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神の名のもとに

 数日後、江真(えま)は街を練り歩いている最中、カメラとマイクを持った集団に取り囲まれた。彼らに戦意はなさそうだが、これが彼女にとって未曽有の事態であることに変わりはない。唖然とする彼女に構わず、取材班たちは次々に質問を投げかける。

「貴方が最上(もがみ)さんですか!」

「ネオという種族がいるようですね、カメラに向かって炎を操ってみてください!」

「人類は劇的な進化を遂げ始めているようですね!」

 おおよそ、彼らの言葉は彼女に肯定的なものだった。しかし江真は、ネオとなったことで何かを成し遂げた実績がない。

「そんな大それたものではないよ、私は。どんな力を持っていても、それを正しいことに使えなければなんの意味もないんだ」

 その返答は謙遜のようでもあり、自嘲のようでもあった。しかし取材班が取り上げたいのは、彼女の正義感などではない。

「それより、見せてくださいよ。炎を操る力を!」

「そうですよ、お願いします!」

「しっかり撮影しておきますよ!」

 こうなれば、彼らが止まることはないだろう。江真は苦笑いを浮かべ、カメラマンに見せつけるように炎の球体を生み出した。その場は歓声に包まれたが、彼女一人の心は満たされない。


 自分は賞賛に値するような人間ではない――彼女はそう感じた。彼女の自信は、数々の苦難を経て打ち砕かれてきたのだ。


 同じころ、ケテル教の教会には、五人の男が乗り込んでいた。彼らは銃を乱射し、次々と教徒を射殺している。これはまさしく、和治(かずはる)が計画していたことである。その奇襲に対応できる者は、この教会において一人しかいないだろう。

玲玖(れく)の差し金か……!」

――伴造(はんぞう)の登場だ。彼は炎の球体を五つ生み出し、それを標的めがけて降り注がせた。被弾した刺客たちは急所に小さな爆発を受け、その場で崩れ落ちる。彼らはもう、息をしていない。一方で、彼の教徒もまた、すでに何人か射殺されている。この事態を重く受け止め、伴造は悩んだ。そこで彼に助言をするのは、ケテル教徒に扮した債務者――玲玖の仕向けた別の刺客である。

「教祖様、もう戦うしかありませんよ」

「ほう」

「世間から見た我々は所詮、胡散臭い新興宗教です。ならば我々の力を見せつけましょう。世の人たちに、鉄槌を下しましょう」

 この一人に続き、他の潜入者たちも同調する。

「そうですよ! そうですよ! このまま弾圧に怯えて生き続けていたら、世の子の思うつぼです!」

「我々の――家族同然の仲間が殺されたのです! 今はもう、武力を行使するしかありません!」

「輪廻を解脱するための救済を行いましょう!」

 彼らは皆、玲玖に指示された通りに動いている。後は、伴造がテロを計画すれば和治の思惑通りである。


 伴造は深いため息をつき、決断を下す。

「良いだろう――我々は神の啓示に基づき、世の者たちに鉄槌を下す!」

 全ては和治の構想通りだ。彼の下した決定により、教徒たちの士気が高まる。

「うおお! 教祖様! 教祖様! 教祖様!」

「教祖様! 教祖様! 教祖様!」

「我らが神の名のもとに!」

 闘志に満ちた大声が、教会を包み込んだ。彼らは伴造への信仰心を高めていった末に、いよいよテロさえも正当化するようになったのだ。


 伴造は祈りの構えを取り、宣言する。

「もっと直接な表現をしよう! これから我々は、無差別テロを仕掛けていく! ケテル教の力を、この世に知らしめる!」

 もはや彼の信者たちは、誰一人として怖気づいていない。その眼差しに宿しているのは、世間に対する純然たる敵意だ。



 数日後、伴造の率いる武装集団は、とある繁華街へと赴いた。

「やれ!」

 教祖の一声を皮切りに、信者たちは一斉に射撃を始めた。路上に転がる一般市民の亡骸は、噴き出る地で辺りを染めていく。


――その光景はまさしく、死屍累々だ。

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