到着、海の観光都市シレーナと、大女優エスセナ
『いよいよですね、マルニ様っ。』
「ええ、そうね。本当はソルスを特別に招待したい所だったけれど……流石にそうは行かなかったわ、ごめんなさい。」
『わ、私は何も協力とか出来てないから当たり前ですよっ、謝らないでくださいっ。』
「まあ、確かに直接何かをしたわけではないけれど……。」
ある意味この我儘は私の悪役令嬢らしさなのだろうか、それとも単純に私が執心しすぎているのか。
まあ多分後者だとは思うけれど、今だけはちょっとだけ悪役令嬢の我儘という事にしておこう、
今は、そんな気分なのだ。
ちょっとだけ振り回したいような、甘えたいような。
そんな事をソルスが知ってしまったら、嫌われそうでちょっと怖いけれど。
「でも、それくらいソルスが私にとって大切なのは、分かってくれてたら嬉しいわ。」
『そ、それはもちろん!というかむしろ光栄ですっ!でも幸せすぎて困っちゃいますぅ~……!』
「あら、それはごめんなさい。でもそんな困った所も可愛いからついいじわるしたくなっちゃうわ。」
『そんなぁ、いじわるは困っちゃいますよ~っ!』
「うふふっ。冗談よ。」
うるうるとしたソルスの顔が思い浮かぶ。
それを想像してついいじわるな笑みが出てしまった。
いけないいけない、泣かせてしまうわけにはいかないから。
どうにも最近はソルスと会えてないからか、ソルスと話す時はつい令嬢モードの仮面が剥がれそうになる。
ストレス、とまでは行かないが、気持ち的な理由もあるのだろう。
『でも、本当に上手くいくといいですね……もしコミエドールでもマルニ様達が作った……映画?が見れたら、私は凄く楽しいと思いますっ。』
「ええ、そうね。私達の、特にエッセの将来の夢がかかっている事だもの。……後は作業を済ませて、しっかりと発表するだけだけど……最後まで手は抜かないわ。」
『マルニ様がシレーナに行ってる間は話せないのは寂しいですけど……良い報告を待ってますからっ。』
「ええ……やれるだけ、やってみせるわ。……じゃあ、そろそろ。おやすみなさい、ソルス。」
『はい、おやすみなさい、マルニ様っ。』
それから時間は四週間程経ち。
場所はシレーナ。
シレーナに来たのは私とフレリスは初めてだ。
故郷であるエスセナはもちろんウルティハもシレーナに何度も来た事があるが、ジュビア先生も歴史研究やシレーナ出身の学生の為に来たりしていたらしい。
インフロールの時もそうだったが、観光都市のシレーナに来るときの私達の気分は内心はおのぼりさんだ。
私はシレーナに向かう道からすでに……特に海の観光都市シレーナらしい綺麗な青い海の素晴らしさと、コミエドール以上に発展し、またインフロールとは違う発展をしたシレーナの都市の姿に目があっちこっちに移っていた。
「エッセ、あれは何かしら?」
「あれは観光船用の港だね、コミエドールには海って無かったっけ?」
「あるにはあるけどあまり行く機会が無かったし、観光用の港なんて無かったわ。」
「ああ、なるほど。まあ大体の海がある所は海産物の為か娯楽用でも大体海水浴の為の物がほとんどか。」
「ウルティ、あれは何かしら。」
「アタシ様にも聞くのかよ。あれはシレーナの図書館だよ、デザインにも凝った建物だから一目で図書館って分からないのはまあ理解できるわ。」
「なるほど……そういった名物のような物も少ないコミエドールにもそういう物を建設出来たら良いかもしれないわね……。」
「お嬢様、あっちこっち見すぎですよ。私はメイドですが、お嬢様は貴族令嬢の身分。新しい物に目を輝かせるお年頃なのはわかりますが、もう少し落ち着きという物を持って行動された方が良いかと。」
「フレリス……そうね。少々はしゃぎすぎたかもしれないわ。」
「理解が早くて助かります、お嬢様。ところでお嬢様、あちらにクールキャンデーのお店を発見いたしました。コミエドールだけではなくシレーナにもクールキャンデーがあるとは、私としてはお味の程を確かめてみた方が良いかと。」
「前言撤回するわ、フレリス。貴女もだいぶ浮かれているでしょう。」
「私はただの一庶民であり一メイドですので。」
「相変わらずああ言えばこう言うのが上手いメイドね……本当に、頼りになる事だわ。」
「お褒めいただき光栄です、お嬢様。」
「褒めてないわよ……。」
「君達、一応言うが今回は観光に来たわけではないのだからな……?」
そんな風にやんややんやと話しながら私達は進んでいく。
因みに今回の発表会で使う大きな機材などは既に会場に搬入、設置済みらしい。
エスセナとウルティハのツテはもちろんだが、コミエドールからも荷物の運搬や提供をしてくれる人達に頼んだ。
久しぶりにコミエドールの人に色々お願いしたが、快く引き受けてくれた人達で安心した。
私がオスクリダ家でのほとんどの権利を持ったままインフロールに来てしまったから、私が居ない間に皆は元気か、コミエドールで変な事(特に両親が何か変な事をしていないか)などを聞いていたが、特にこれといって問題は起きていないそうなので正直ほっとした。
シレーナに入っていくと、段々とこちらを見る人が増えてきた事に気づいた。
コミエドールではオスクリダ家の令嬢だったせいか、こういう視線には何となく反応してしまう。
だが、その視線はあまり攻撃的な物は無い。
むしろ好意的な物が多いように感じた。
その視線に対する疑問はすぐに解けた。
ある女性が声を掛けてきたのだ。
「エスセナ様!おかえりなさい!この時期に学園から帰ってくるなんて、何かあったのですか?」
「やあ、僕のファンの方かな?ちょっとシレーナでやる事があってね。ウルティハや学園の人達と一時帰郷というわけさ!」
「まあ、そうなのですか!今回は、舞台には出るんですか?私、エスセナ様の演技が大好きなんです!」
「おや、そうなのかい?これは嬉しいなぁ。でもごめんね?今回は今のところ、舞台に立つ予定は無いんだ。」
「そうなんですか……でも、こうやって間近でエスセナ様を見れて、言葉を交わせるなんて、今感激していますっ!」
「はは、そうかいそうかい!なら、今後もっと面白い事になるかもしれないんだ、期待してくれたまえ!」
「はいっ!」
どうやら役者としてのエスセナは、私が思っていた以上にずっと人気者らしい。
その女性ファンが声をかけた後、段々と「エスセナ様!」「エスセナ様こっち見てー!」「よっ、シレーナの大女優!」と、エスセナに声をかける人が増えてきて人だかりが出来てきた。
「皆押さないでくれたまえー!一人一人対応するから!ああ、握手なんかはしても良いがサインは今は出来ないからそこは申し訳ないね!」
エスセナが声を掛けながらファンに対応する。
シレーナに着いて早々足止めを喰らったが……エスセナのせっかくの帰郷なのだ、時間には今日は余裕はあるし、今は女優エスセナの働きぶりを見て居よう。
それに、その方が多分、今後優位になる可能性が高いだろうから。
去年の大晦日に風邪を引いて、その風邪が長引いて、ようやく治ったかと思ったら今度はメンタルから来る体調の不調、そしてそれが治ったと思ったら今度はまた風邪のぶり返しで今風邪引いた状態で執筆しています……リハビリとばかりに会話文多めですが。新年早々体調崩しまくりで散々なスタートです……皆様、本当に体にはお気をつけてください。もっと早めに小説の更新したかったのですが、しっかり治さないとなあ。