ボクに君を教えて その1
「私達の事を知りたい……ですか?」
「ああ、ベルナが最近今までと違って楽しそうに話をしているからね。ボクも知りたくなったからさ。」
「その……お言葉ですが、私達を知って、何になるのですか?リジャール王子殿下にとって、良い事が何かある……とは、思えないのですが……。」
「良い事、か。確かに物事のメリットを考えるのは大事だけれど、そればかりを考えるのは少々感心しないね。物事というのは時に利害を超えた関係という時も存在するものだからね。でもまあ……今回については、ボクにもメリットがあるんだ。」
「というと……?」
「もし、ベルナの害になるような関係性ならば、ボクも関係に介入出来るし、寧ろ良い関係性を持っているのならば、将来の学園生活の参考にもなる、所謂社会勉強さ。」
「なる、ほど……?」
リジャール王子の言う事の、前半は王家としての理由、といった所であろう。
そしてそれに対して後半の理由は、リジャール王子個人の理由であろう。
つまり、事実としてベルナの数少ない友人には悪い噂が立っている令嬢ばかりだから個人の真贋を確かめたい。
もし良い友人関係だと判断出来るなら、リジャール王子の将来の為の勉強として関係性の作り方のサンプルとして見る、といった所であろうか。
なるほど、つまりは自己紹介をしてほしい……という事だ。
一見断る理由は無い……が、気になる所はある。
まず、介入すべき関係性、という物がいまいちわからないという事。
私達……特に、私は何かを指摘されるような事をしてはいない……と思う。
だが、ウルティハとエスセナはどういう事をやっているかわからないから不安だ。
ティエラは問題ない……と思うが、もしかしたらベルナへの依存のしすぎを咎められるかもしれない。
……何が地雷になるかわからない、と考えると、私も確実に安全、とは言えないのかもしれない。
後は、ソルスの事だ。
もし……万が一にも、だが。
この中で誰かをリジャール王子が気に入ったりするような事があったりすると、今後ソルスがリジャール王子のルートに入らない可能性が出てくる。
アルくんルートに入る可能性も現状低そう、そしてジュビア先生のルートも、正直怪しいというかジュビア先生に変化が大きすぎて読めない、という感じだ。
誰のルートにも入らない……なんて事になるわけには行かないだろう。
そう考えると、今一番可能性が高いのはシャル王子……リジャール王子ルートだ。
まあ、何故か私が既にリジャール王子と会っている時点で大きな変化がありまくっている気もするのだが……。
不確定要素をこれ以上増やし続けるわけにもいかない。
ならば、角が立たない程度に無難に済ます……という所が妥協点か。
「わかりました、満足の行く答えになるかはわかりませんが……私達にお答え出来る事なら可能な限りお話致しましょう。」
「おお、ありがとう!じゃあ、そうだね……ジュビア教師殿、確か貴殿がこのクラブの顧問教師、という話だったね。誰から話を聞いたら良いかな!?」
「そうですね……では、まずはベルナ嬢と一番近くに居るであろう、ティエラ嬢から話を始めるのは如何でしょうか。」
「アタクシですわね!お任せくださいまし!」
「君がティエラ嬢か!ベルナからも君の話は一番聞いているよ、最近自分に良くしてくれているご令嬢が居る、と、流石に聞いたよ。」
「まあ、ベルナ様からお話して頂けるなんて、この身に余る光栄ですわ!」
ティエラは立ち上がり、その場で一礼する。
「改めまして、アタクシはティエラ・バレンティアですわ!バレンティア家は近年宝石採掘や宝石の商売によって貴族の地位を頂きましたから、あまり聞き馴染みの無いお名前かもしれませんが……。社交界でベルナ様に色々と教えてもらって以来、アタクシはベルナ様に尊敬の念を抱いておりますの!ですので、将来は宝石業務で鍛えたこの身体を活かして、ベルナ様やリジャール様をお守りする騎士として活躍する為、そしてベルナ様のお傍に立っても恥ずかしくない貴族令嬢を目指して日々邁進中ですわ!おーっほっほっほっほ!」
「なるほど、ベルナの指導で社交界に立てるようになった、か……まさかベルナが、知らない間にそんな事をしていたなんてね……済まないね、ベルナ。ボクは君をもっとちゃんと見ているべきだったようだ。」
「……いいえ……貴方様は、悪く、ない……。」
「そうですわ!寧ろ、ベルナ様に懇意にしていただいているにも関わらず、もっと早くリジャール様にご挨拶すべきでしたのに遅れてしまった事、誠に申し訳ありません!もしリジャール様がよろしければ、リジャール様がお使いの剣に使う宝石の装飾に使う宝石をこのバレンティア家が上質な物を選定したり、後々には結婚式で使う指輪などの宝石の選定もさせて頂きますわ!」
「おっと、流石は宝石商売で貴族になったご令嬢だ、王子であるボクにも宝石の売り込みをするなんてね。」
「はっ……!?も、申し訳ございません!アタクシったらつい癖でうっかり……!」
「いやいや、構わないよ。寧ろその胆の強さ、ボクとしては頼もしいと思うくらいだ。それに、さっきから君はだいぶ頑張って話しているみたいだし……そう肩肘を張らなくとも構わない、と言いたいけれど、きっと君にとってはその一生懸命さこそが君の美徳であり美点なのだろうね。」
「い、いえそのような……でも、あ、ありがとうございますわ!」
ブン!と空気の音が鳴るくらいの勢いで赤い顔で頭を下げるティエラ。
凄いな……と思わざるを得なかった。
今出会ってすぐのティエラについての大体の性格をすぐに把握し、その美点を自然に褒める。
これは、簡単に出来る事では無い。
なるほど、これがパッケージキャラのコミュニケーション能力……これが爽やかな春風のような王子の技量か……と思わざるを得ない。
「まあ、またこれから細かい話は今後、学園などでもするとして……次は、そうだな。ジュビア教師殿は誰が良いと思う?」
「先生。」
「ん?どうかしたかい、マルニーニャ嬢。」
私はばっ、と手を挙げる。
ならば、と私にも思う事があったのだ。私は口を開く。
「良ければ、私は四人の中で最後に話してもよろしいでしょうか?……もちろん、先生やリジャール様がよろしければ、の話ですが。」
「うん……?ふむ……次はマルニーニャ嬢に自己紹介をしてもらうつもりだったのだが……リジャール王子殿下、マルニーニャ嬢のこの申し上げ、聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」
「構わないよ。むしろ、ボクが無理してここに来てもらったわけだからね、ある程度の自由は元から与えるつもりだったからね。……それに。」
「……それに?」
私の方を見て、ふふ、と楽し気にリジャール王子は笑う。
「ただ恥ずかしいからとか気後れして先を譲っているようには見えないからね。……何か、考えている事があるのだろうから、ボクもそれに乗るとしようじゃないか。」
「……そうなのかい?マルニーニャ嬢。」
「はい、そうですね。……では、リジャール様のお言葉に甘えて。寛大なご対応、誠にありがとうございます。」
「構わないよ、その分すこーし、マルニーニャ嬢には期待してしまうかもしれないけれどね。」
ぱちっ、とウインクしてこちらに応えるリジャール王子。
……ある意味では、この人も良い性格と言えるのかもしれない。
まあ、それはそれとして、だ。
私も何と答えるかしっかりと考えなければ、と気を引き締めるのであった。
爽やかさと聡明さを書くのって難しいなあ……と思いながら書いています。バランスって難しいですね。




