再撮影、再挑戦、そこに吹く風
「鉄砲雨・改【バーラ・ジュア・レフォル】!」
「雷槍・紫電!」
ウルティハの範囲を絞って威力を強めた鉄砲雨に私は雷属性の魔法を乗せて放つ。
「「「「ボォアアアアアア!!」」」」
それだけで半数の魔獣達が吹き飛んだ。
よし、演出としてはどうかとも思うが戦いとしてはなかなか悪くはないスタートだ。
狼型の魔獣となると、雷や風、光のような高速移動が得意な魔力が使えない人には苦戦しやすい相手だ。
ゴーレムのような遅いが硬い敵の時は私が攻撃を耐えながら高火力の魔法で吹っ飛ばすという方法が基本的になる事が多いが今回の場合は私が注意を引いて攻撃を躱しながら魔法は支援、そしてそこから私が攻撃に転じる、というのが基本パターンになる。
本当はもっと大人数でやるべき戦術だが、私達は恐らくここから増えても後衛にエスセナが入るのと、危なくなったらジュビア先生が支援してくれるくらいだ。
私が上手く前衛をやれるようにならないといけない。
それに、人を護るのは騎士の本分だ。
騎士志望の私がこういう働きが出来ないといけないのは当たり前だと言える。
そういう意味では、何とかしてこれをソルスにも教えれるようにならないとな、と頭を働かせながら、でも演技の事も忘れずに戦う。
騎士としての立ち回り、演技としての立ち回り。
複数を考えながら戦うのは思っている以上に難しい、頭が考え過ぎてるのか熱く感じてくる。
「氷大砲【カノン・イェロ】!」
ウルティハの氷の砲弾が魔獣を吹き飛ばす。
良い感じに数を減らせてる。
これなら私が攻撃に向かわなくてもいずれ殲滅出来るだろう。
この前のゴーレムの時と違い、強い個体の気配は感じない。
魔力による感知には引っかかっていないからだ。
(ふう……。)
心の中で一息つく。
そう思って一旦冷静に状況把握をしよう。
そう思った時だった。
森の中に降り注ぐ、日差しの量が多くなった事に気づいた。
現在時刻はちょうど昼頃。
森の木や葉っぱの日差しを阻む物が太陽の位置によって少なくなったのだろう。
だからといって、別に視界の邪魔になる程の光量では無い。
そう、「普通の肉眼」ならば、邪魔では無いはずだ。
だが、視野をなるべく広く持つようにしていた私の目に、ある物が目に入った。
一匹の魔獣の様子がおかしい事に。
普通に考えれば、魔獣にそんな余裕が有るはずが無い。
獣の知性であっても、恐らく感覚で既に感じている筈であろう。
私とウルティハのコンビは自分達より格上である、と。
自分達は本能のままに狩りをしようとしているが、それでも今、狩られる立場にあるのは自分達なのだろうと。
だから最初は、逃げようとしているのかと思った。
だが、その一匹の魔獣は私達とは違う方向を向いている。
そこには何も無い筈の……。
そこで私は気づいてしまった。
「っ!ウルティ、ちょっと離れる!」
「……!?わかった!」
私の行動に一瞬驚くも、ウルティハも気づいたらしく、すぐに返事を返す。
まあその返事も聞かないままに私は雷属性の魔力を纏って突撃していたのだが。
一匹の魔獣が向かっている先。
それは、草が生い茂る茂み……の中にある小さな光だ。
そうだ。
恐らくだが、魔導機のレンズが日の光で反射して少しだけ光っていたのだ。
私も最初は見間違えかと思ったが、恐らく視覚や嗅覚はやはり狼型の魔獣の方が優れているのだろう。
私達がちゃんとジュビア先生が隠れている位置が分かっていたから、というのもあるが、魔獣が迷わず突っ込んで行った事で私も確信を持った。
偶然だが、距離が離れている位置だ。
雷属性による高速移動でも、向こうの方が先に駆け出していた上に、自分は威力や速度を落とさないように突進するので少し他の敵を迂回してしまう。
このタイムロスが痛い。
(間に合って……間に合え、間に合え……!)
そう思いながら突進する。
魔獣が茂みに向かって、その凶暴な歯を輝かせながら飛び掛かった……時だった。
「……現出。」
小さく声が聞こえた。
と、それと同時に、一陣の風が吹いた。
そして、その風が、風の刃が。
魔獣の身体を、斜めに真っ二つに切り裂いていた。
「えっ……っと!?」
私は慌てて突っ込むのを止めて、無理矢理横方向に方向転換する。
「っつ、たぁ……!」
無理矢理の方向転換にはまだ慣れていないからかつい地面に衝突しそうな勢いの所を、何とか転がって衝撃を逃した。
「あ、あぶな……。」
「おーい、大丈夫かぁ!?」
「う、ウルティ……私は大丈夫よ。」
魔獣の群れを殲滅し終わったのかそれとも数が少なくなって魔獣が逃げたのか。
どちらにせよ魔獣の相手を終わったのであろうウルティハが駆け寄ってくる。
私は無事だと示す為に、立ち上がって制服に付いた土を払う。
そうしていた所に、茂みから人が現れた。
現れたのはもちろん、ジュビア先生だ。
普段通りの服装……と思いきや、足には鎧の下半身のような物が付いている。
恐らくだが、ジュビア先生の現出はこれなのだろう。
風属性の魔力の刃を飛ばしたという事は、蹴りで衝撃波を飛ばした……という事だろうか。
「途中までは良かったが……まあ、まだ新入生が二人で組んで戦うにしてはまだ上出来な方か。」
「申し訳ありません、ジュビア先生の手を借りる事になってしまって。」
「いや、いざという時に生徒のフォローをするのは、教師として当然の事だ。それはそれとして……。」
ジュビア先生は私とウルティハを順に見ていきながら言葉を続ける。
「マルニーニャ嬢。君は雷属性を使った高速移動を中心にした前衛だ。今回は君の一番得意な闇属性を封じながらの戦いだったから全力を出せなかったのは確かに認めはするが……それなら、尚更、気を一瞬抜いたのは今回は失敗だったね。」
「申し訳ありません、先生の方に敵を向かわせるわけには行かないのと、立ち回りを意識しなければいけない事、それを考えているとつい思考にばかり引っ張られてしまいました。」
「うん、それはわかっているよ。それに、一呼吸を入れて戦況を冷静に見るのも時には必要になる。つまり君が間違えたのは、一呼吸入れた事では無くそのタイミングだ。これが騎士になって、力無い人々を護る事になればそれは致命的なミスになるかもしれないが……今は私が顧問だ。私が君達を護る事だって今は出来る。だから、今のうちにしっかり出来るようになりなさい。」
「っ……はいっ!」
「ウルティハ嬢は、流石の地力だ。だが、やはり本来後衛の君が前衛の代わりをやって耐えるのは得策とは言えない。」
「そ、それはわかってるけどよぉ……。」
「状況が仕方なかったのは分かるが、なるべくなら前衛のマルニーニャ嬢と一緒に下がる方が定石だ。基本はそれを守りつつ……。それでも前衛も出来るようになりたいなら、やり方をこれから考えてみなさい。……考える事なら、君の得意な分野だろう?」
「っ……お、おう!もちろんだ!」
私達へ向けた言葉は的確かつ、それで居ながら過度に責めたりはしない。
こういう言葉選びが出来るのも、ある意味流石と言える。
おまけに私が闇属性を敢えて使わなかった事も、その理由も察して言ってくれる辺り、私の闇属性への理解もしてくれるというのが嬉しい。
なんというか……これは確かにときめく生徒が居るのも分かるという気がする。
私もソルスに出会っていなかったらもしかしたらキュンと来ていたのかもしれない。
「あ、そういや先生!撮影!撮影はしっかり出来てたか!?」
「おっと、そうだった。」
ウルティハの言葉に思い出すように魔導カメラを見せる。
小さい方の魔導カメラのボタンをジュビア先生はぽちり、と押す。
すると、私達が戦う様子の映像が流れる。
「「おお……!」」
「私が現出した所は撮ってはいないが……しっかり出来ていて良かった。にしても、やはり凄い魔法だね、この魔法は。」
「へへん、アタシ様の作った魔法だ、当然だろう!」
映像の画質もばっちりだった。
カメラの映像を見ればしっかり私にもウルティハにも迫力ある映像が撮れている。
これは私もつい期待してしまうという物だ。
「では、依頼もこれで達成、やることもやったし、帰るとしようか。」
「「はいっ!」」
ジュビア先生の言葉に私達は達成感に満ちた、喜びの笑みを浮かべて頷くのだった。
まだこのなろうの機能をよく把握していないので、いつかしっかり把握する機会を作りたい物ですね。そしたらもっと表現の幅が広がると思うので。あ、あと、最近始めた新連載作品、「沖牟中奇譚」の方も良ければぜひよろしくお願いいたします。あちらはこちらより連載ペースは遅いと思いますが、まあゆっくりと待ってもらえたら幸いです。