度を見せている。やはり彼には、人間の常識など通用しないのだろう。そんな彼に理解されることなど、江真は微塵も期待していない。それでも彼女は、己の正義を語る。
「奴らは自らの意志で戦っているんじゃない! 悪徳な教祖に操られているんだ! 弱さゆえに命をもって贖わなければならないなんてことが、この世にあって良いはずがない!」
確かに、彼らは根っからの悪人ではないだろう。否、彼らは皆、偽りの正義を盲信させられている身なのだ。しかし、江真が戦わなければ人命にかかわることもまた事実である。
「フフ……見ものだね。君の正義が、どれほどの命を奪うことになるか」
そう言い残したジャドは、煙のようにその場から消えた。
自衛隊が駆けつけたのは、それから間もないことだ。隊員たちは必死に銃を乱射していったが、それでも市民を守りきることは出来ない。何人かの信者の脚を狙撃することは出来ても、伴造の放つ炎から人々を守ることまでは出来ないのだ。そんな光景を前にしてもなお、江真は迷っている。今この場で伴造と戦えるのは、別のネオしかいない。
「派手にやってるじゃねぇか、川島!」
玲玖の登場だ。彼女は全身に炎をまといつつ、仁王立ちをしている。そんな彼女に向かって、伴造はすぐに光線を放った。玲玖は炎を帯びた拳を振るい、その光線を打ち消す。両者の間には、見えない火花が散っていた。
「江真は戦えない。オヌシ一人で、このワシを倒せると思っているのか?」
そんな問いを投げかけた伴造は、自信に満ちた笑みを浮かべていた。その目線の先では、玲玖もまた不敵に笑っている。
「愚問だな。アンタみてぇな耄碌ジジイにはわからねぇだろうがな、アタシには成長の余地があるんだよ」
「大した自信だが、無謀だな。それがオヌシの遺言にならないことを祈ろう」
「ふん……年金で細々と生きる道を選ばなかったことを、あの世で後悔しな!」
彼女は瞬時に間合いを詰め、業火を放った。伴造は咄嗟に炎の壁を生み出し、己の身を守る。次に彼の眼前に迫ったのは、玲玖の拳だ。この一撃を受けた伴造は宙を舞ったが、その表情は依然として余裕に満ちている。
「なるほど、少しはやるようだ」
すぐに体勢を整えた彼は、即座に眼前の標的に飛び掛かる。二人は巧みな体術を繰り出し、拳を交わしていく。その実力は拮抗しており、玲玖の成長が嘘ではないことを物語っていた。
その時、玲玖は何かに気づく。
「なぁ、川島。今回は、ここらで切り上げておかねぇか?」
そんな提案をした彼女は、建物の影へと目を遣った。その視線の先に身を潜めていたのは、泰守である。その事実に気づいた伴造は深いため息をつき、彼女に同意する。
「賢明な判断だ。ワシらのうちどちらが勝とうと、戦闘で満身創痍になっている身で『あの男』に狙われたら話にならない。また会おう……御剣玲玖」
そう――泰守が漁夫の利を狙っている以上、この戦いを続けるわけにはいかないのだ。
「撤退だ! 教会に戻るぞ!」
伴造は武装集団に指示を下した。彼は信者たちを引き連れ、その場を去る。その後に続き、玲玖も己の事務所へと帰っていった。




