闇の魔法の実験、開始
「現出ぅ!!」
「ついでにアタシ様も現出ぅ!!」
室内訓練場のスペースを使う許可を取り、私達は端の方のスペースを使って実験を開始する事にした。
エスセナとウルティハが現出を行う。
と言っても、武器を出すわけではない。
あくまで今回は闇属性の特性の研究、というわけで、わかりやすいように様々な属性の四角いブロックを複数作っていく。
二人で光と闇以外の属性のほとんどの研究をやっていると言うだけあって、属性に合わせた色のブロックが出来上がって行く。
「っと…よし、こんなものかな!」
「だな!うし、んじゃ次はマルニの番だぜ!」
「わかった、わかったけど、その…。」
「んん?どうかしたのかい?まさか、体調が悪いとか?それならまた後日にするけれども…。」
「い、いやそうではないのだけれど…。」
確かに協力すると言ったのは自分だ、そしてそれを取り下げる事も考えてはいない。
だが…その、環境が悪いというか何というか…。
私は周りの人達を見る。
「「んん???」」、とエスセナとウルティハもその視線に釣られて周りを見る。
この室内訓練場、もちろんだが訓練場丸々を貸切るという事は個人の申請ではまず通らない可能性が高い。
訓練場なのである程度魔法や物理的な破壊力等に耐える耐久性も必要だし、備品などもあるし、安全装置…の代わりとなる防護魔法の管理などもしていなければならない。
それ故に、ここは共用スペースなのだ。
そして共用という事は、もちろん他の生徒も居るわけで…。
要するに、さっきから滅茶苦茶見られている。
「『役者奇人』に『魔女』、そして『闇魔法使い』…。」
「変人…というか、悪人の集まりかしら?」
「僕達は巻き込まれないようにしないと…」
ひそひそ、ひそひそ。
噂されてる、普通に聞こえてるけど噂されてる。
明らかに警戒されている…というか、明らかに嫌がられている。
社交の場で噂話しながら警戒される事はあったが、ここまで露骨なのは初めてかもしれない。
もしかしたら、これからは同じような事…いや、下手をすればこれ以上の事が学園生活では待っているのだろうか。
そう考えると流石に若干げんなりしてくる。
だがそれに対して二人は元気だ。
「なあに、噂されるのを気にしていたのかい?君は意外と繊細だなぁ!」
「周りで陰口叩くしかできない奴らなんてほっとけほっとけ、何か絡んでくるなら実力で分からせれば良いんだしよ!それより実験実験!」
敢えてか周りに聞こえそうなくらいの大きな声で言う二人。
周りの噂話のざわざわが大きくなるが本当に気にしていないようだった。
…ちょっと大雑把というか、強引な所もあるけれど…このメンタルの強さは見習うべきなのかもしれない、とは少しだけ思った。
「わかった、わかったわよ…じゃあ、行くわ。」
やれやれと息を着くも、少しだけ周りからの雑念が気にならなくなってきた。
気を取り直して、手をブロックの方向に向ける。
「浸食の特性の研究なら、やりやすい方から行くわよ。」
「おう、それで構わねーぜ。」
「なら…黒の沼【ネクロ・パンタ】。」
私の瞳の色は、深い紫と水色の輝きが現れただろう。
闇属性と水属性の複合魔法だ。
幼少期は氷属性と水属性の力が不安定だったが、今ではある程度ならコントロール出来るようになってきていた。
浸食、という事で闇の水がブロックを染めて喰らうイメージ。
そしてそのイメージ通りになってきた。
ブロックが黒とも深い紫とも言えるような色に染まってきた。
同じ色、墨などとは違う黒い水が床に、まさに沼のような水たまりが広がり、ブロックを浸食していく。
「お、おおう…確かになんだか力が抜けていく感じが…。」
「簡単な現出だけでもなんだか不思議な気分だよ…本格的な魔法が浸食されたらこの比では無いだろうね…!」
多分今、私の魔法で浸食している分魔力が一時的に魔力を奪われているであろう二人だが、何故だかちょっと楽しそうである。
というか、恍惚としているような…。
(もしかして、二人共変態なのかな…)と、思わず心の中で呟いてしまった。
まあ、魔力はしっかり休めば大体一日で回復するからあまり気にしなくて良いとは思うが。
「よ、よーし、次の魔法行ってくれー。」
「わかったわ…。闇の風【オスク・エント】。」
次は闇属性と風属性。
闇の風がブロックを闇の色に染めていく。
先程の黒の沼が下から上に浸食していくとしたら、この闇の風は横から浸食していく感じだ。
「ふむ…魔力を奪われている感覚はあるけど、さっきまでの…足に纏わりつくような感じは無いな。」
「もしかしたら、先程の魔法は泥濘を生み出して移動を阻害するような力もあるのではないかな?」
「そうね、水と氷の魔法を使った魔法は、私では移動の阻害くらいしか出来ないわ。」
そもそも私には水属性や氷属性の魔力が少なすぎるのだ。
闇属性で補助をしてようやくまともな使い道が生まれるというレベルだ。
だから氷属性も似たような結果になるであろう事は先に言っていた方が良いだろうという判断だった。
「それは実際見てから確かめるわー。」と言われたのだが。
とはいえ…さっきから何だかんだ良い反応を返してくる事が少し楽しくなってきた。
それに、自分の力をこうやって調べて行くのは…なんというか、研究というのもあるが、なんというか…。
(これって、クラブとか部活みたい…?)
そう考えると少し乗り気になってきた。
「次は私の得意技で良いかしら?あまり浸食とは関係が無い気がするけど。」
「お、良いのか?是非見せてくれ!」
こう返事が返ってくるのだから、自分も応えねばなるまい。
「…現出。」
黒雷の槍が私の元に現れる。
黒の雷がそのまま槍の形を成す。
その槍を私は手に取ると私はその槍を一度大きく振り回す。
槍から弾けるように拡散した雷がブロックに絡みつく。
そして、槍の刃先に私は力を溜めて…解き放った。
「…黒紫の雷【ネグロビオ・トレーノ】・散!」
槍をもう一度大きく振るう。
黒い雷撃は『マーキング』したブロックに向かって超高速で向かっていく。
その一撃が当たったブロックは今度は砕けた。
少し力を入れすぎたかもしれない。
だが、得意な闇属性と雷属性を使った魔法なのだ。
これくらいの威力があっても当たり前ではある。
「ふっ…どうかしら。」
多分今、少しどや顔しているのかもしれない。
少し自信が溢れるような表情を作ってみる。
…だが。
「…お前なにブロック壊してんだぁ!」
「現出を毎回毎回壊されたりしたらいくら何でも疲れるじゃないか…。」
ウルティハには怒鳴られ、エスセナには明らかに呆れたような顔で見てきた。
…どうやらやりすぎて私は怒られてしまったらしい。
(や、やらなきゃ良かった…)
そんな事を思いながらこの日の研究は終わったのであった。
春眠暁を覚えずと言いますが、寒いような暖かいような不思議な陽気が続きますね…。布団の中がまだまだ恋しい季節で、眠気にも耐えながら、環境の変化にも耐えながら、体調に気をつけて頑張りたいと思います。




